メンバー
『悪霊』の交霊会のメンバーは
黒川博士
黒川夫人
黒川鞠子
龍ちゃん
園田文学士
槌野くん
熊浦氏
祖父江進一
姉崎曽根子
である。
文月はとりあえず名前を拾う。手紙文形式なのでフルネームがわからない人物もいる。
主人公の祖父江の手紙は、一信と二信では書き方が変わる。
手紙文形式は、三人称の小説より素人には楽に思うるだろうが、1人の人物の視点で全てを語るのと、書き手が気がつかない部分は表現できないから難しい。その為か、二信では小説形式に変わっている。
交霊術のメンバーについては二信で書かれている。
「これ、細かく人物紹介を書いて行きましょうか?」
文月は少し時間がかかりそうだと思った。
「ああ、一緒にやって行こう。」
「向井先輩、これで本当に参考資料が特定できるのでしょうか?」
文月には疑問だった。もともと書きかけの小説で説明は短いものである。そして、これらの人物から『赤本』とやらの情報が飛び出てくるとは思えない。
「さあ…でも、乱歩先生はオカルトには詳しくは…と、言うより信じていらっしゃらない様だから、自分の頭の中で心霊事件なんて考えることはできないと思うよ。文月、君だってパリジェンヌの姿を今、描けと言われても描けないだろ?描くならお手本が必要では無いかな?」
向井に言われて文月はペンを握ってみた。パリジェンヌ…なんか帽子とワンピース??女の子…少し考えて諦める。
「そうですね、僕には書けません。」
諦めた文月に向井は笑いかける。
「そうだろ?」
「でも、乱歩先生がオカルトを信じてないかどうかはわかりませんよね?コナンドイルを例に誉めてるし。」
文月は『悪霊』の原稿を指差した。
「それは祖父江の感情だろ?乱歩先生のではない。」
「え、だって、これは江戸川乱歩の作品なんだから…」
「確かに、それも一部ではあるけれど、登場人物の設定だから、それを言ったら、ドイルはホームズとモリアーティが登場する度に人格がかわってしまうだろ?」
向井に言われて文月は少し不満な顔をした。
「では、何を根拠に乱歩先生が心霊を信じてないと言えるのでしょう?」
文月の質問に向井は少し考える。
「確かに、信じる、と、言うより、読者を信じさせようとは努力しているけれど、どころどころ、神秘主義を追うものには違和感を感じる部分はあるんだ。」
と、向井は『悪霊』の気になる部分に印をつけ始めた。
「ミディアムの龍ちゃんを介して登場する霊体の事を『二重人格』と表現しているだろ?神秘主義者なら、ここは『憑依体』とか『憑依霊』と、言った表現をするべきではないか?
こんな感じの違和感がこの作品にはあるんだ。」
向井の言葉に文月はうなづいた。
「そうですね。単行本化する際の参考にします。」
真面目にメモを取る文月に向井は肩をすくめる。
「ああ、ぜひ検討してみてくれ。まあ、ともかく、こんな感じで違和感を拾って行くと、なかなか、面白い事に気がつくんだ。」
向井はそう言って原稿のはじめの部分をを指差す。
「この作品で1番、乱歩先生の気持ちが現れている部分は『発表者の附記』だと思うのだけれど、この部分は序章の様なものでそれほど重要視せずに読者は読む。
基本、本文に干渉することはないからね。僕もはじめは適当に呼んでいたのだけれど、君と話してよくよく見ると、なんだかおかしい事に気がついてね。」
「『赤い革の綴り』とかですね。」
「ああ、この綴り、この量で考えると、はじめは長編設定だったと思われるんだ。」
向井に言われて文月は読み返す。そして、一度、物思いをしてから口を開いた。
「そうですね。『赤い革の綴り』分厚いくて二冊もあるんですね。」
「しかも、作中作者が夜更けから翌日の昼頃まで読みふける様な、物凄く面白い内容の綴り、がね。現在の連載字数を考えると、それは随分と少なく感じないか?」
向井に言われて文月は考え込む。
「でも、もうすぐ犯人は分かる予定ですよね?」
「ああ、おかしいだろ?だから、これは実在の自分の手元にある参考資料の事では無いかと考えられる。」
向井は少し楽しそうに笑った
「確かに、参考資料と、いうか、動機の1つなのかもしれません。でも、これ、竹溝先生との文通書簡の可能性もありますよね?
僕たちは乱歩、竹溝友情伝説を仮説に話をつくっているのですから。」
文月は難しい顔をした。
「真っ赤な革のファイルに、竹溝先生からの手紙を綴っているのかい?」
向井は少しからかう様に文月を見る。
「あれくらい有名な先生なら、色々と貰い物もありそうですし、何気なく家にあった綴りを使ったのかもしれませんが…」
「2冊も、かな?それに、そうだとすると、今度は少なすぎるとは思わないかい?乱歩先生と竹溝先生の付き合いは10年ではすまないんだから。」
「それを言うなら、祖父江と岩井も子供の頃からの付き合いですよ。」
文月は話しながら混乱していた。果たして、彼らの関係は何だろう?
「確かに、どこかの部分を抜粋し盗まれた、とも、考えられるね。ここで、N某という人物が気にならないかい?」
向井に言われて文月は考える。
「確かに不思議な人ですね。仮に複数の綴りが存在していたとしたら『姉崎夫人殺人事件』のファイルだけを盗むのは限りなく不可能ですよね。
東京で起こった事件、祖父江と岩井の関係性を知る大阪の人物となりますからね。
「ああ、だから、この綴りはネタ本の可能性がある。」
向井は楽しそうに軽く目をしかめる。
「でも、『赤本』である根拠にはなりませんよね?」
文月は少し意地悪く聞いた。向井はそれを余裕で流す。
「そうだね。もう少し我々の『赤本』について探してみないとね。まず、N某は何人か?という事だね。」
向井に言われて文月は驚いた。
「日本人じゃ無いのですか?」
「さあ、でも、この物語の登場人物は基本 仮名 で書いてある、と、わざわざ筆記されてる。それなら、N某氏も仮名で良かったんじゃ無いのかな?
出来なかった理由に外国人の選択肢は残しておきたいよね。」
一瞬、向井の顔が編集の顔になる。N某が外国人だとしたら、読者はみんな騙されるに違いない。
「そうですよね。コナンドイルとか、いろいろと伏線散りばめれれていますし、乱歩先生は語学に堪能ですからね。」
文月も楽しくなる。が、混迷する現在、そんな複雑な思いつきだったら、そして、乱歩先生がこの先を思い付かなかったら、そう考えると恐ろしくもあった。




