第三話 仕送り
「えーーーー! 仕送り減額って何で!?」
『何でじゃないでしょ! 一体学校の備品いくつ壊したらこんなに莫大な請求がくるの!!』
「うっ」
職員室に着くやいなや、実家から急ぎの電話が入っているとのことで意気揚々と出ると、まさかの仕送り打ち切りの知らせに絶望するティルロット。
とはいえ、思い当たることばかりで反論できない。
「でもでもー! お母さんなら私がモノを壊すのなんて想定済みだったでしょ? それに、魔力を制御するために学校に来てるんだし、もうちょっと頑張れば……多分そのうち、きっと、いやすぐにでも壊さなくなるから!」
『はぁ、……ティルロット。そうは言うけど、さすがにもうこれ以上の出費はキツいのよ。我が家の資産が大してないことくらいわかってるでしょう?』
「そ、それは……わかってる、けど……」
母の言葉に、何て返せばいいのかと言い淀む。ティルロットなりにやらかしてる自覚はあった。
だが、ただでさえ少ない仕送りがこれ以上減らされるわけにはいかないティルロットは、必死にどうにかならないかと抗う。
「……でも、保険入ってるから多少はどうにかなるって」
『多少なら、ね。でも、いくら保険に入ってるからって上限オーバーしたら払わなきゃいけないの。今月だけでも貴女、いくつ備品を損壊させたか覚えてる?』
「え、っと……」
指摘されて思い返すも、数が多すぎて覚えていない。しかも、今日さらに校庭を炎上させて焼け野原にしたあと森を生やしたなんて言えなかった。
ティルロットは言い訳が尽きて頭を抱える。
「でも、仕送りが減るだなんて……私これからどうやって生きていけばいいの?」
不安に声が震える。仕送りなしでは生きていけない。
特に食費がかなりの割合を占めているティルロットにとって、今でさえカツカツなのにこれ以上節約するのは難しかった。
『それなんだけど、学校に聞いたらバイトは認められてるって』
「え? そうなの?」
NMAは進学校なのでバイト禁止だとずっと思っていたティルロットは、思わぬ情報にちょっとだけ希望を見出す。
『もちろん、貴女は特待生なのだから勉学が優先ではあるけど、ちょっとくらいならバイトする元気は残ってるでしょう?』
「うん。まぁ、普通の生活してるだけなら魔力も余ってるし、問題ないとは思うけど。……でも、私にできるかなぁ。減額分を補填できるくらい稼げればいいけど……」
『大丈夫よ、今以上にモノを壊さなければそこまで働く必要はないんだから。そのうち魔力調整ができるなら、大したことないでしょう?』
「そ、それは、そうかもしれないけど……」
『とにかく、そういうことだから。早く魔力の調整を覚えてモノを壊さないようにすること。いいわね?』
「…………はぁい」
念押しされて渋々返事をする。
ティルロットも、これ以上ごねたところで他にどうすることもできないことはわかっていた。
『そんな情けない声出さないの。ティルロットならやればできるって信じてるわ。筆記は完璧なんだから、あとは魔力調整だけでしょう? だから頑張って。お母さんもできるだけのことはするから、ね?』
「うん。わかった」
通話が切れた受話器を見つめながら「はぁ」と溜め息をつくと、ティルロットはそれを元に戻した。
「今日はツイてない」
仕送り減額はティルロットにとってかなりの死活問題だ。
魔力食らいのティルロットは大食いによって魔力を補填しているので、いつも通りの大食いができなくなると魔力枯渇による魔力暴走をしてしまう可能性がある。
魔力暴走の末路は大体が死。
今までも魔力の使いすぎで何度か倒れたことがあるティルロットとしては、なんとしてもそれだけは避けたかった。
とはいえ、ティルロットも母の言い分がわからなくもない。
そもそもティルロットは庶民の家で、ティルロットが幼いころに父を病気で亡くした母子家庭。
今NMAに通っているのも特待生ということで学費が免除されていて、だからこそ仕送りが可能だったわけだが、備品破壊による出費は計算外だったのだろう。
しかも一つ二つどころの量じゃないため、かなりの痛い出費であるはず。女手一つで働いて養ってくれている母に、これ以上無理をさせるのは難しいのもわかっていた。
できればすぐにでも魔力調整ができるようになればいいのだが、そうは言っても簡単にできるなら苦労しないわけで。
母にはあんなことを言ったものの、魔力の制御をできる目処は今のところ立ってはいない。
「バイトかぁ。でも、とにかくやれることはやらないとだよね」
ずっと母に甘えっぱなしはよくないと、とにかくできるところから始めようと決意するティルロット。
駄々をこねたり甘えたりはするものの、彼女は前向きなのが取り柄だった。
「そうと決まれば早速リサーチリサーチ!」
ティルロットは覚悟を決めると、すぐさま学生課に乗り込む。
色々と物を壊していたことで学生課には顔馴染みなティルロットは、職員と一緒になるべく勉学に支障が出なくて自分にもできる時給のよいバイトを探すのだった。