表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/62

第7話『変わるあなたと私』

『ゴーン――』


「ハッ!!」


 聞き慣れた古時計が奏でる鐘の音。


 それを耳にしたのち、ガバリとベッドから体を起こし周囲を確認!


 いつも通りの王都の別邸、私の部屋ですわ。


「戻って来た! 戻ってきましたのね! よし! さっそく状況を整理しますわよ!」


 ベッドの上であぐらを組み、こめかみを両人差し指でマッサージしながら考えますわ!


 前回のループで起こったこと。


 もう何ループ目か正確には覚えておりませんが、数十回は繰り返されたこの絶望的な繰り返しの中でやっと!


 未来が……。


 未来が変わりましたわ!!


『お嬢様、お目覚めでしょうか?』


 いつも同じ銘柄だったワインが初めて変化した!


 私の好きなワインに!


 シャルノー・メトゥールからシャルノー・ラノワールに!


 しかも、それを選んだのはクロムウェル様!


 『一時でもこの俺の婚約者だった奴だからな。せめてもの手向たむけだ』と言う言葉と共に、わざわざ私の好きなワインを調べた上でお選びになられた!


 今まではそんな事ありませんでしたのに!


 つまり前回のループで、王子様の心境に変化を与える『何か』が起こったということ!


 そしてその『何か』によって未来が変わった!


 つまり、私が未来を掴むための鍵は――


「――王子様にある! きっとそうですわぁ!」


「ハワッ! お、お嬢様。急に大声を出されないでください!」


「爺や!? いつからいましたの!? 今いい所だから静かになさい!」


「はいぃ!?」


 とにかく、前回のループで王子様に何らかの変化があったのは間違いありません。


 じゃなきゃ、わざわざワインを選んだりしませんもの。


 恐らくは、かのお方の『好感度』が関係してるとみていいでしょう。


 クロムウェル様の私に対する好感度が上がって、わざわざ私の好きなワインを調べたり選んだりした。


 そう考えるのが一番自然ですわ。


 よし。それでは思い返してみましょう。


 前回、あった事と言えば……。


『ハッキリ言ってあなたって最低ですわ!!』『最低だって言ったんですわ、この女たらし!』『このスケコマシ!』『バシーンッ!』


 あっれ……ろくな記憶がございませんけど……。


 まさか王子様ってドMですの?


 いや、さすがにそれは……。


 でも……しかし……。


「…………ねぇ、爺や」


「なんでしょう、お嬢様」


「王子様って変態なのかしら?」


「ハマチョッ!? ななななな何をおっしゃるのですか! そんなのありえません!!」


「何故そう言い切れますの? 王子様について、あなたそんなのに詳しいんですの?」


「詳しくなくても分かります! そんな変態だ、なんて噂でさえ聞いた事ありません! というか、お嬢様だって王子様について何もしらないでしょう! なのに変態だなんて失礼過ぎます!」


「それは確かに……」


 失礼だとか、詳しくないとか、そう言われれば肯定するほかありませんわ。


 あのお方と私ってほとんど接点ありませんでしたからねぇ。


 私が普段生活しているヴィランガード伯爵領は王国の東の果て。


 友好国『ノルン』との国境にあり、王都とは物理的に遠く離れておりますし。


 山脈を間に挟んだ飛び地的な領土だから往来おうらいもしづらく、王都での夜会やらパーティにも、目立ったもの以外ほとんど参加していませんでしたし。


 たまに参加しても、他のご令嬢方のガードが固すぎてクロムウェル様とお話する機会なんてほとんどありませんでしたし。


 王子様について知ってる事なんて、ほんとに噂話程度の事ばかりですからねぇ。


 これまでのループでも、なぜ殺されるかを調べたり、私を憎むご令嬢方の情報をあさったり、王子様から逃げたり、自棄やけ食い自棄やけワインに明け暮れてましたから、あのお方の情報ってほとんどないですわ。


「うーむ……。クロムウェル様が何らかの鍵だとしても、何をすれば好感度が上がるかがさっぱり分からないのではどうしようも……」


「あの~お嬢様、何を悩まれてるか知りませんが、いい加減ご用意して頂かないと――」


「よし!」


「――!?」


 膝を一つ叩いて、ベッドの上に立ち上がり拳をグッと握りしめて気合を込めます!


「悩んでいてもしょうがありませんわ! まずは王子様の事を知る! とにかくこれが一番です! どうせ逃げても逃げてもダメだったんですからとりあえず挑戦してみましょう! やあってやりますわよぉ!」


「お、お嬢様! はしたない真似はおやめください、ちょっと!」


「オーホッホッホッホッ!」


「お見合い! 今日は大事なお見合いがあるんですから、もっとちゃんとしてください!!」


「お見合いなんて楽勝ですわぁ! ちょっと自己紹介するだけですもの! 問題はそのあとですわぁ!」


「なななな、何をふざけた事をおっしゃってるんですかぁ!? しっかりしてくださいよ、ほんとにもう!!」



 

――――――――




「オーホッホッホッホッ! この私こそが! レイリィース・ジョゼフィーヌ・ヴィランガード! ヴィランガード伯爵家の一人娘ですわぁ!」


 王宮内、第二応接室。お見合いの席にて。


 以前、何度か繰り返したのと同じ自己紹介をもう一度繰り返します。


 私の右手側の席には、金髪のボブカットに口ひげを蓄えた、私の父パパギリス・ヴォヤッジュ・ヴィランガードが座り。


 左手側には、桃色の巻き毛を長く垂らした母親、ママリィース・アマリリス・ヴィランガードが座っています。


 そして正面にはクロムウェル様。


 私の発言にピクリと眉を動かしたあと、こちらを見つめたまま沈黙を保たれています。


 ふっ、しかし流石に慣れた物ですわね。


 これだけで婚約者になれるってんですから、私の魅力ってばほんとに凄すぎますわ!


 全世界のご令嬢が束になっても敵わない所か、歴史上のあらゆる美姫びきが蘇っても勝てないレベルでしょう!


 あとは王子様が『お前、俺の婚約者になれよ!』と言うのを待つだけ!


 恐ろしい! 恐ろしいですわぁ!


 私と言う人間の魅力があまりにも――


「………………」


 ――恐ろしすぎる……はずなんですけど……。


 な、なんですの、正面に座る王子様の重苦しい雰囲気は。


 いつもだったら、この後ニヤリと笑って『おもしれー女じゃねぇか! 気に入ったぜ! お前、俺の婚約者になれよ!』と言うはずなのに。


 なぜ、ここに来ていつもと違う対応を……。


 そう考えていると、クロムウェル様が瞳を閉じ、ため息をついた後、口を開きました。


「つまねー結末だな……。まぁ、いいや。お前が俺の婚約者な。下がっていいぞ」


「はぁっ?」


 つ、つまらない? 何が? この私が?


 このレイリィース・ジョゼフィーヌ・ヴィランガードが!?


 もう数十回も『おもしれー女』認定を受けているこの私が!?


 つまらねーですって!?!?!?!?!?


 バンッ!!


「……なんだ?」


 思わず両手で机を叩いてしまった私を、一切動じず冷静な目で見つめる王子様。


 それに対して問い返す私。


「何がつまんないんですの?」


「ああん?」


「この私の!! 何がつまらなかったのかって聞いてるんですわぁ!!」


 私の大声に、思わずと言った具合に片眉を持ち上げるクロムウェル様。


 それを見て更に激昂する私!


 ゆ、許せませんわ、この男!


 これまでのループで散々人のこと『おもしれー女』扱いして婚約者に選んでおきながら、今回に限って『つまんねー』扱いするどころか、このおざなりな態度!?


 私が!! 


 この私が一体誰のせいで、これほど苦労してると思ってぇえええ!!


 もう許せませんわぁあああ!!!!


 両手を机に付けたまま立ち上がり、そのままの勢いで机を駆け上って王子様に飛び蹴りを――


「「レイリィースッ!!」」


 ――しようと思いましたが、左右に座るお父様とお母様の声が響き、その手が肩に置かれたことでギリギリの所で自分を押さえ込みましたわ。


 というか、指がメチャクチャ食い込んでくるせいで動けません。


「…………フゥーッ」


 一つ息をつき、自分を何とか落ち着かせて。


 ドサリと音を立てて椅子に座り直します。


 前を見れば何やら興味深そうに笑みを浮かべる王子様が一人。


「フッ……」


 何笑ってますのこの人。


 いま笑える状況じゃありませんことよ?


 そんなクロムウェル様がまた口を開く。


「随分とお転婆てんばな女だな。今俺を蹴ろうとしただろ」


 その問いかけに左右の父母が私より先に声を上げました。


「そ、そんなのあり得ませんよ、王子!」「そうですわ! 何かの見間違いですわ!」


「蹴ろうとしましたけど何か?」


「「レレレレレ、レイ!?」」


「フッ……」


 必死に弁明しようとする両親を半分無視するようにしてそう告げます。


 こっちはどうせ死んでもループ出来るんですもの。


 もう何十回も繰り返してるから死ぬのも恐くないし、何ならここで暴れてスッキリした方が次のループでの調査に集中できるってもんです。


 お父様とお母様の拘束が少しでも緩んだら、その瞬間を見計らって――


「悪かった。俺が間違っていたようだ」


 ――また蹴りを……。


「ん?」


「つまんなくねーよ、お前」


「んんんん?」


「めっちゃおもしれーじゃん。ハハッ! 気に入ったぜ!」


 ドキンッ!!


 って『ドキンッ!』ってなんですの私!!


「悪かった。改めて言おう。レイリィース、俺の婚約者になってくれ」


「は、ひゃい」


 ひゃ、ひゃいって!?


 このお馬鹿!


 しっかりなさい、レイリィース!


 『王子様ってば実は笑顔が結構カワイイ』とか考えてる場合じゃありませんわ!


 今回のループでの目的を思い出しなさい!


 私の目的は王子様の調査をすること!


 そして、未来を変えるために、クロムウェル様の好感度をどうやって稼ぐかを考えること!


 甘えは許されませんわ!


 成功しないと待っているのは『確実な死』だけですもの!


 とにかく! 今は目的だけに集中! 集中するんですわ!


 クロムウェル様の調査を、公私の境なく厳密にいたしませんと!!


「これからよろしくな、レイリィース」


「ひゃい!」


 だからひゃい!じゃありませんわ!


 クソッ! 我ながら色恋沙汰にうとすぎて耐性がなさすぎる!


 こんな状態で調査だなんて、これから私どうなっちゃいますの!?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ