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第40話「王国の第二王子」

 憎い。


 憎い憎い憎い。


 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。


 憎い!!


 絶対に


 許さない。




――――――




 灯りの消えた王宮の廊下を、ただ一人で歩く者がいた。


 窓から差し込む薄い月明かり。


 それでもなお、暗い闇の中を。


 足音も立てずに動く者がいた。


 そして、その人間に――


「おっと。こんな夜更けに何してんだ?」


 ――ふと燭台しょくだいのロウソクに火を灯し、声をかける者がいた。


 銀の短髪に灰色の瞳。


 金の刺繍が入った黒の装束しょうぞく


 左手に黒鞘の長剣を鞘ごと掴み、右手に燭台を掲げるその男。


 クロムウェル・クォーツライト・アイリスが。


「これはこれは、王子……」


 自らの部下であるコウ・マクガインに、そう問いかけていた。


 白の軽装に身を包み、腰に白鞘の剣を差した王国の近衛騎士が、いつも通り爽やかな笑みと共にその問いに答える。


「調査が先ほどやっと終わりましてね。夜も遅いので明日にしようとも思ったのですが、事が事ですのでこうしてご報告に参った次第です」


「ほう。俺に報告するってのにわざわざ二階を通ってんのか? 知っての通り、俺の部屋があるのは三階なんだがな?」


「この階には今、ヴィランガード伯爵家の皆様方が泊まっておられるのでしょう? 警備を兼ねて通りがかっただけですよ」


「なるほどな……」


 そう告げながらも、クロムウェルはコウから一瞬たりとも視線を逸らさず、ただただその鋭い視線で彼の事を見つめ続けていた。


 それにどこか居心地の悪さを感じたような表情で、白衣の騎士が主へと問いかける。


「それより、王子こそどうされたのですか? こんな所でお待ちになられて……」


「それは――」


 答えようと口にされる言葉が、別の声によって引き継がれる。


「――衛兵からあなたがここに来るって聞いて待っていたのよ、コウ」


 声と共に、クロムウェルの影に隠れるようにして立っていた少女が、数歩左に踏み出すと、王国の第二王子に並び立った。


 白銀のウェーブがかった長髪に、銀に輝く花の髪飾り。


 金色に輝く鋭い瞳に、純白のドレスを身に纏った小柄な女性。


 ティアラ・エルモンド・ディスパーション。


 クロムウェルの従姉いとこである彼女がそこに立っていた。


「ああ、ティアラ様。お久しぶりです」


「ええ、久しぶりね。出来ればこんな形で再会したくなかったわ」


「それは……。ハハハッ、いったいどういう意味でしょうか?」


 問いかける言葉に、ジワリと笑み広げてティアラは答えた。


「裏切り者になったあなたとは、会いたくなかったという意味よ」


 その言葉に目をパチクリとしばたかせて、コウは戸惑ったように答えた。


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。私が裏切り者? 馬鹿な事を言わないでください」


 そう眉根を寄せ半分懇願するような表情でクロムウェルへと顔を向けると、続けて言って。


「王子からも何か言ってくださいよ。裏切り者だなんて酷い言葉です。私がサイアス様と繋がっていたのはあなたの指示があったからで、それ以上の意図なんてありません。それはご存じでしょう?」


 それでも王国の第二王子は何も反応を返さず、ただ隙もなくコウの事を見続けている。


 そんなクロムウェルを横に置いて、ティアラは懐から深緑色のガラスの小瓶を取り出すとそれを右手で振りながらコウへと告げた。


「これなーんだ?」


「それは……なんでしょうか?」


「薬よ。黒い丸薬。あなたが人づてにこっそり貰い受けていた物と同じ薬。誰にもバレないよう、女の子にこっそり買ってきて貰っていたのよね? 女たらしなのは主に似たのかしら?」


 クスクスと笑いながら、小瓶から薬を取り出し右指でそれを摘まみ上げるとコウへとかざしながら、ティアラが更に言葉を続ける。


「効能としては精神高揚、疲労回復、眠気覚ましに意欲増進。ただ、一日一錠を超えて摂取し続けると、不眠症や強迫観念を覚えるなどの悪影響が出る可能性を持つ。ねぇ、これってどこかで聞いた話ではなくて?」


「…………私がそれを、サイアス様に服用させていたと言いたいのですか?」


「ええ。あなたはあの人に近づき、普段から常飲している栄養薬にこれを混ぜ、サイアスに飲ませ続けていた。そして横でそそのかし、サイアスの不安を煽り、この事件を起こさせた。元々どうしようもない程心配性なあの人を上手く操ってね」


「ありえませんよ、そんな話。第一、証拠はあるのですか? 私がサイアス様にその薬を飲ませていたという証拠は? それに動機も。私にはサイアス様を害する動機なんて欠片もありませんよ?」


「証拠はないわ」


 なんの悪気も感じていないかのようにそう言い放ち、ティアラがそのまま言葉を続ける。


「サイアスが使っていた薬入れを調べてみたけれど中身が空っぽだったし。お付きの医者に聞いてみても、最近は話を聞き入れて貰えず最低限薬だけ渡していたと言うし。あなたがこれを仕込んだ証拠なんてない。でも、動機ならあるでしょう?」


「どんなですか? クロムウェル様を王位につけるためとか? 王子がその座を望んでいない事は私が一番良く知っています。それともサイアス様に個人的な恨みがあったとか? それでこんな事件を起こすのは意味が分からないでしょう? 国を乱しただけ。意味もなく無関係な人間を巻き込み過ぎです」


「そうね。コウ・マクガインには動機なんてないでしょう。でも――」



「――国王陛下の第二子、コウ・レーラリーにはその動機があるのではなくて?」



 一瞬、その場の空気が固まり。


 そして沈黙を保っていたクロムウェルが己の近衛騎士へと告げた。


「動揺したな、コウ……」


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