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第27話「ジョー・ジャック・ジャン・ジョーンズ」

「ジョー・ジャック・ジャン・ジョーンズ。アイリス王国の騎士が一人。王子クロムウェルの命により、あんたの護衛をしに来た」


「………………」


 王都の別邸(べってい)


 その応接室。


 二人掛けのソファに座る私の前。


 ジョー・ジャック・ジャン・ジョーンズと名乗る殿方が、ローテーブルを挟んだ向こう側で直立し、そう口にされました。


 黒の長袖の軍服を身に付け、白の手袋に手を通し、腰には黒鞘の直剣を下げています。


 ガタイがよく、身長は王子様より少し高いぐらい。


 よく日に焼けた小麦色の肌をしていますわ。


 ここまでなら、いたって普通の健康的な騎士さんなんですけど、首から上に目を向けると何とも言えないうさん臭さがただよっています。


 まず髪の毛。


 灰色の痛んだ長髪は背中に届くほど長く、前髪も頬にかかるほど伸びきっています。


 そのせいでお顔が口元くらいしかよく見えませんわ。


 その口元にも無精ひげが生えていらっしゃいますので、なんと言うか、まるで長毛種ちょうもうしゅの大型犬みたいな雰囲気の方ですわね。


 年齢は良く分かりませんけど、30代前半くらいでしょうか……。


「むむぅ……」


 昨日のサイアス様との一件から一夜あけて。


 本日は婚約が決まってから3日目の朝。


 朝食を食べ終え、今日一日どうするかと考えていた所、突然このお方がやって来て『護衛をしに来た』と、そう言われたのです。


 これはなんて言うかちょっと……。


 未来が変わりすぎてますわね……。


 このお方なんて、これまでのループで一度も見た事のない人ですわ。


 そんな殿方が出てくるほどに、変化が起きてしまっている。


 こうなってしまいますと、これまでのループにおける私の経験なんてどれほど役に立つか分かりませんわ……。


「書状の確認を……」


 そんなことを考えていますと、ジョー様がふところから封筒を取り出され、私へと差し出してきました。


「書状?」


「クロムウェル様からあんた宛ての手紙だ」


 差し出された封筒を受け取り見てみれば、王家の紋章とクロムウェル様のお名前が入った封蝋ふうろうがなされているのが見えます。


 確かに王子様からのお手紙なのは間違いないようですわね。


 早速あけて中を確認してみましょう。


 どれどれっと……。


『これから近衛騎士の抜き打ち訓練に出るので5日間ほど王都を離れる。

 その間、ジョーを護衛に付けてやるが無茶はするなよ。

 と言ってもそんなの聞く奴でもないだろうがな。


 クロムウェル・クォーツライト・アイリス』


「………………」


 窓から差し込む光に透かしてみますが、これ以上の文章が隠れているようにも見えません。


 つまり……。


 あの王子様は今……。


 王都から遠く離れて……。


「あのバカ王子!!」


「!?」


 ひ、人がせっかく前回のループで暗殺者に狙われたって教えて差し上げたのに、わざわざ王都から離れて隙を作るなんて何を考えてますの!?


 早く追いかけて訓練なんてやめさせないと!!


 しかも! 俺を惚れさせてみろ的な発言したばかりだと言うのに、手の届かない場所に行ってしまうなんて!!


 あのキスでホワホワしてたのやっぱり間違いでしたわ!


 首根っこひっ捕まえてでもあの場で私に惚れさすべきでした!


 あーもう! ほんとにあのお方は人の気持ちも知らないで~!


 そう考えながら、もう然と立ち上がり、応接室から出て行こうとする私の前にジョー様が立ちふさがりました。


「おどきなさい!」


「ダメだ」


「王子様が危ないんですわ! すぐにでも行かないと大変な目に合うかもしれないんです!!」


「近衛騎士に囲まれた現状ほど安全な状況はあり得ない」


「…………ん?」


「しかも、今回は要人護衛の訓練も兼ねている。王都にいるよりずっと危険は少ないはずだ」


「……んんん?」


 なるほど……。


 そう言われてみると確かに……。


 サイアス様を黒幕だと仮定しますと、あのお方の権力が及ぶ王都内の方が逆に危ないってのはありえそうです。


 むしろだからこそ、あのお方は訓練になんて行かれたのかも。


 近衛騎士、軍部とのつながりってのは、クロムウェル様の方がサイアス様より強いですからね。


 信頼できる部下を引き連れて一時避難されたような形でしょうか?


 しかし……。


 そう考えてみると、私を置いてけぼりにして行った、ってのにはなんだか違和感を感じますわね……。


 あの王子様がそんな事するでしょうか?


 サイアス様と敵対関係になった私を置いて一人で安全地帯に?


「むむむむ……」


 なんにせよ、どこかに行ってしまわれたってのはへこみますわぁ……。


 昨日は『俺がお前に惚れたら信じてやってもいい』っておっしゃった癖に。


 これじゃ、どうあがいても好感度が稼げないじゃございませんの……。


 それで代わりにこのヌボーとした護衛を送り込んで来られるなんて……。


 ほんとあのお方、何を考えてますの……。


「はぁ……」


 ため息と共に、目の前に立つジョーさんを見上げてみます。


 長い前髪で隠れた顔の下。


 どこを見ているとも知れない目をして、ただただそこに立っている護衛の騎士様。


 ……このお方もこのお方で、何を考えているのやら。


「それで、ジョー・ジャック・ジャン・ジョーンズさんでしたっけ? なんか変なお名前ですわね。なんとお呼びすれば?」


「好きに呼べ」


「じゃ、ジョー様で。あなたは王子様に何と言われて護衛に来ましたの?」


「『俺の婚約者の護衛につけ』。それだけだ」


「それだけって……。ほんとにそれだけですの? もっと理由とか色々聞いたりしてるんじゃ……」


「俺は王子を尊敬している。命令を疑うつもりはない」


「はぁ、なるほど……」


 堅物で慇懃無礼いんぎんぶれいな軍人さんって感じですわね。


 融通が効かなそうな雰囲気です。


 色々やらかしてる私へのけん制の意味もあるのでしょうか。


 しかし、なんでこのお方なんでしょう。


 普通こういうのって一番信頼してる部下。


 王子様で言えば、側近に当たるコウ・マクガイン様に任せるもんだと思うんですけど。


「あっ……」


 そっか。


 コウ様は近衛騎士だから特訓の方に同行してますのね。


 あのお二人は本当に仲がいいですからねぇ。


 王子様も信頼しきってる感じがしますし。


 コウ様はジョー様と違って丁寧で、ほんとに騎士の中の騎士って感じですし。


 ……今からでも取り換えて貰え――


 グギュウウ~~。


 そんなこと考えてますと、目の前からお腹の鳴る音が響きました。


「あの……ジョー様……?」


「色々あって昨日から何も食べてない」


「な、なるほど……。良ければ何か食べられますか? 簡単な物でよろしければ」


「ああ」


 な、なんだかほんとに大型犬が一匹来たような気分になってきましたわ……。


「出来ればクッキーも食べたい」


「はいはい。用意しますわ。付いてきてくださいまし」


 ほんと、これからどうしましょうか……。


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