第39話「闇の中に」
それから数時間後。
夜も深まり、少し欠けた月が中天をまたごうとする頃。
「はえー、疲れましたわ……」
私は複数本のロウソクによって照らされる王宮の客室内、そこにある大きなベッドに身を投げ出すと、ゴロリと仰向けに横たわりました。
抵抗も感じさせずふんわりと沈み込むベッド。
今着ている白絹で出来たワンピース型の寝間着と相まって、極上の寝心地ですわねぇ……。
「はぁ~、やっと一段落って感じですわぁ……」
あの後、サイアス様の私邸にて。
隠れて貰っていた弁護官シナノ・マリンフォード様と、マーリン王国の外交官ムシュー・イザーク様と再会を果たし。
あれだけの大事件があった後なので、さすがにその場で即解散という訳にもいかず、私達ヴィランガード家の人間とお二人は、王子様に招かれて王宮の客室で一泊する事となりました。
もしかしたら、サイアス様の残党がよからぬことを考えるかもしれないから、警備のしっかりした王宮に泊まろうという話になったのです。
まぁそんなこんなで、この王宮で食事に湯に着替えに寝床にと、至れり尽くせりなもてなしを受けた訳ですわ。
事後の調査のために残られたコウ様や、褒賞はまた後日となった他の兵隊さん達には悪いですけど、身も心もとろけるような体験でしたわねぇ……。
それもあって、昨日徹夜したってのも理由の一つですが、ベッドに横たわった瞬間から既にウツラウツラと眠気がやってきています。
でも、さすがにもうこのままゆっくり休んでいいでしょう。
私の目的は全て達成されましたもの。
絶望的な死のループから生き残ること。
王子様を狙う陰謀を解決すること。
今回のループで、何とかそのどちらをもやり遂げる事が出来ました。
これでやっと肩の荷が下りましたわ。
コウ様の一件も結局私の早とちりだったみたいですしね。
どうもあのお方は二重スパイのような事を、クロムウェル様の命令でしていたようです。
王子様の情報を流すという名目でサイアス様に近づいて。
そして、実際にはサイアス様の情報をクロムウェル様に流していた。
マーロン王国の外交官ムシュー様が誘拐された一件も、どこに連れ攫われたかも、コウ様によって情報がもたらされたそうです。
そうとは知らず大変失礼な真似をしてしまって、反省してもしたりませんわ……。
王子様としては自分の情報を流すことで、少しでもサイアス様の心証を良くしたいという思いもあったみたいですが。
あのお方の被害妄想と行き過ぎた不安症の前には、全て無駄な努力に終わってしまったみたいですわね。
昨日の晩、私が見たサイアス様と一緒にいるコウ様のお姿も、その活動の一環だった訳です。
思えば私邸の地下で聞いた戦闘音も、きっとコウ様が護衛の黒服さん達を無力化していた音だったのでしょう。
たった一人で護衛の半分を無力化したってんですから、その実力は計り知れない物がございますわね。
まぁ、なにはともあれ。
事件はもう一件落着です。
あとはのんびりと、王子様と幸せな時間を過ごすだけですわ。
そう。
クロムウェル様と甘くて幸せな時間を……。
「…………ぅぅぅっ!」
そう考えていると、ふと法廷での出来事を思い出してしまって身もだえしてしまいます!
だって! あんなの! あんなのぉ!!
カッコつけすぎでしょう!? でもカッコよすぎでしょう!!
証言台の机の上に前回のループでも出て来た『レイリィース嬢、調べ書き』を置いて!
その二行目の文章を消して書かれたのが!
『俺がきっと心から愛する女』という一文!!
ウギャアアアアッ! 好き好き好き好き好き好き好き好き好きぃ~!!
好きすぎるっ……! 胸が苦しいっ……! こんな気持ち初めてですわっ……!
クロムウェル様が……クロムウェル様を……!!
好きすぎる……!! 好きすぎて震える!!
悲しくもないのに目から涙が溢れ出そうになる!
呼吸が苦しくなって、胸の奥底がむやみやたらと熱くなる!
これが恋!?
くぅ!! 恋ってのは凄いですわねぇ!!
もう体中が王子様を好きという気持ちで埋め尽くされたような気分ですわ!
でも! でも!!
決していやな気分じゃありません!!
むしろこの苦しさが愛おしくてたまりませんわ!
だってこれは証なんですもの!!
やっと! やっと未来に進むことが出来るんですもの!!
あれをしないと、これもしないと、っていう縛りから解放されて!
王子様と! クロムウェル様と二人で!!
共に未来を歩むことが出来る!!
こんなに幸せなことはございませんわ!!
これは! その証の苦しさなんですもの!!
もう愛おしくて愛おしくてたまりませんわ!!
「うぅ~幸せですわぁ~……! 私、こんなに幸せでいいんでしょうか……! うふふふふふっ!」
そう笑いながらゴロゴロとベッドを左右に転げ回って興奮を発散します。
「って、ハッ!?」
いやいや、こんな事してる場合じゃございませんわ!
明日からは夢にまで見た甘いひと時が待ってるんですから、今は眠って英気をやしなわなければ!
さすがに二日間も徹夜するのはお肌に悪いですしね!
それじゃ、さっさとベッド近くの灯りを消してっと……。
「ふっ、ふぅっ」
サイドテーブルにある燭台の囲いを持ち上げ、息を吹きかけ炎を消すと、改めてベッドに横たわり瞳を閉じます。
視界は完全に真っ暗。
瞼の裏を見ながらゆっくり呼吸をしていますと、睡魔はすぐにやってきました。
あ~……気持ちいいですわぁ……。
このままゆっくり暗闇の中に落ちていくような……。
そんな感覚で眠れれば……。
明日は……きっと……むきゅぅ……。
最高の……1日に……。
そう……このまま……。
闇……落ち……。
ん…………?
んん……?
ん~~…………………………。
…………………―――――――
―――――――
憎い。




