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第二話 王子

「な、何の騒ぎ?」

「あー、……王子が来たみたいね」

「王子?」

「シェザード王子よ。我がブルデリス国の麗しき第二王子様」


 ティルロットが目を凝らすと、そこにはセミロングの金色の髪をした背の高い男性がいた。周りには護衛らしき人が何人もいて、どうやらあれが第二王子のシェザードらしい。


「へー……」

「その反応、さては知らなかったでしょ」


 図星を当てられてギクリと身体を強張らせるティルロット。マシュリーは何でもお見通しだった。


「う。だって〜」

「いくらティルロットでも、さすがにブルデリス国出身なら王子の顔くらい覚えておきなさいよ」

「そうは言っても、庶民の下下下の私にとっては縁も所縁もない人だし。祝祭とかにも参加することなかったから、見たことなかったんだよ。……って、そういえば、マシュは親類なんだっけ?」

「まぁ、一応遠い親戚ではあるわね」

「さすが公爵令嬢」


 公爵令嬢という肩書きがあることを忘れてしまうほどいつもティルロットに気安く接しているマシュリー。

 だが、こうして王子との繋がりなどを聞くと改めてマシュリーは凄い人なんだと再認識する。


「今更だけど、マシュは私なんかと友達でいいの? 虐められない? 大丈夫?」


 ティルロットが不安げにマシュリーを見つめれば、彼女は突然ティルロットの額を弾く。あまりに強烈な不意打ち攻撃に、思わずティルロットは涙目で額を押さえた。


「いったぁ〜い!」

「何を今更言い出すかと思えば。随分と今日は自虐的じゃない? 私ってそんなに信用ないかしら?」

「うー。別にそういうわけじゃないけど……ちょっと不安になっちゃって。私のせいでマシュに嫌な思いしてほしくないし」

「そんな気遣いはしてもらわなくて結構よ。私は付き合いたい人と付き合うの。誰に決められることでもないし、そもそも私に文句言う人なんてそういないわよ。これでも一応公爵令嬢だからね」


 そう言ってウインクして見せるマシュリー。そのあまりのカッコよさにときめくティルロット。


「一生ついていきます、姉御!」

「ティルロットって変わってて本当に面白いわよね。一緒にいて飽きないわ」


 ティルロットがヒシっとマシュリーに抱きつけば、よしよしと頭を撫でられる。男前でありながらも母性溢れるマシュリーにティルロットがうっとりしていると、再び騒がしくなる食堂内。

 つい視線をそちらに向けると、どうやらシェザードたちの周りが騒ぎを起こしているらしい。


「シェザード王子、わたくしたちと一緒に食べませんか?」

「シェザード王子! こちらのお席いかがです?」

「どけどけ! 貴様ら! そんなに群がっては、シェザード王子がお食事を取れないだろう!?」


 シェザードに群がる生徒たちを蹴散らすように声を張り上げているのは恐らく従者のようだ。服装から生徒のようであるが、かなり背が高く同年代には見えないほど大柄であったのでもしかしたら年上なのかもしれない。

 近寄ってくる生徒たちをことごとく追い払っている様はとても乱暴に見えた。


(態度悪すぎ。いくら従者だからってもうちょっと言い方とかあるでしょうに)


 一方、シェザードは彼の背後で申し訳なさそうに眉を寄せて、他の生徒たちに何かを謝っているように見える。従者とは正反対の態度だ。そのおかげか騒がしいは騒がしいものの、喧嘩のようなトラブルには発展していないようだった。


(周りに配慮してるところを見ると、王子のほうは物腰が丁寧なようね。でも腰は低そうなのに、オーラがあるのはさすがというべきか)


 遠目から見ても顔立ちはよさそうなことはわかる。気品が溢れているのか、魔力が優れているからか、纏っているオーラは人並み外れたものだった。


(さすが王子だな〜。きっと普段からいいものを食べてるだろうなぁ。やっぱ食べてるものが違うとオーラも違ってくるのかしら)


 そんな不敬なことをシェザードを見ながらティルロットが思っていると、不意にバチリと王子と目が合ったような気がした。


「うん?」

「どうしたの、ティルロット。何かあった?」

「ん? ううん。何でもない」


 マシュリーに聞かれて首を振る。

 再びシェザードを見ても、もう視線はこちらに向いていなかった。


(いやいや、まさかね。私じゃなくてきっとマシュのことを見てたのね)


 マシュリーは公爵令嬢という肩書きだけでなく、目を引くほどの美人でもあるためよく男子生徒の視線を集めている。

 ティルロットでさえもまだ入学したばかりの頃は「あの子は天使か、それとも女神か!?」と見惚れてしまうくらいにはマシュリーを目で追っていて、友達になろうと声をかけられたときは嬉しすぎて昇天しかけたほどだ。


 だからきっと親類とはいえ、シェザードもマシュリーの美貌に釘付けになってしまったのだろうと思い直して意識を食事に戻す。

 まだまだ食事は半分以上残っているし、次の授業は魔法基礎の試験があるのであまりゆっくりもしていられなかった。


「てか、ティルロットと王子って同寮のはずじゃない? 火の寮で会ったりしなかった?」


 NMAはハウス制度を取っていて、火・水・木・工・星の五つの寮にわかれている。

 生徒は入学時にそれぞれ適正ごとにわけられ、火は火の魔法に優れ、水は水の魔法に優れ、木は木の魔法に優れ、工は魔法力のこもった魔道具の作成に優れ、星は占星魔法に優れている者が入寮することになっていた。

 寮は入学から卒業まで特例を除いて変わらず。

 同じ寮生であれば、基本的に学生生活を共にすることが多いはずなのだが。


「んー、記憶にないなぁ。同寮って言っても男女別れてるし。そもそも私、庶民だからあてがわれてる部屋もなんていうか」

「え? ……もしかして、貴族の子たちから部屋を隔離されてるとかじゃないでしょうね?」


 ついうっかり口を滑らせると、すかさずずずいと顔を近づけてくるマシュリー。


 彼女はイジメが大嫌いで、特に差別に対しての嫌悪感が人一倍あった。

 そのため、ティルロットが階級差別による理不尽な目に合っていることを知ると、いつも怒りを露わにするのだ。


「いやいや、マシュ恐いから。せっかくの美人が台無しよ?」

「話を誤魔化さないでちょうだい」


(美人は怒ると怖いと聞いたことがあるけど、本当に怖い!)


 マシュリーの鬼気迫る気迫にたじろぐティルロット。余計なことを言ってしまったと気づいても後の祭りだ。


「えー、と、まぁ、見た目は物置みたいなとこだけど、一年生なのに一人部屋だし快適といえば快適よ?」

「それ、明らかにハブられてるじゃない! ちゃんと先生に言わないと!!」

「言ってどうにかなる問題でもないし、そもそも私は別に不自由してないというか……」

「そうは言っても『あーあー、一年の火の寮生ティルロット・グレージアさん。お伝えしたいことがありますので、至急職員室までお越しください。繰り返します。一年の……』」


 マシュリーが言いかけたところでティルロットを呼び出す校内放送が流れる。

 ティルロットはマシュリーからの追及から逃れられることへの喜びを隠しながら「呼ばれちゃったからすぐ行かないと!」と校内放送を口実に、慌てて席を立った。


「もう! そういうときだけ逃げ足が早いんだからっ! てか、食事は……って、いつの間に食べたの!? さっきまで半分以上残ってたはずなのに」

「ふふふ。秘技、早食い! ということで、私ちょっと職員室に行ってくるねー!」

「全くもう。逃げ足は速いんだから。食べたばかりなんだから気をつけていってらっしゃい」

「はーい!」


 ティルロットは食器とトレイをまとめて積み上げて持ち上げると、そのまま食器返却コーナーへと持って行く。

 そして、食堂の人に「ごちそうさまでした!」と言うと、職員室へと急いで向かうのだった。

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