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第44話「かかってきなさい!」

(やっとこさ追いつきましたわよ、この裏切り者めぇ~)


 隙なくコウをにらみつけながら、息を整えるレイリィース。


 彼女はコウが王宮の外壁を乗り越えたほんのすぐあとに、同じ経路をたどって白衣の元騎士の追跡を開始していた。


 クロムウェルがコウの裏切りを糾弾し、命令を飛ばす声を聞き『そうか!』と思いながら。


(ギリギリのギリで気付けましたわ。前回のループ。監獄のあの地下道で。私と王子様を襲った黒衣の刺客。かの暗殺者はサイアス様の部下であるはずなのに、今回、主が危地に陥っても姿を現さなかった!)


 ジリっと足元を踏みならしながら、レイリィースが紅の瞳で敵を射抜く。


(いや、出て来てはいたのです! 敵としてではなく、味方のフリをして! 私たちの前に堂々と現れた! このコウ・マクガインと言う男は忠臣の皮を被ったキツネですわ!)




――――――




 客室のベッドの中、今にも眠りに付こうとしていた時のこと。


 暗闇の中、溶けるような心地よさと共に、夢の中に落ちようとしていた時。


 その闇を見て『まだ!?』という思いが彼女の脳裏を駆け抜けたのだ。


『ま、まだ終わっていませんわ! あの秘密の地下道で王子様を狙った暗殺者がまだ残ってるじゃありませんの!? こ、こんなことしてる場合じゃございませんわ!!』


 ガバリと身を起こし、部屋から抜け出す時のいつもの癖で布団を人形にまとめた後、大慌てでクロムウェルの私室へと駆け込んだレイリィースであったが、王国の第二王子はちょうど従姉のティアラから調査結果を聞き、別室で部下への指示出しをしている所であったので、そこにはいなかった。


 混乱し苛立ちに頭をかきむしったレイリィースは、かと言って大声を上げて探すのも暗殺者に情報を与えることになるやもと思い、王宮中のドアを全て開けてでも探し出そうとし。


 そしてその最中に、2階のとある一室に父母の装備一式が収められているのを見つけ出したのだ。


 寝間着姿だった彼女は今後の戦闘の可能性を考え、衣服と装備を手早く整え、母の短弓と矢、父の剣に数本のナイフ、その他諸々を身に帯び、廊下へと飛び出そうとし。


 そして、何かが爆発する音と窓が割れる音を聞いた。


 その後廊下に飛び出してみると、ドアがぶち破られる音、何かが落下する鋭く鈍い音が響き。


 そしてクロムウェルの言い放った『コウ・マクガインが裏切った』という言葉が聞こえ。


 その全てを聞いた瞬間、レイリィースの体は放たれた矢の勢いでもって、近くの部屋の窓を破って飛び出し、中庭から見えた裏切りの近衛騎士の追跡を開始したのであった。



――――――



 そして今、ついにその背に弓矢を放てる距離と状況になり、矢を構えて彼女はコウをにらみつけていた。


 その視線の先に立つ裏切りの騎士は、右手に持つ剣をダラリと地面に向けてこそいるが、重心は前へと向き、背は野獣のように曲がり、眼光は幽鬼を思わせるほど怪しい光を宿している。


 その光を正面から見返しながら、レイリィースが更に弓を引き絞った。


(コウ・マクガイン様……。王子様の剣術の師にして近衛騎士。前回のループでクロムウェル様の命を狙った暗殺者は、事ここに至ってはこの方と見て間違いないでしょう。私の知らない闇の人間が犯人とも思いましたが、よく考えてみるとその線はもうありませんしね)


 雇われた闇の人間であれば、サイアスの危機に出てこないのはおかしい。


 王国の第一王子は今夜まさに殺されていてもおかしくなかったのだ。


 だというのにあの暗殺者は姿を現さなかった。


 それが現さなかったのではなく、現れていたのに気付いていなかっただけだとしたら辻褄つじつまが合う。


 今夜の私邸におけるコウの行動。


 闇の中でサイアスの私兵の半数を無力化した実力。


 その隠密能力は、暗闇の一本道の中、襲い来る直前まで気配をさとらせなかった前回のループの暗殺者を思い起こさせた。


 それもあって、コウ・マクガインがあの黒衣の暗殺者に違いないと、今レイリィースはほぼほぼ確信しているのであった。


 しかし――


(しかし、サイアス様の手下なら、なんでこんなややこしい事態を引き起こしているのでしょうか……。いいタイミングで裏切って王子様の隙をつくためにしても手がかかり過ぎな気が……。いやいや、それは後ですわ! 今は目の前に集中しないと!)


 そう思うレイリィースが、コウの重心が右に寄ったのを見とがめて、引き絞った弓を勢いよく解き放った!


 しかし!


「フッ!」


 先ほどと同じように鋭く振られた剣戟けんげきによって矢が弾かれる!


 そして裏切りの騎士は、そのまま野獣のような身のこなしでもってレイリィースへと疾駆しっくした!


 正面からではなく! レイリィースから見て右手側を、半円を描くような軌道で一気に距離を詰めていく!


「こんのっ!!」


 それに対し、紅の伯爵令嬢は右腰に備えた矢筒から6本の矢を親指以外の指の間に挟んで抜き取り、目にも止まらぬ早打ちでそれを次々にコウへと打ち放った!


 矢を持つ右手を動かすのではなく、弓を握った左手を前後に素早く動かし、迫る裏切りの騎士へと攻撃する!


「ハハハハッ!」


 しかし!


 まるで小枝を振るうような気軽さで、重い剣をコウは振り回し、その全ての矢を打ち払い!


 一息のうちにレイリィースへと接近すると剣を振り上げ飛び掛かる!


「ッ!」


 一瞬の思考。


 そののちに、紅の伯爵令嬢は左右後方、そのどちらにも逃げず、前へとその身を投げ出した!


 振り下ろされる剣! その横、コウの右わきを前転しながら潜り抜け、身を起こしながら膝立ちで背後へ振り返り!


 矢を引き抜き弓を構えると同時に敵の背中へ至近距離で射撃する!


 しかし、それでもなお!


「フッ!」


 コウ・マクガインには届かない!


 振り向き際、無造作に振るわれたかに見えた右薙ぎの一閃が飛び掛かる矢を凄まじい勢いで切り裂き、鉄で出来た矢じりまでまとめて砕くと彼の後方へと薙ぎ伏せたのだ。


「…………ッ!」


 その凄まじき強さを前に、ゴクリと喉が鳴るのをレイリィースは自覚した。


 ほんの5歩の距離。


 この超至近距離からの弓の一撃を。


 ほぼ見向きもせずに切り払う。


 これまで彼女が相手にした事もない程の、途方もない腕前の人間が目の前に立っている。


 それに思い至り、思わず体を固くする紅の伯爵令嬢を見て、白衣の元騎士が口を開く。


「いいですねぇ~。もっと絶望した顔をしてください。あなたの首を見た瞬間、王子が怒りに全てを忘れてしまうような、そんな絶望に満ちた顔をしてくださいよ……」


「………………」


 その声を聞き、ギロリと目を光らせたレイリィースが。


「お黙りなさい、コウ・マクガイン」


 言葉と共にガシャリと弓と矢筒を投げ捨て、二本の足で立ち上がると共に、左腰にさげた父親の剣を右手で引き抜くと、その切っ先を裏切りの騎士へと向けた。


「私は絶望などいたしません。この程度、絶望と言うには生ぬるすぎる状況ですもの」


「ハハハッ。今まさに殺されようとしているのに、よくそんな事が言えますね」


「ええ、言えますとも。本当の絶望とは何か、私は知っていますから」


「ほう……? 何ですかそれは……?」


「愛する人を、己の無力さ故に失ってしまうことですわ」


 ピタリと、コウは息を止め、笑みを消した。


 幽鬼のような眼光がその怪しい光を増し、怒りと憎しみに満ちた表情がその色を濃くする。


 その復讐鬼を前に。


 レイリィースの脳裏には、忘れようもないあの光景が、未だに覚えているあの熱が、優しく髪をすく指先の感触が、心を震わしたあの言葉が。


 今もまた思い起こされていた。


「………………」


 それを思い返すだけで、緊張に凍える体は熱を取り戻し、萎える心魂には勇気が満ち溢れ、戦う意志が止めどもなく湧き上がった。


 ただ。


 ただただ。


 あのお方ともう一度共に生きたい。


 ただ。


 ただただ。


 王子様と共にありたい。


 その想いを胸に、レイリィース・ジョゼフィーヌ・ヴィランガードが、体の前で父の剣を構え言葉を続ける。


「コウ・マクガイン様……。あなたにどのような思惑があろうと、どのような真意があろうと、ただ一点の理由により私はあなたを許しません」


「なんですかそれは……?」


「あなたが、私の愛する人を殺したからです」


「…………なるほど。随分と混乱していらっしゃるようだ」


「フンッ! もはや問答は無用でしょう? かかってきなさい! 私の全てで持ってあなたを打ち負かします!」


「フッ、少しは持てばいいですね!」


 言葉と共に、裏切りの白騎士がレイリィースへと躍りかかった。


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