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第32話「陰謀の主は」

「さてと、めんどくせーのは嫌いだ。ローランきょう、端的に聞こう。この意味わかんねー裁判は一体誰が主導したんだ?」


「………………」


 クロムウェル様の問いかけに、ギルバート様は答える事が出来ず、ただただ脂汗を流されつつ沈黙を保たれました。


 見ればその視線は王子様と、いつの間にやらその隣に立たれている白髪のおじい様との間を行ったり来たりしているようです。


 沈黙を貫かれるギルバート様を前に、クロムウェル様は一つため息をつかれると言葉を続けました。


「まぁ、言えるわけねーよな。自分が陰謀に加担したって認めるようなもんだし。なんにしろ貴族裁判所の長官に密命をくだせる人間なんて一握りしかいねー。その時点で答えはほぼ決まってるようなもんだ」


「お、お待ちください、王子!」


 すると、これまで驚きに言葉を失っていた検察官の方が、前のめりになりながら問いかけて来ました。


「この裁判が何者かによる陰謀に過ぎないなどと、何を仰っているのですか!? しょ、証拠はちゃんとあるのですよ!? 被告の筆跡の密書に! 毒薬に! スパイと密会した証人だっています!」


「んなもん、全部でっち上げに決まってんだろ。こいつの筆跡の文章なんて俺でも書ける。毒薬だって言ったもん勝ちだ。それにスパイと密会した証人って言ってもな、肝心かなめのスパイは今どこにいるんだ? 誰と密会したってお前は聞いてる?」


「そ、それは、マーラン王国の外交か……」


 そこで金髪の検察官様は言葉を止められると、目を見開いて王子様の隣に立つご老人に視線を向けました。


「そうだ。南の隣国マーラン王国の外交官、ムシュー・イザーク。その人にスパイ容疑がかかってんだろ? ちょうどいい、ご本人に自己弁護してもらおうじゃないか。よろしいですか、ムシュー殿?」


 その声を受け一つ頷かれると、お爺さんが、いえムシュー・イザーク様が一歩前に出られ、法廷内をゆっくりと歩き回りながら声を発されました。


「大いなる陰謀……。それがこの国に、そして吾輩わがはいたちの身に、降りかかっているのです……」


 大樹を思わせる深く、おもむきのある声。


 聞くものを引き付けるようなその声が法廷内に響き渡ります。


「明け方前、吾輩の宿舎に狼藉者たちが忍び込み、この身を誘拐しました。おそらくは王都から遠く離れた場所まで連れ去り、そこで処分するつもりだったのでしょう。すんでの所で助け出されましたが、少しでも遅ければこの首は体にくっついていなかったでしょうな」


 歩いていたムシュー様が裁判官席の前で止まると、ギルバート様を見上げて更に言葉を続けます。


「だが、吾輩は生き残った。そして生き残った以上、己の職務を全うする義務がある! その職務とは国王陛下の名の元に! アイリス王国とムーラン王国間における千年の友好を実現すること! 愚かな陰謀になど屈したりはせぬ!!」


 ドンと右足で床を叩かれると、声高々にムシュー様が告げられます!


「この身は清廉せいれんにして潔白けっぱくである! スパイ容疑など言いがかりもはなはだしい! 即刻! 事実関係の再調査を要請する!」


 法廷内の空気を一掃するように声が響き!


 言葉を失ってしまうギルバート様に検察官様。


 こちらを見て力強く頷かれるシナノ様。


 そして、私の横に立ちニヤリと笑ってこちらを見下ろされるクロムウェル様。


 それを見て、私も半分泣きそうになりながら笑顔を返しました。


 ……もしかして。


 もしかしたら、このまま全てが上手く――。


「クハハハハハハッ」


 そう思う私の背後、また扉を開く音が聞こえますと、拍手の音と共に誰かが入って来ました。


「これはこれは。大捕おおとり物ですね。まぁなんにせよ、これで邪魔者を一気に処分できますか」


 そう響く声。


 それと共に鳴る多くの足音。


 目を向けてみればそこにいらっしゃったのは。


「クハッ、クハッ……クハハハハハハハハッ! これで、これでやっと! やっと安心して眠れそうだ!!」


 サイアス・ウルニム・アイリス様。


 黒づくめの完全武装な男たちを引き連れて、陰謀の首謀者がそこに立っていました。


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