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第31話「一転」

「ッ!? レイリィース様、何を!?」


 突然の私の声に驚き、こちらへと振り向いたシナノ様に答えます。


わたくしの弁護をしてくださるのは感謝しておりますわ、シナノ様。でもギルバート様を黒幕扱いするのは間違っています!」


「「!?」」


「全てを裏で操る真犯人が存在するのです! 私をおとしいれ、この裁判で死刑にしようと企んだ真犯人が!」


「そ、それは、いったい……!」


 その声に答えて証言台を両手で叩くと言葉を続けます!


「サイアス・ウルニム・アイリス第一王子です! かのお方こそが! 私を死刑にしようとしている張本人ですわ!!」


 私の声が響き。


 シンと耳が痛くなるような沈黙がその場を支配しました。


 各々、目を白黒させて、息を詰め、何と言うべきか言葉を探しているご様子です。


「………………」


 ……シナノ様だけに矛先が向いてる状況に耐えきれなくて、サイアス様のお名前を出しちゃいましたけど。


 なんか今のこの空気をかんがみてみますと。


 ちょっとまずいタイミングで、マズイ人の名前言っちゃったのかもしれませんわねこれ……。


「レ、レイリィース様……」


「な、何でしょう、シナノ様?」


 弁護席に立つシナノ様が小声で問いかけて来ます。


「い、今のは、まさか、本気で……。本気で言われて、いるのですか?」


「……本気も本気です。私を取りまく陰謀の中心にいるのはサイアス様です。そしてそのことは――」


 裁判官席の中央に座るギルバート様を見上げて告げます。


「――貴族裁判所長官、ギルバート・ラング・ローラン様。あなた様が一番よくご存じなのではないですか?」


「…………ふざけた事を」


 苛立ちをごまかすかのように、手に持った小槌を台に叩きつけると、裁判長様が大声で告げました!


「被告は己の罪を認めないばかりか、少しでもこの場を混乱させるために、罪なきサイアス様の名前まで出した! 王族に対する暗殺だけではなく、このような侮辱までするとはもはや許しがたい!」


「それなら! このようなあり得ない早さでの開廷をどう説明するおつもりですか! 王族であるサイアス様に命じられたからこそ! あなたはそれほどまでに判決を急がれている! 違いますか!?」


「違う! もはや議論の余地が残っていないからだ! 証拠はある! 証人もいる! 判決を下すだけの十分な要素が揃っている! これ以上は時間の無駄である!」


「私の動機も解明されてないのに、何が『十分な要素が揃っている』ですか!? 恥ずかしいとは思いませんの!? 法の下に生き、法によって生かされている身でありながら、このような陰謀に加担するなど! 言語道断ですわ!」


「黙れぇい! ならば貴様こそ答えてみるがよい! サイアス様がお前を陥れようとしたのであれば、その動機はなんだ!? あるのか!? あのお方にお前を恨むような理由が!」


「先日、王宮で『恥を知れ』と言ってやりましたわ! たぶんそれを恨んでおいでなのです! 調査してごらんなさい!」


「そのような戯言ざれごと信じられるか!!」


 またギルバート様が小槌を叩き、空気がビリビリと震えるほどの大声で告げられました!


「これより判決を下す!!」


「い、異議あり! 議論が! 議論がまだ尽くされておりません!」


 シナノ様が横から手を上げてそれを制止されようとしますが、ギルバート様はそれをまるっきり無視して声を張り上げられて、


「判決は有――」



「失礼する」



 と、その瞬間!


 突然、私の背後の扉が開き、二人の人間が入って来ました!


 一人は痛んだ灰色の長髪をなびかせる、黒衣に身を包んだ騎士、ジョー・ジャック・ジャン・ジョーンズ様。


 そして、もう一人の方は短い総白髪に白いひげをたくわえられ、茶色の上着を羽織られた小柄な初老の男性。


 年齢は50代後半ぐらいでしょうか。見覚えのないお方ですわ。


 そのお二人が法廷の中に入ってくると、ジョー様が誰も座ってない傍聴席の柵を飛び越えて、私の隣に立たれました。


「随分とまぁデカイ声で話合うもんだ。廊下まで丸聞こえだったぞ」


「ジョ、ジョー様? こ、こんな所でいったい何を……」


「お前の護衛をするって言っただろ。まぁ、それがまさか、こんな事になるとは思っていなかったがな」


 そう言いながら、ジョー様が懐から何かを取り出すと、私が立つ証言台の机の上にそれを投げ置かれました。


 そうしてから前へと進み、書記の方へと近づいていきます。


 それを不審に思いながらも、私は投げ置かれた『何か』へと視線を向けました。


 こげ茶色をした装丁のしっかりとした手帳。


 その表紙に書かれている文字列。


『レイリィース嬢、調べ書き』


「えっ……」


「悪いがちょっとペンを借りるぞ」


 書かれている文字を見て呆然としている私をよそに、ジョー様がペンを取り戻って来られると、机の前に立ち、手帳の1ページ目を開かれ、私へとそこに書かれている文字列を見せました。


『レイリィース・ジョゼフィーヌ・ヴィランガード

 もしかしたら俺が惚れるのかもしれない女』


 その二行目の一文に線を引かれると、さかさまな状態でありながら、あり得ない程キレイな書体で後ろに文字を書き加えられて。


『レイリィース・ジョゼフィーヌ・ヴィランガード。

 俺がきっと心から愛する女』


 それを目にして、私はジョー様を見上げました。


「おいおい。なに泣きそうなつらしてんだ。似合わねーぞ、レイリィース」


「だって……だってこれ……」


「ハハハッ。ほんとに気づいてなかったのかよ。俺が婚約者を置いて一人で逃げ出すような、そんな人間だと思ってたのか? 心外だな」


「うっ……ううぅ……!」


 目の前に起こっている信じられない状況を前に、言葉を失ってしまう私をよそに。


 突然の闖入者ちんにゅうしゃに言葉を失っていたギルバート様がようやく声を張り上げられました。


「な、何者だ! 衛兵! 衛兵は何をしているか! 早くこの狼藉者ろうぜきものを摘まみだせ!」


「ほう? この俺を摘まみだせだって? おもしれー事言ってくれるじゃねーか。俺に何の罪があるってんだよ?」


「な、なにを!?」


「この国じゃ全ての人間が法によって縛られ、そして法によって護られている。だがな、唯一の例外があるだろ?」


 私の目の前に立つお方が振り返られると、ギルバート様を見上げながらそう言い放ち。


 そして、カツラを取り、付け髭を外し、懐から取り出したハンカチに小瓶から何かの液体を染み込ませると、それで顔をお拭きになられる。


 見る間に変わるそのお姿。


 輝く銀の短髪。


 煌めく健康的な白いお肌。


 意志の強さを秘めた鋭い灰色の眼光!


「ただ王族だけは、法によって守られこそするが、法によっては裁けない。兄上も父上も、そして俺もそうだ。つまり――」


 私の愛するお方!


 アイリス王国の第二王子!


「――兄上が乱心したって言うんなら、それを裁くのは俺以外には出来ない訳だ」


 クロムウェル・クォーツライト・アイリス様!


 かのお方が突如として法廷に現れたのです!

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