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幽霊作家  作者: ふりまじん


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変態心理


確かに、『悪霊』で語られる心霊表現には違和感がある。

文月が難しい顏で『悪霊』の原稿に目を向ける。向井はそこに赤鉛筆で線を入れ始める。


「それでは、まずは犯人について考えよう。」

向井に犯人を考えると言われて小説なんだと文月は苦笑した。

「やはり、祖父江進一で考えるのですか?」

文月の言葉に向井は苦笑する。

「その前に、犯人の属性を確定しなくてはね。」

「ぞ、属性ですか?」

文月は混乱した。属性とはなんであろうか?猟奇犯人とか、変態の様な事だろうか?

「ああ、まずは、人間か、それ以外か、そこを明確に決めなくてはいけない。」

「それ以外?」

「ああ、今回は心霊や妖怪、西洋の悪魔などかな。」

向井の真顔に文月は思わず失笑しそうになる。

「妖怪って…」

そんな文月に向井は真顔で注意する。

「そこで乱歩先生も混乱してるんだと思うよ。」

「え?」

文月は驚く。

「これがミステリの罠なんだよ。大体、推理小説作家が描く怪談なんで読めたもんじゃない。」

これは向井の意見である。

「はぁ。」

「推理作家なんてもんは、理屈屋が多いんだよ。ありえないものはありえないと決めつけてるところがあるからね。実際、ドイルの心霊ものはホームズの様な人気はないだろう?」

「それは、比べるところが悪いですよ。子供達のホームズの人気は忍者・自来也と並んでいますからね。」

文月は雑誌社に来る作家達を思い出す。そうそう国民的人気のキャラクターなんて作れるものでは無い。それは、無名の作家からドイル、乱歩も同じなんだと思う。

「そう言う意味では無いよ。普通、推理小説の場合、奇怪な殺人を調べて、人間の犯人にたどり着く為に状況の不思議な部分を除外してゆく。

例えば『悪霊』の場合、土蔵に履物がない結果を、犯人が贈り物として婦人用の履き物を持ってきて、それを曽根子に履かせ犯行後に回収した。と、言う風に道理に合わせて考える。

が、犯人が人外の場合、人が介した証拠を払拭し、部屋から瞬間移動したと言う事を証明しなくてはいけないんだ。

これは、簡単そうで難しいのだよ。10年も超常現象を排除し人間の犯人を追いかけていると、それに慣れて、超常現象という真逆の思考をするそいうことは、鏡の世界で思考する様な混乱が頭の中でおこるものなんだ。」

向井は何かを思い出して困った顔をする。怪しの世界を扱う雑誌を作る苦労がそこに滲んで見えた。

「つまり、僕達は人間ではない犯人を追いかける、と、言うことでしょうか?」

そう言いながら瞬間移動の証明なんてどうしたらいいのか、文月は不安になる。

「そう、そこ、心しないと混乱するんだ。我々は神秘ミステリーマガジンの記者で、変態心理を追求しなくてはいけないんだよ。」

向井は嬉しそうだった。

「変態心理、ですか…」

『変態心理学』大正6年発行の性犯罪から心霊事件まで幅広い異常な心理を研究しまとめた本である。本誌は大正15年で終了した。

「ああ、明治、大正はそう言った研究が盛んだったんだ。で、まずは、乱歩先生の参考資料を見当しなくてはいけないね。」

向井は嬉しそうにそう言った。

「え、でも、参考資料は竹溝先生から借りたんじゃ…」

と、いう文月に向井は苦笑する。

「それ、本当に乱歩先生に面と向かって言うつもりなのかい?友人を助ける為に尽力したでしょ?って。」

向井に言われて文月はハッとした。そうだ、これは向井との酒の話ではない。ほんとうに本物の江戸川乱歩の前で演じる物語の案件なんだ。学生時代、読んでいた雑誌の、紙芝居の偉大な作者の前でやるのだ。

乱歩先生は、人見知りをすると聞いていたが、本当に大丈夫なんだろう?

「…先輩…これ、本当に大丈夫なんでしょうか?」

急に慌てる文月に向井は呆れる。

「なんだい、急に怖気おじけて」

「おじけますよ。普通。あの江戸川乱歩に会うんですよ、で、初対面で下手な小芝居をするんですよ?そうですよね。竹溝先生の話なんてご本人の前で言えませんよね…貴方がこうやって貧乏な友人を助けただろうなんて、言うこっちも、聞いてる乱歩先生もいたたまれません。その上、この推量が間違っていたら:(;゛゜'ω゜'):恐ろしくて考えたくもありません。」

文月はそこまで言って、それから、幽霊を見た様な顔で向井に聞いた。

「これ、本当に乱歩先生に披露して大丈夫なんでしょうか?」


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