第二十六話 デザート
「じゃーん、今日のデザートはプリンでーす!」
あんなにも所狭しと置かれていた料理たちはあっという間に二人に食べられ、皿の上は綺麗サッパリなくなっていた。
ということで、残すは〆のデザートのみだ。
「うわぁ、美味しそうだね」
「えへへへ、このプリンは特別だからね〜」
「そうなのかい?」
「うん。これはね、お母さんの秘伝のレシピのプリンなの。私が具合悪いときはいつもこれを作ってくれるんだけど、このプリンを食べるとすぐに元気になるし、とっても美味しいんだ〜」
普段は仕事が忙しく、なかなか家事に手が回らない母だが、ティルロットが体調不良のときはいつもこの特別なプリンを作ってくれていた。
それがとても嬉しくて美味しくて、ティルロットはこの母のプリンが大好きなのである。
「そんな特別なプリンが食べられるだなんて嬉しいな」
「と言っても、私のプリンはまだまだなんだけど。レシピは教えてもらってるのに、なぜかお母さんのとはちょっと味が違ってて美味しさが半減しちゃってるんだよね。だからまだ修行中」
「そうなんだ。それなら、今度ぜひティルロットの母君のプリンも食べてみたいな」
「ぜひぜひ! 絶対に美味しいから、食べに来てよ! あ、でもいきなり家に王子様来たら、お母さんびっくりしすぎて気絶しちゃうかも」
軽口を言い合い、いつものように笑いながら楽しくデザートのプリンを食べているときだった。
「__シェザード王子〜! シェザード王子、どこにいらっしゃるんですかー!?」
遠くから聞き覚えのある声が聞こえて、ティルロットとシェザードは示し合わせたかのようにバッとお互いを見合った。
「今の声!」
「まずい。ジェラルドだ」
声の大きさ的に、もう近くまで来ているのだろう。
二人は慌てて立ち上がり、どこか隠れる場所はないかとあたふたし出す。
「どうしよう。バレないように、お皿を片付けたほうがいいかな」
「もうそんな時間ないよっ。とにかく、見つからないように私達が隠れないと! どっか隠れる場所……って言ってもここ隠れる場所何もなーい!」
周りを見回しても食堂なので椅子と机のみ。
厨房に行ったところで、冷蔵庫は論外。棚には食器がぎっしり詰まっていて、隠れられるような場所などはなかった。
「あー、どうしよう! シェザードの認識阻害の魔法を使って誤魔化すことってできる?」
「ごめん。あくまであれは誤魔化すためのものだから、人混みもない何もない空間では認識阻害の魔法は効果ないんだ」
「そっか、そうだよね。あー、他に何かいい方法……って何も思いつかないー! でも、このままじゃ見つかっちゃうし、どうしよう……っ」
あたふたしている間にも、だんだんと近づいてくるジェラルドの声。
シェザードが夜食を食べてることなどバレたら、あのジェラルドのことだ。今後シェザードは夜食禁止令を出されて一生夜食を食べられないかもしれない。
せっかく夜食を共にする友達が見つかったというのに、それだけはどうにか避けたかった。
「ティルロット。こっち!」
「こっちってどっち!?」
シェザードが手をバッと大きく広げる。
ティルロットは訳がわからなくてあわあわしていると、シェザードに腕を掴まれて思いきり引き寄せられた。
「僕にくっついてて。透過魔法を使うから」
「え、透過魔法!? 私使えないけど、大丈夫なの!?」
「うん。僕が効果の範囲を広げたらティルロットも一緒に隠せるよ。あ、でも、僕にくっついて動いちゃダメだよ。動くとバレちゃうから。あと、声も出さないように」
「わ、わかった……っ」
王子様に抱きつくだなんて、不敬どころの話じゃないのでは!? と一瞬頭をよぎるも、今はそれどころじゃないと、思いきりシェザードに抱きつく。
そして、シェザードもティルロットを抱きしめるように腕を回すと、すぐに小さな声で呪文を唱えた。
「ここでやりすごすから、頑張って耐えて」
耳元で囁くシェザードの言葉に、静かにこくこくと頷く。そのまま、シェザードの胸板に顔を埋めるような形で、ティルロットは息を殺した。




