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王子様は夜食がお好き  作者: 鳥柄ささみ


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第十五話 緊張

(ちょっと待って。今更だけど、もしかして私ってば大胆なことをしてしまったのでは……?)


 部屋を片付けながら、あることに気づいて青褪める。


 というのも、何気なく誰にもバレないからと安易に自室にシェザードを呼んでしまったが、よくよく考えてみれば王子を部屋に呼ぶのもマズいが、そもそも異性を部屋に招き入れるというのはどうなのかと今になって気づいたからだ。


(あー、バカすぎる私。女子寮に来るのに抵抗があるそぶりを見せてたところで気づけばよかった……っ!)


 シェザードが来るのを躊躇っていたときも、男子が女子寮に入るのがルールとして禁止されていることだけに気を取られていたが、本来なぜ男子が女子寮に入ってはいけないかを失念していた。


 友達もいなければ、好きな相手がいるわけでもないティルロットはその思考がすっぽりと抜け落ちていて、異性と密室という状況をよく理解しておらず、己れの愚鈍さに頭を抱える。


 万が一、そのような状況になってしまったら……なんて不埒なことを考えている自分に気づいて、ティルロットは慌てて頭を振って思考を散らした。


(いやいやいやいや、ただの友達だし! 王子様とか異性とかの前にただの夜食仲間だから。シェザードだってそんなこと考えてないし。ただの期末勉強なんだから。不純異性交際とかないない)


 自分の愚かな思考を恥じながら、掃除に専念することにする。

 そして、邪念を払うかのごとく一心不乱に掃除に集中したおかげで、ティルロットの部屋はいつもよりもかなりピカピカに、チリ一つ落ちてない綺麗な部屋になったのであった。



 ◇



「あー、なんか緊張してきた」


 もうすぐ待ち合わせの時間なため、寮のラウンジに一人座って待つティルロット。


 休日ということもあり、寮生活してる生徒はほとんどが出払っていて周りには誰もいない。それはティルロットにとってそれは好都合ではあるのだが、人がいなかったらいなかったでなんとなく余計に緊張してくる。


「服、変じゃないよね」


 鏡で何度も念入りに自分の姿を確認するティルロット。


 さすがにいくらオフとはいえ、王子様の前でいつもみたいなパーカーにスウェットのような格好をすることはできず、今日は綺麗めなシャツの上に厚手のニットのカーディガンとレースがついているフリルつきのロングスカートというちょっと甘めなテイストのよそゆきコーデだ。

 基本的に身嗜みなど億劫で、よくマシュリーから叱られているティルロットからしたら、かなり頑張ったオシャレである。


「よし、大丈夫。あとは、周りにバレないようにするだけ」

「何が大丈夫なんだい?」

「うわぁ! ……シェザード驚かさないでよ」


 いつのまにか近くにいたらしいシェザードから声をかけられて、思わず飛び上がるティルロット。驚いたせいで大きな声を出してしまい、慌てて手で自分の口を塞いだ。


「ごめんごめん。そんなに驚くとは思わなくて」

「もう、バレたらどうすんの」


 驚かされたぶん、小言を漏らすティルロットに申し訳なさそうにするシェザード。ティルロットがキョロキョロと周りを見回すと、相変わらず誰の気配もないのでホッと胸を撫で下ろした。


「一応人避けの魔法は使ってあるよ。念のため、もし見られたとしても大丈夫なように、忘却の薬も持ってきた」

「シェザードってば、用意周到だね。とりあえず、ここでぐだぐだしてバレても嫌だから、さっさと私の部屋に行こうか」

「そうだね。そうしようか」


 ちらっとシェザードを見ると、さっきは驚いてよく見ていなかったが、デザインシャツに落ち着いた色のシンプルなニットセーターとシンプルなスラックスという普段の制服姿とは違って見慣れない姿に、ちょっとだけ胸がドキドキする。


(さすが王子様。私服も気品がある)


 これならいわゆるドレスコードがあるお店でも大丈夫そうだなと思いながら、自分の格好がなんだか幼いような気がして、ティルロットは少しだけ恥ずかしくなった。


「女子寮って初めて入ったよ」

「バレたら大ごとだね。ジェラルドが怒り狂っちゃう」

「それは間違いないね」


 言いながらちょっと緊張しているのがわかる。王子が女子寮に忍び込むなど前代未聞だろう。


 だからこそ、バレないようにそそくさと女子寮に入ったあと、すぐさま自室へと繋がるドアの前にやってきた。


「ここから入って」

「え!? こ、ここ……?」

「うん、ここ」


 シェザードが困惑するのも無理はない。目の前にあるのは誰がどう見てもちょっと小汚い物置小屋。

 それが自分の部屋だと言われたら誰だって戸惑うだろう。


「冗談……って、わけじゃなさそうだね」

「うん。でも大丈夫。見た目はこんなんだけど、中はきちんとしてるから。入りづらかったら先に私が入ろうか?」

「いや、大丈夫。僕はティルロットを信じるよ」


 まっすぐ見つめてくるシェザードに気恥ずかしくなりながらも気取られないように「じゃあ、どうぞ」と彼を促すティルロット。

 シェザードは多少戸惑う様子は見せたものの、意を決したようで中に入っていった。

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