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幽霊作家  作者: ふりまじん


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31/40

心理サスペンス



文月は『悪霊』から横文字の、日本ではあまり使われない単語を抜き出す。

何はともあれ、乱歩先生の原稿が間に合わなかった時の準備はしておかなくてはいけない。

そして、解決編へと流れる、1番いいところで止まった物語の今月の穴埋めとしても、理解不能なカタカナ言葉の整理は読者の(不満はあるだろうが)納得出来るものだと思う。

多分、大半の読者は乱歩先生との密室殺人の知恵比べで隠秘術の事なんて忘れているに違いない、しかし、怪しの部分を解説し、そして、より深い『悪霊』の世界を知れば面白みは倍増するに違いないのだ。

こう言ったことには向井は知恵が回った。

複数の結末の物語を数人の作家で書くなんて、想像もつかなかったが、芥川龍之介先生の『藪の中』を例に説明されて文月も少し納得した。


『藪の中』は大正11年に発表された短編で、1人の男の死体を巡って関係者が三方、別々の主張をすると言う物語である。

『悪霊』は、読者、作中作者は現在のところ人間が犯人だと思って考えを巡らせている。

文月たちはそこに、人外の犯人説を持ち込んで報告書風の文章を書いて行く予定で調べ上げて行く。あまりの奇想天外な内容に上司が握り潰してしまう様な、けれど、何か、違和感が読者を包む不気味な説を。

乱歩先生はどうあれ、『悪霊』の作中作者は人間の犯人を追っていると仮定した。

きっと、読者もそんな感じで来月号を楽しみにしているに違いない…


胃が…痛い


文月は、カタカナ言葉を追いかけながら、何か、とてつもなく大それた事をしているのではないか、と、不安になる。

が、そんなものに今は構っていられない。ここで、連載が中断するようなことになる方がもっと恐ろしいからだ。

文月が拾う単語に向井が解説を入れる。


トランス=恍惚状態。霊と交信する時、歌ったり、踊ったり、経をあげたりして恍惚状態に陥る事。(『悪霊』の場合、ミディアムの龍ちゃんは貧血でも起こすようにトランスになってるようだ。)


ミディアム=霊媒師。霊を自らの体に取り込み体のすべての穴を使ってエクトプラズム化する人物の事。

龍ちゃんの場合、エクトプラズムなどの霊の物質化ではなく、声を聴いたと書いてある。(姉崎曽根子の死の予言)


マテリアリゼーション=物質化。『悪霊』ではクルックスの本と霊媒のクック嬢の例が軽く乗せられている。(詳しい説明をしてないのが気になる)

エクトプラズムもまた、物理化現象の1つであるが、この作品では『放射光』として書かれている。

類似語で『アポーツ』の方がオカルト界隈では使われている(向井の印象)を使っていない(参考資料のヒントになり得る?)


ファイロ・ヴァンスの事務所=アメリカの作家が作った名探偵。

この作者の名前はS・S・ヴァンダイン。名門大学を卒業。新聞社などに寄稿していたが1923年長期療養を余儀なくされる。

仕事を禁止されたヴァンダインは、その時に読んだミステリーに感化されて自らもミステリに挑戦するのである。

そして生まれたのが、素人探偵 ファイロである。

この物語は賛否があるものの概ね、いい評価をもらっている。


この話を聞いていた文月は、ここで大きくため息をつく。


「これ…向井さん、この物語、やはり、向井さんの説、当たってるんじゃないでしょうか?」

文月は少し興奮気味に言った。

「ふふ、面白いよね?僕も、文月くんと話すまではここまで考えつかなかったよ。

この、祖父江の手紙は、まるで乱歩先生から竹溝先生への暗号文のように思えるからね。

現在、病に悩まされる竹溝先生とヴァンダインは、状況が重なるからね。

そして、説明の少ない手紙文は、読者というより、特定の誰かに話しかけているようだからね。

しかし、ファイロ・ヴァンスの登場で、今までの積んできた人外の犯人説が怪しくなってくるね。」

向井は苦笑する。

「どう言う事でしょう?」

文月の言葉に向井は苦笑する。

「ヴァンダインは、心理サスペンスものだからね。彼の名前が登場すると言うことは、念動力の出番が無くなるかもしれないね。」

否定的な言葉とは裏腹に向井は楽しそうだ。

「心理トリック…ですか。」

文月は少し考えながら言った。ヴァンダインと言う作家の名前が脳で悩ましく揺れる。

何か、この名前に、何かの記憶がある気がした。

「ああ、でも、これは軽く『探偵小説の主人公』と記せばいいと思う。竹溝先生との推理過程は報告書には書かずに君と僕の秘密としよう。」

向井はいたずらっぽく笑った。











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