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幽霊作家  作者: ふりまじん


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エクトプラズム


SPR 1882年イギリスで創設された心霊研究協会の事である。

心霊などと言うと、山伏とかの格好をした、いかにも怪しげな人物が登場しそうであるが、この団体の面々は有名な作家や大学の教授などイギリスの良識ある人達なのだ。


欧米で近代心霊研究が始まったのはアメリカのニューヨークで1848年に発生した『ハイズヴィル事件』からと言われている。

この事件はアメリカのフォックス家でおこった怪奇な音からはじまる。

その奇怪な音をフォックス家の三姉妹キャサリン、ケイト、マーガレットが探求する。そして、その音が霊が発するものだと突き止め、音を通して霊と交信できることを発見した。


「先輩、これ、必要なんでしょうか。」

更け行く夜に文月は心配になる。こんな寄り道は本当に必要なんだろうか?

「乱歩先生のように混乱したくなければ必要だと思うがね、それとも、君には矢絣の女の真相が説明できるのかね?」

向井にこう言われたら文月はどうしようもない。項垂れてペンを握り直す。

向井はその姿に肩を下ろして呆れながらさとし始める。


「確かに面倒だと思うよ。と、言うか、一般的に知られてない知識を大衆に周知させるのには時間と根気が必要なんだよ。

乱歩先生は、心霊研究と聞いて軽く考えたんだと思うよ。

もともと、現実離れした事はおとぎ話のように脳内変換される方のようだから。」

と、向井は『玉の井殺人事件』の話を始めた。

玉の井殺人事件とは1932年に発生した花街のバラバラ殺人事件の事である。

近年、このような猟奇殺人が発生すると報道員がミステリ作家に意見を伺うようになった。

向井からすると、小説家と探偵は別物なんだそうで、確かにそこから事件が解決することもあるにしても、乱歩先生は浮世離れした意見が多いと、向井は考えているようだった。



「まずは、西洋のほんとうの交霊会について頭に入れたからじゃないと、祖父江たちの不可思議さに気づけないだろ?」

そう言って向井は話し出した。


19世紀、音を介して幽霊と交信出来る事がわかり近代の科学的な心霊研究が始まった。

降霊術については大昔から存在はしていたが、キリスト教の強い影響下で抑圧されていた。18世紀末、フランス革命から市民の力が強くなり、サンジェルマンなどの不思議な人物の噂とともに心霊を使った詐欺行為が増え始める。


「さっきの『ハイズヴィル事件』も後にインチキ騒ぎがあったからね。そうなると、白黒つけようってみんなが騒ぎ出して、名のある人物が引っ張り出されるわけだ。」

「それがSPRというわけですね。」

「まあ、大まかにいえばそうだな。で、皆んなでインチキが出来ない状態で本当に交霊出来るかを調べることになる。

そこで、音を出すだけだった霊たちも、様々な技術をつけ始める。そこで登場するのが『エクトプラズム』だ。」

向井は長台詞を言い終わって水を飲む。

「『エクトプラズム』って、なんでしょう?」

文月の質問に向井は胸の辺りから古い写真を取り出した。

そこには眠る西洋の美女の鼻から白い何かが流れている、少しだらしない写真だった。

文月は視線をそらし、それが何かを考える。長芋太さの足まで垂れる鼻水なんてありえない。煙のようにも見えるけれど、さすがにタバコの煙というのも無理がある。

「これが、エクトプラズムだ。」

向井の決定打に文月は思わず叫ぶ。

「こ、これが、エクトプラズムなんですか!エクトプラズムって排泄物なんですか。」

文月は顔をしかめた。なにも、若い娘さんの排泄物を写真に撮ることもないじゃないか。

「は、排泄物!」

文月とは別の意味で驚いた向井は、写真ケースから沢山の心霊写真を取り出す。


この人…大丈夫なんだろうか…


殺人現場や怪しげな心霊写真を持ち歩く向井の方が写真の幽霊より不気味に文月は感じた。

そんな事とは夢にも思わない向井は決定的な写真を自慢げに文月に見せる。

「これはわかりやすいだろ?」

そう言って向井が見せた写真には、老女の口から白い煙に包まれた人の顔が浮かぶ。

「……… 西洋の幽霊は、どうしてこんなところから出てくるんでしょう?」

文月には理解不能だった。夏に見に言った四ツ谷怪談を思い出した。

幽霊とは、醜いなかでも品というものを持っていてほしい。日本の幽霊はその点、上品でいいな。と、のどかに考える。


「研究途中だが、西洋の霊は穴が無いと出られないらしい。」

向井の説明に文月は難しい顔になる。

「じゃあ、西洋の霊は尻の穴とか、毛穴から汗のようにポタポタ流れ出るんでしょうか( T_T)」

なんだか嫌だし、それを真面目な顔で学者先生が眺める姿を思い浮かべて文月はやるせなくなる。


「まったく、お前、方針が変わってるぞ。文月君、君は毛穴とエクトプラズムを研究して日本にSPRと作りたいのかね?それとも、作品を完結させていのかね?」

向井に聞かれて文月は言った。

「勿論、作品の完成です。」

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