第45話「私の全て①」
一足で飛び、上段から真っすぐに振り下ろされるコウの剣!
体格の差、筋力の差を活かし、正面から打ち崩そうとする復讐鬼の剣が、紅の伯爵令嬢へと迫る!
しかし!
(読めてましたわ、それくらい!)
その動きを予想していたレイリィースはすぐさま体を動かした!
迫る剣に対し、右手に持つ剣を斜めに掲げ、剣先が左下を向くように構え!
「んぐぅっ!」
コウの剣戟を己の刃に滑らせて逸らし! 同時に左足を右へと大きく引いて、飛び掛かるコウと体を入れ替える!
そしてすぐさま、刃を振り切り無防備になった白衣の元騎士に向かって、右薙ぎの一閃を放った!
「…………!」
しかし、レイリィースにとって必至に思えたその一撃は、ただ体を反らすだけの動きにより紙一重で避けられ、逆に下から跳ね上げるような一撃が迫るのを、彼女はすんでの所で剣を戻して逸らした。
(体幹がお強い! 剣技が鋭い! 動きが素早い! なら、こちらも――!)
強敵を前に決意を固めるレイリィースの目前。
一歩。
右足を踏み出すと共に、コウは跳ね上がった剣をそのままレイリィースへと叩きつけた!
(――手段は選びませんわ! 私の全てを見せてあげましょうとも!!)
ゴウと音を立て迫る復讐鬼の剣!
それをまた、先ほどと同じように斜めに逸らしながら、彼女は親指を鋭く弾いた!
「ッ!」
小さな音を立てて顔面に迫る小石を思わずと言った具合にコウが左手で顔をかばう。
(指弾だと? いつの間に石を握って……いや!?)
続いて響く、空気を切り裂く音を聞き、白衣の元騎士はレイリィースから距離を取るように飛び退きながら、音に向かって下から左上へと剣を振るった!
ガキィンと高い音を鳴らして死角から飛来したナイフが弾かれる!
そして、宙を舞う彼に向かって。
「フッ!」
コウと同じように背後に飛び退きながら、2本、3本目のナイフがレイリィースから投げ放たれた!
剣を握っていない左手だけを使い、左腰に収まったナイフを、人差し指と中指だけで柄を掴み、手首の力のみで投げつける曲投げ!
それでも! コウの顔面へと正確にナイフが飛んでいく!
「ッ!」
思わず、剣の腹を盾代わりにして、迫る二本のナイフを防ぐ白衣の元騎士。
そして崩した態勢を整えるように、背後へステップを踏みながら地面に降り、剣越しにレイリィースを見やると――
(正気か、この女……)
――切っ先を正面に向け、腰だめに剣を両手で構えた紅の伯爵令嬢が、白衣の元騎士に向かって突撃して来ていた。
一瞬の戸惑いと疑問を胸にしながらも、正面から突っ込んでくる彼女へ右薙ぎの一閃を放ちレイリィースの持つ剣を弾き飛ばそうとするコウ。
そして、彼の剣は狙い通りに彼女の剣を弾き飛ばした。
(ッ!? 違う!!)
「こんのおおおおおっ!!」
(誘われたか!?)
なんの抵抗も感じさせずに吹き飛んだレイリィースの剣。
手を広げて大きく踏み込むと共に、するりと懐に入り込んでくる紅の伯爵令嬢!
剣技に優れたコウを前に、剣一本を囮に使って至近距離での戦闘を挑んだのだ!
しかし!
(馬鹿が!)
体格に優れ、鍛え上げられた騎士と肉弾戦をするなど正気の沙汰ではない。
例え懐に潜り込まれようとも、そのための訓練をコウは何度も繰り返してきている!
下から組み付こうとするレイリィースに対し! 右手を返すと剣の尾に当たる柄でもって、彼女の頭を砕こうと右斜め上から金色の頭部へとぶちかます!
「ッ!?」
確実に柄が当たる。
そのほんの一瞬前。
レイリィースの動きが呼吸一つ分だけ遅れる。
前傾姿勢になり下半身に組み付こうとする段階で一気に上体を起こし!
コウの柄での一撃をかわすと、腕を伸ばして彼の両肩を掴み、そのまま敵を引き寄せると共に体を丸めながら後方へと体を投げる!
「捕まえた」
野獣を思わせる笑みをレイリィースが浮かべているのを、前方にグルリと倒れ込みながら白衣の元騎士は見た。




