第二十五話 お祝い
「いぇーい! かんぱーい!!」
「乾杯!」
「んー! 肉汁がたっぷりジューシーで美味しい〜! さすが私!」
「うん、どれも全部すごく美味しいよ。やっぱりティルロットの料理の腕前は世界一だね」
いつもの夜食とは違い、食卓には大量の豪勢な料理の数々。
ステーキにグラタン、唐揚げにサラダにパイにカルパッチョにと美味しそうな料理が並んでいた。
はたから見たら二人ぶんにしてはかなり多い量だが、大喰らいのティルロットとシェザードにとっては普段よりちょっと多めくらいの量である。
では、なぜいつもより多い量かと言えば、今日の夜食はお祝いだからだ。
というのも、先日あった学期末テストがついに返却され、ティルロットもシェザードもなんとほぼ全教科満点。
勉強会をした甲斐あって、実技含めても最終的に学年順位はティルロットが一位、シェザードが二位と二人がツートップを取るという素晴らしい結果になり、今回は二人のお祝いと称していつもの夜食よりも豪華にしていた。
「でもまさか、二人でツートップ取れるとはね」
「もー、全部シェザードのおかげだよー! どうもありがとうー!」
「いやいや、ティルロットが頑張ったんだよ。僕は大したことしてないから。……あと、できればもうちょっと声のボリューム落としたほうがいいかも」
「あ、ごめん。そうだった、今は夜だった。あんまり騒いだら怒られちゃうよね」
シェザードに指摘されて、慌てて口を噤むティルロット。つい嬉しすぎて夜だというのにはしゃぎすぎてしまったことを反省する。
「いや、怒られるというよりも、どっちかって言うとジェラルドにバレたら困るっていうか……。どうも最近になって僕が夜に部屋にいないことに気づいたみたいで、よく探し回ってるらしいんだ」
「そうだったんだ。え、ちょっと待って。逆に気づくの遅くない?」
相当シェザードが誤魔化すのが上手かったのか、ジェラルドの興味がなかったのか。
一応、ジェラルドはシェザードの護衛なはずなのに、かれこれ半年以上経ってから今更シェザードの不在に気づくというのは遅すぎやしないかと、ちょっと呆れるティルロット。
「僕としては、下手に言い訳しなくて済んでたから楽ではあったんだけどね」
「そっか。まぁ、バレたら色々と面倒だもんね。どうする? ちょっと夜食の頻度を減らす?」
「それは嫌だ!」
食い気味に拒絶するシェザードに、面食らうティルロット。シェザードにしては珍しい反応に、そんなに夜食が好きなのかと考えを改める。
「ごめん。そうだよね。夜食の頻度減らしたら、シェザードがまた我慢することになっちゃうもんね」
「あ、いや、うん。それもそうなんだけど」
「……うん?」
何か言い淀むシェザード。
ティルロットがシェザードの顔を覗き込むように見れば、彼は顔を真っ赤にして慌て出す。
「えっと、その、ほら、身長! 夜食のおかげで身長もすごく伸びたから……できれば、夜食の頻度は減らしたくは、ない……んだよね」
「そういえば、確かにシェザードの身長すごく伸びたよね」
元々ティルロットよりも頭一つ分高かったが、今ではもう頭一個半ほど大きい。ずっと一緒にいるせいか意識してなかったものの、改めてよく見ればシェザードの身長がかなり伸びていることがわかった。
「やっぱ栄養って大事ってことだね。もうジェラルドの身長も超えてるんじゃない?」
「あんまり意識してなかったけど、言われてみればそうかも」
「ふふ、これで一個ジェラルドに勝てる部分が増えたね」
ティルロットが悪戯っぽく笑う。
シェザードがジェラルドに勝てる部分が増えることが、なぜか自分のことのように嬉しかった。
「シェザードがこんなに大きくなってくれて、夜食を作ってたかいがあるよ」
「ティルロットはお母様みたいなことを言うんだね」
「もー、やめてよ。そんなつもりで言ったんじゃないし。そもそも、こんな大きな子を産んだ覚えはありませんー」
「はは、冗談だよ」
ティルロットが膨れながら抗議すれば、シェザードが笑う。以前に比べてシェザードは冗談を言ったり笑うようになったりした気がした。
「そういえば、シェザードのお母さん……王妃ってどういう方なの? 昔に私が見た感じだと、すごい清楚で上品なイメージだけど」
世間知らずなティルロットも、さすがに王と王妃は見たことがあった。かなり幼い頃ではあるが、第三王子が生まれたときのお披露目会で二人を目にしたときはあまりにも尊い二人に目が釘づけになった記憶がある。
「んー、どういう人かって言われると……なんて言うんだろう。優しい人ではある、かな? あまり僕自身何かを言われた記憶はないけど、いつも見守ってくれてるイメージはあるかも。ティルロットの母君は、どんな母君なんだい?」
「うちのお母さん? うちのお母さんは……すごくアグレッシブな人かな。お父さんがいない代わりに何でもこなしちゃうような人だよ。私が魔力オバケなら、お母さんは体力オバケって感じ」
「それはすごいね」
魔法こそ使えないものの、ティルロットの母は朝から晩まで働いても泣き言一つ言わないバイタリティに溢れる人だった。とても社交的で明るく、何事にもポジティブなところは母親譲りである。
「あ、あとこれは私のせいだと思うけど、無茶しすぎるせいかちょっと心配性なところはあるかも。すごく小言は多いかな。最近やっと魔力制御できたのは喜んでたけど、今度は友達いないの? とか心配し始めてるし」
「あー……それは我が家もそうかな。お母様はとても心配性ではあるかも」
「ははは、階級は違えどどこも同じなんだね」
「そうだね」
王族と庶民。
階級では雲泥の差があるが、生活の質の差異はあるにせよ、本質的な部分はあまり変わらないのかもしれないと思うと、ちょっと面白かった。
「昔から僕は引っ込み思案で人見知りなせいか、余計に心配みたい」
「そうなんだ。なら、きっと今のシェザード見たら驚いちゃうね。いっぱい食べて笑ってこんなにもお喋りしてるもの」
「それは間違いない」
マシュリーも言っていたが、多分シェザードは以前の彼と比べて変わったのだろう。しかもいい方向に。
そう思うとティルロットはなんだか嬉しかった。




