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第十二話 友達

「はぁ、いざやるとなるとなんだか緊張する」


 夜食を食べ終えるやいなや、いつもの練習場所である食堂の外の裏手に出て、早速魔力制限の練習を始めようとするティルロット。


 だが、先程まではできそうだと思っていたはずなのに、毎度毎度失敗の連続なせいで、またやらかしてしまわないかと土壇場になって緊張していた。


「大丈夫。大丈夫。いつも通り、料理作るときみたいな意識でやればきっとできるよ」

「うぅ。なんかさっきまでできそうな気がしてたけど、やっぱりなかなかすぐに意識しろって言われても難しいよ〜」


 言うだけ簡単ではあるが、実際やろうと思ってみてもそう上手くいくわけがなく。緊張で手は汗でビチャビチャ、喉はカラカラで、心臓はドキドキしてしまって、思うように気持ちの切り替えをするのは難しかった。


「大丈夫、ティルロットならできるよ! ほら、目を閉じて手を出して。手のひらをコンロだと思ってごらん」

「手のひらがコンロ……」

「そこで火加減を思い浮かべながら魔力を出すんだ。もし最初に勢いよく魔力を出しすぎちゃったとしても、弱火にするときみたいに魔力を制限すればいいから。まずはゆっくり、落ち着いてイメージするんだ」

「でも、もし失敗したら?」

「安心して、もし失敗しても僕がどうにかするから」

「……うん、わかった」


 心強いシェザードの言葉に促され、ティルロットは言われた通りに手を出す。

 そして、ゆっくりと目を閉じると手の上にコンロがあることを想像した。


(火加減。火加減……)


 魔力を手のひらに集めていく。

 それを強く出しすぎないように調整しつつ、微弱ながら放出させていった。


「炎のイメージは優しく柔らかいものをイメージして。そうだな……弱火というよりもとろ火をイメージしたほうがいいかな」

「弱火じゃなく、とろ火……」


 炎がゆらゆらと柔らかく揺れているところを想像する。

 消えそうで消えないほどの火加減。それをイメージしながらティルロットは意を決して「炎よ。爆ぜよ」と呟いた。


 ぼうっ!


「ぅわっ!」

「大丈夫だよ。ティルロット、落ち着いて。いい感じだよ。そのまま火加減意識してみてごらん」

「わ、わかった……っ」


 最初こそ強く出てしまったものの、その後火加減をイメージするとだんだんと勢いがなくなり、手のひらで舞い踊るように優しくゆらめいている炎。

 ティルロットはそれをまじまじと見つめたあとに、じわじわと身体の奥底から歓喜が沸き起こるのを感じた。


「ぃやったーーーー! すごい! すごいよ!

 シェザード!! 大成功だよ!!」

「すごいよ、ティルロット! やったね!!」


 ティルロットは嬉しさのあまりすぐさま手の炎を消すと、勢いよくシェザードに抱きつく。興奮してそのままとぴょんぴょん跳ねると、シェザードも同じように抱き合いながら一緒に飛んだ。


 その後お互いに見つめ合って、顔の近さに気づいてハッと我に返ったティルロットは、自分のしでかしたことに気づいて慌ててシェザードから飛び退くように離れた。


「うわぁ! ごめん! 王子様に私、なんてことを!?」

「大丈夫だよ。僕しか見てないし、僕は気にしてないから」


 真っ青になって慌てるティルロットを宥めるシェザード。

 つい嬉しくなって距離感がバグってしまって焦るティルロットに対し、シェザードはなんだか残念がっているようだった。


「ふ、不敬罪でしょっぴかれたりしない……?」

「しないよ。というか、僕としては今みたいにフランクに接してくれたほうが嬉しいよ。みんな僕とは距離を取りたがるから」


 しょんぼりとするシェザード。どうやら王子には王子なりの悩みがあるらしい。


(確かに、みんな王子だからある程度一線を引いてる感じがする)


 自分含めて多くの生徒がシェザードにはあまり近寄らず、どこか遠巻きに接していることに気づくティルロット。

 ジェラルドが牽制していることももちろんだが、やはりシェザードの王子という肩書のせいでどうしても気持ち的にあまり近寄ってはダメなのだと、無意識に近寄りがたいと思ってしまっていたのは事実だった。


「なんか、ごめん」

「いや、ティルロットが謝ることじゃないよ! でも、もしティルロットがイヤじゃなければ、王子としてじゃなくて普通のクラスメイトとして……あわよくば友達として接してもらえると、嬉しい……かな」


 言葉がだんだんと尻すぼみになって小さくなるシェザード。その様子から、今のが彼の本音だということが伝わってくる。


「そうだね。よし、わかった! じゃあ改めて、友達になろう! シェザード」

「え?」


 ティルロットの言葉に惚けるシェザード。

 あまり反応がよくないことに、ティルロットは途端に変なことを言ってしまったかと焦り出す。


「え? イヤだった?」

「え、ちがっ! そうじゃなくて! 僕と友達になってくれるのかい?」

「うん。まぁ、私じゃ物足りないかもしれないけど」

「そんな、とんでもない! ティルロットが友達になってくれたら百人力だよ!」

「もう、毎回大袈裟だって」


 ティルロットが笑うとシェザードも同じように微笑む。


「でも私庶民なのに、王子様と友達になってもいいのかな……」

「同級生なんだからそういうのは関係ないよ。僕はティルロットと友達になりたいんだ。それにほら、マシュリーとは親友って言ってたじゃないか」

「まぁ、確かに……?」


 正論を言われて素直に納得する。

 公爵令嬢と王子という肩書には雲泥の差があるだろうが、庶民のティルロットからしたらどちらも恐れ多いレベルの殿上人であることには違いなかった。


「あ、でも友達にはなったけど、その……学校では引き続きあんま知らないフリしてくれると嬉しいかな。お互い、仲良いのがバレると色々と厄介だろうし」


 ティルロットは同級生達。シェザードはジェラルド。

 それぞれ二人が仲良いことがバレたら干渉してくること必至なので、できればそれは避けたかった。


「もちろん、わかってるよ!」

「じゃあ、これから友達ってことで」

「うん。友達ってことで」


 お互い見つめ合ったあと、握手する。

 シェザードの手は想像以上に大きくて、分厚くて、とても温かった。

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