第38話「勘違い」
コウ様を見て、呆然と目を見開く私の前方で、王子様がサイアス様に近寄ると、右頬を地面に向けて仰向けに倒れ込むかのお方の側に膝をつきました。
見れば倒れた時に頭でも打ったのか、はたまた極度の緊張状態に強い衝撃を受けたのが原因か。
サイアス様は小さく呼吸しつつも意識を失われているご様子です。
そして、その瞳から数滴の熱い雫が……。
「………………」
それを見て痛ましげに目を細めながら、クロムウェル様が服の袖で兄君のお顔を拭われますと、立ち上がり居並ぶ方々に告げられました。
「皆、大儀であった。今回の騒動はこれにて幕だ。この私邸には医者がいるはずだから、そいつを連れて来て兄上を見て貰ってくれ。あと、けが人がいるようならその収容と……」
視線を下に向け、未だに膝をつき顔を俯ける黒服さん達へと言葉を続けます。
「兄上の護衛達は武装の解除を確認したのち、一時兵舎で軟禁させて貰う。丁重に扱ってやってくれ。くれぐれも粗相のないように。あと略奪、強姦、殺傷、その他諸々。法を犯す行為は全て禁ずる。これ以上、身内同士で争う意味もないからな」
最後に、王子様は固めた右拳の親指側を左胸に当てる軍式敬礼をされますと言いました。
「そしてありがとう。ここに来てくれた勇者たちの事を俺は生涯忘れないだろう」
『………………!』
人によっては口先だけの言葉と思われかねない台詞ではありましたが。
王子様が口にした瞬間、不思議な真実味を帯びて、それは会場にいる人たちの胸を打ちました。
ゴクリと息を飲み背筋を正される兵の方々。
興奮に鼻息を荒くするお父様。何故かポッと頬を染めるお母様。
目を細め、笑みを浮かべながら剣を鞘に戻すコウ・マクガイン様……。
その全ての人間を見渡した後、クロムウェル様は告げられました。
「では、全員仕事にかかってくれ。深夜になる前には終わらせよう」
その言葉に返事を返されますと、兵士さん達がそれぞれ仕事に取り掛かり始めました。
どうにもお父様が一応の旗頭となっていたようですが、内実としては見せかけだけの物だったみたいですわね。
王子様の救出が成った今となっては、各部隊の隊長さんぽい人達が主導して王子様の言われた仕事をこなし始めています。
「ああっ! レイ!!」「レイリィース!!」「「「お嬢様ぁ!」」」
「うわわっ! わっぷぅ!?」
そうして動く兵隊さん達を見ていると、感極まったお父様、お母様、爺やを筆頭としたヴィランガードに仕える方々に次々と抱き着かれ、私を中心にして一塊となって円を描きました!
円と言うより、肉団子と言った方が近しいでしょうか!
四方八方から押されてメチャクチャ息苦しいですわ!
「お、お父様、お母様!! 皆も! 苦しい! 苦しいですわ!」
「苦しかったのはこっちの方だよもう! お前ってやつは本当に心配ばかりかけてぇ!!」
「よ、鎧が痛い! お父様! 鎧の角が当たって痛いですわ!?」
「もうもうもうもう! もうこの子ったらほんとにもう! あなたが捕まったと聞いて私達がどんな気持ちでいたと思ってるんですのぉ!」
「お、お母様! 弓が当たってます! 弓がお腹に刺さってますぅ!!」
「おーいおいおいおいおいおい……!」
「爺やぁ! 泣いてないで皆を止めなさい! このままじゃ! うっぷ! なんか出ちゃいそうですわぁ!」
そう声を出しても誰もやめようとはせず、周囲を囲まれたまま、もみくちゃにされ続けてしまいます!
心配かけたのは分かってますけど、これだけ熱烈にハグされるのは困りますわ!
だってこれ!
まだ何も終わっていませんもの!!
「――――――」
視界の端で、コウ様が何かを告げながらクロムウェル様に近づいて行ってるのが見えます!
ま、マズイ!
私が昨日見た物が間違いでなければ、コウ様とサイアス様は繋がっています!
こ、この状況。
まさかとは思いますが、そのまさかがあり得るかもしれません!
それだけは絶対に避けなければ!
「ああ! あんな所に弓を構えた敵兵さんが!」
『ッ!?!?!?』
左方向を指さしながらそう言いますと、先ほどまで私に抱き着いていた皆さんが一糸乱れぬ動きで左方向へと体を向け整列しようとして。
「それじゃ、ちょっと失礼しまして……」
その隙をついて人ごみの中から抜け出し、王子様の元へと急ぎます!
コウ様と王子様の距離は残り10歩!
私はその間に足を滑らせながら割り込みますと、両腕を広げてコウ様と相対しました!
「止まりなさい、コウ・マクガイン様! あなたがサイアス様と繋がっていたのは全て存じ上げていますのよ! それがどの面さげてここにいますの!!」
「……えっと」
なーにを困ったように頬をかいていらっしゃるのでしょうか!
「王子様を裏切って! 私を無実の罪で捕まえて! そんなあなたの邪な企みは全てお見通しですわ! 武器を捨て! そこに膝をつきなさい!」
そう! 私は全て知ってます!
今回の件に関してもコウ様が裏で暗躍していたのは間違いありません!
そんなお方! 絶対王子様に近づけませんわ!
「あー、レイリィース」
そう意気込んでいると、私の右肩に左手を置きクロムウェル様が声をかけて来ました。
「コウの件に関しては半分俺の指示だ。俺が兄上に近づくように命じていた。だからそう目くじらを立てないでやってくれ」
「………………えっ?」
なんか信じられない言葉を聞こえたような……。
「レイリィース様。まぁ、そういう事なのでお気を静めて頂けると助かります」
「えぇ?」
「にしても遅かったんじゃないか、コウ? 俺としても内心、結構焦ってたんだがな?」
「これでも出来る限り急いだんですよ、王子。邸宅内部にいる護衛の半分を無力化して、門を開いて皆さんを連れ込み、今ここにいるんです。まぁ、助けるまでもなく逃げ出した方々がいたのは予定外でしたが、もう少し褒めてくれてもいいと思いますけど……」
「えぇっ?」
「フッ……。悪い。助かった。ありがとな」
「いえいえ。これが私の職務ですから!」
と言って敬礼するコウ様。
つまり。
これは。
えっと……。
「もしかして私の勘違い?」
「まぁ、そういうこった」
「えぇぇぇぇ……」




