散歩する私、トレーニングするあなた
王都の屋敷から馬車で少し行くと王立公園がある。そこは警備が厳重なので女性一人で散歩していても大丈夫な場所だ。
さすがに伯爵家の娘である私が一人で出歩くのを父はよく思わないので、侍女と二人で行く。彼女は護衛も務められるほどの腕前の女性なので、彼女が一緒なら父は許してくれる。
もうすぐ夏休みになるので領地に帰る。その前に一度行こうと思い二人で出かけた。
公園内のいつもの散歩コースを二人で歩いていると男性の声が聞こえた。「やっ」「はっ」などの掛け声だ。
とても気になる。侍女を見ると彼女も気になるようで「いつもの散歩コースからは外れますが、公園内ですからね」というので用心しながら声の方へ行く。と、男の人が腕を振っていた。振りながら掛け声をかけていたのだ。
「お嬢様、危ない人かもしれません」
私は頷き帰ろうとしたが、それより前に男性が私たちに気づいて「こんにちは」などと明るく声をかけてくる。人懐っこい笑顔につられて私たちも挨拶を返す。
私はつい「何をしていたのですか」と聞いてしまった。
「剣のトレーニングをしていたんです。剣士になりたかったのですが家の都合でなれなかったんです。今は時間があればトレーニングをしています。ああ、私はもう帰らなければいけませんが、よろしければ公園の出入り口までお送りしますよ」
公園内なら危ないこともしないだろうと判断して、私たちは彼と一緒に出入り口へ向かった。
寝る前に思い返すと彼と何を話したか覚えていないが、楽しかったという気持ちだけは残っていた。
翌日も同じ時間に侍女を散歩に誘う。
「散歩ですか」
侍女は私を見てニヤニヤしている。
「違うからね。ただ散歩に行きたいだけよ」
私は言い訳をして公園に行ったが彼に会えなかった。領地に帰る前に何回か行ったが全てがっかりして帰ってくる結果となった。
領地に着いて数日経つとお茶会を告げられた。お客様は父の友人とそのご子息 だ。これはどう考えてもお見合いだろう。以前の私なら何も考えずに頷いたが、今の私はとても気持ちが重くなっている。
お茶会当日もお客様を待ちながら庭で私は繰り返していた。好意なんて持ってない。
そんな私に「あれ君は」と声がかかる。聞き覚えのある声が。
公園で出会った彼だった。
お茶会が始まり少し経つと二人にさせられた。
彼も相手は私だと知らなかったらしい。彼が帰るのが残念になるくらい私たちの話はとても弾んだ。
婚約はつつがなく結ばれた。