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第3話『農村エンド』

~日差しも強く野菜が青々と実る農村地帯にて~


「いや~今日はいい天気だべなぁ」


「ほんとですわぁ。いいお天気でお野菜さんも嬉しそうですわぁ」


「おめさんも働き者だぁ。突然手伝わせてくれって転がり込んで来た時はびっくりしたがぁ、よう手伝ってくれて助かっとるわぁ」


「オーホッホッホッ! 誉めても何も出ませんことよ!」


 そう会話しながら畑の中、野良仕事に精を出す私とおじ様。


 畑になったキャベツの横を草むしりをしながら見回り中です。


 大きくなり始めたキャベツが一面に並んで、花が咲くように成長する姿はまさしく圧巻の一言ですわね!


 いい所のおじ様に拾われましたわ~!


「ふふふっ……」


 ここは王都から北西に丸3日間ほど離れた片田舎。


 辺り一面に農園が広がってる農村地帯ですわ。


 あのあと、衣服と当座の食料等を買い込んだ私は、寄り合い馬車に乗り込んで、とにかく王都から離れました。


 場所をどこと決めていた訳ではありませんが、しばらく馬車に揺られながら旅を続け、注意深く周囲を見渡していた所、よくよく丁寧に育てられたこの農園に目が付き、ここでお世話になることに決めたのですわ。


 人間、自分がしている仕事には嘘をつけない物です。


 畑を見て見込んだ通り、農場の主であるマキヒタおじ様は、几帳面で優しい性格のお方で、土下座して頼み込む私を前に苦笑いを浮かべながら、二つ返事で働くことを了承されました。しかも住み込みで!


 ありがたい話ですわ。


 当座の生活拠点を、これだけスムーズに決める事が出来たのは重畳ちょうじょうと言うほかありません。


 そして、ここで生活していれば追手がかかったとしてもすぐに見つけることなど出来ないはず!


 今の私の姿を見て『あっ貴族令嬢だ!』と思う人間などいるでしょうか!?


 いいえ、いらっしゃいません!!


 丈の長い花柄ズボンにダボついた長袖。


 土で汚れたエプロンに麦わら帽子。


 おじ様とした自然すぎる会話!


 完璧……!


 完璧ですわ!


 今の私は誰がどう見ても、どこにでもいる農家の美人過ぎるお姉さんですわ!


 これなら追手が来ても私だと気づかないはず!


 そしてこのまま十数日でもやり過ごせば、周りに急かされて王子様も婚約者を選ばざるを得ない!


 そうなれば私は生き残れる!


 未来に一歩踏み出せる!


 完璧な計画ですわ!!


 自らの知性が恐ろし過ぎますわぁ!


 アイリス王国随一の知的令嬢ですわぁ!


 しかし――


「むぅ……」


 ――私が婚約者じゃなくなると言うことは、別の誰かが婚約者になってあの嫉妬の犠牲になるということ。


 それはさすがに可哀そうですわね。


 まぁ、身分の高い公爵家とか侯爵家のご令嬢から選ばれれば、私の時のように簡単にハメられることはないでしょうけど……。


 今回の事件が起きた要因の一つは、私が辺境の伯爵家の娘で、社交界にもほとんど顔を出さず、横のつながりが薄かったことも一因でしょうし……。


 でも……無視するわけにも、いきませんわね……。


「……婚約者が決まったら王都に戻って出来る限りのことをしましょうか」


 ほんのちょっぴりのお力添えしか出来ないでしょうけど。


 それでもないよりはマシなはずですわ。


 私の時なんかは、ほんとにもう誰も助けてくれなくて――。


「おっ、野菜がいい感じに育ってるじゃねーか」


 ――と、考え込んでいると、私の背後、柵の向こう側、街道からそう声が飛んできます。


 振り向いてみれば、ここから4メルテ程の距離に白馬に乗った男性がいるのが見えました。


 お客様でしょうか?


 視線を巡らせてみると、普段見ない顔の男性がそこここに立っているのが分かります。


 前を進むマキヒタおじ様も何事かとキョロキョロと周囲を見渡していますわ。


 まぁ、何にしてもまずはご挨拶ですわね!


 私は今、農家の美人過ぎるお姉さんなのですから!


 愛想を振りまくのも仕事のうちです!


「あら、ごきげんよう。見る目のあるお方ですわねぇ。ここのお野菜は、げぇっ!?」


「ほう、この俺に向かっていきなり『げぇっ』だと?」


 こ、この人……!?


 い、いやこのお方は!?


「なるほど、中々見つからねーわけだ……。身に着けたその服に帽子……。目的のためには、泥にまみれることもいとわない執念……。フッ! おもしれー女じゃねーか! 気に入ったぜ!」


 灰色の瞳に整った顔立ち!


 自信に満ちた表情に、きらめく銀の御髪おぐし


 シワ一つない金の刺繍の入った黒衣!


 この人は!? こここ、このお方は!?


「お前、俺の婚約者になれよ!」


「クロムウェル様!? な、なぜ!? ど、どうしてぇ!? どうして王子様がこんな所に!?」


 間違いない!


 アイリス王国の第二王子、クロムウェル・クォーツライト・アイリス様ですわ!?


 王都から離れた片田舎にどうして王子様が!?


「フッ、この俺とのお見合いから逃げ出した、おもしれー女いるって聞いてな。少し探させてもらったぞ」


「なななな、何のことでございましょう!? きっと人違いされてるんですわ! 私、そんな『おもしれー女』ではございませんわ!」


「ははぁ、なるほど人違いか」


「そうです! 私はどこにでもいる、農家の美人過ぎるお姉さんであって、王子様のお相手になるような――」


「レイリィース嬢! こちらへ!!」


「ひゃい!!」


呼ばれて思わず踏み出す一歩!


「おおっと、どういうことだ? 美人過ぎるお姉さんの名前も『レイリィース』なのか? 奇遇だな。俺の探してる女も同じ名前なんだ」


「はっ!? はわわわっ!?」


 や、やらかしましたわ!


 でも! こんなロイヤルオーラ溢れる王子様に名前を呼ばれて、答えない貴族令嬢がいらっしゃいまして!?


 いいえ、おりません!


 だって失礼過ぎますもの!


 王族に呼ばれて答えないなんてマネ、出来る訳がありませんわ!


 憎い!!


 自分の生まれが憎すぎますわぁ!!


「よっし。もう逃げ場はないぞ、レイリィース」


 言葉と共に指を鳴らす王子様。


 すると、周囲にいた男性たちが静かに、そして素早くこちらに近寄ってきて私を包囲する!


 に、逃げ場が!?


 ていうか、マキヒタおじ様のキャベツが!


「言いつけ通り畑を荒らすなよ。あとここの持ち主には迷惑料を払っとけ」


「承知しております」


 それを聞いてほっと一安心。


 ……って安心してる場合じゃないですわ!?


 に、逃げ――!?


「失礼、ヴィランガード嬢」


「ハウワッ!」


「レディに手を上げるつもりはありませんが、逃げられる訳にもいきませんのでね」


「危うくぶつかる――げぇっ!?」


「おやおや、私にも『げぇっ』ですか?」


 逃げだそうと振り向いた瞬間、私の目の前に立ちふさがった人物!


 この殿方には見覚えがあります!


 覚えがある所か、忘れたくても忘れられないお方ですわ!


「おい、コウ。分かってるな。傷一つ付けるなよ」


「承知しておりますってば」


 濃紺の短髪に温和な表情。


 優し気にきらめく青い瞳。


 スラリとした長身ながら筋肉質なその体つき。


 小綺麗な白い装束、腰に差した一本の剣。


 コウ・マクガイン様! 26歳にしてクロムウェル様付きの近衛騎士になられたお方!


 そして!


「あわわわわっ! ひえええっ!」


「そんなに怖がらないでください。変なことをする気はありませんから」


 変なことするんですわ、あなたはこれから!!


 これまでのループで、この私を何度もひっつかまえた張本人じゃありませんか!


 まぁ、本人は命令通りに任務をこなしただけなのでしょうけど!


 でも、この人によって私は何度も捕まり!


 ろくな弁護もなく貴族裁判所で有罪になり!


 そしてあの監獄で毒入りワインを飲むハメになるのです!


「ほら、行きますよ? 大丈夫、恐ろしいことなんて何も起きませんから」


 いや起こるんですわ、これから!!


「そうだ。お前が俺の婚約者になるだけだ。何も変なことは起こらん」


 起こるから逃げて来たんですけど!?


 って、そんなこと言っても、まだ何も起きてないから伝わらないんでしょうけど!


 ループの話とか全部しても、笑い話だと思って聞き入れて貰えないんでしょうけど!


 せっかく逃げきれたと思ったのに!


 運命を乗り越えることが出来たと思ったのに!


 こんなの。


 こんなのぉおお!!


「あああああ――」


「あん?」「どうされました?」


「あんまりですわぁああ!!」



――――――



 憎い


 憎い憎い憎い


 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。


 憎い!!


 絶対に


 許さない。



――――――



~十日後、王都の別宅にて~



「レイリィース・ジョゼフィーヌ・ヴィランガード! あなた、王子の婚約者でありながら外国と通じて国王陛下の暗殺を企てましたね!」


「ほら来たぁ! だからコウ様って苦手なんですわっ!」


「ずべこべ言わないでください! 証拠は既にあがっています! あなたの筆跡の密書も、暗殺用の毒薬も、スパイと密会した目撃証言もあるんですよ! 逃げられると思わないでください!」


周到しゅうとうな計画過ぎて若干引きますわ!」


「自画自賛ですか!?」


「ち、ちが、私をおとしめようとする――モガァッ!」


「連行しろ!!」


「「「「了解!!」」」」


「モガアアアアアッ!!」



―――――-



「――以上の証拠により! 被告人、レイリィース・ジョゼフィーヌ・ヴィランガードが国王陛下暗殺を目論もくろんだことは明らかである!」


「「「異議なし!」」」


「異議あり! 異議あり! 異議大ありですわ! もっとちゃんと調査してくださいまし! だいたい、弁護人まで異議なしなん――」


「被告の異議は認めない!」


「せめて最後まで聞いてくださいませんこと!?」


「黙れ! 判決は有罪! 国家反逆罪により死刑に処す! 監獄に連れていけ!」


「あんまりですわぁああ!!」




―――――――




「時間だ。飲め」


「…………」


「早くしろ。それとも無理やり――」


「何でですのおおおおおおおお!!!!」


 グビィイイイイッ!!


「うおっ!?」


「ううううううううっ!? グハアッ!!」


 バタン!


「し、死んだ? 驚かしやがって……」



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