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第22話「友人」

「ハハハハハッ! マリンフォード嬢! どうぞゆっくりしていってくれたまえよ! お菓子もたくさん用意してあるからね!」


「そうですわ! どうぞごゆっくり! そうだ! 朝はまだ冷えますからひざ掛けを用意させましょう! 柄は何がいいかしら!?」


「お父様、お母様! 大丈夫! 本当にもう大丈夫ですから! 少し静かにしててください!」


「おっと! まさかレイに静かにしろと言われるとはね! こりゃ伯爵、一本取られちゃったよ! アハハハッ!」


「伯爵夫人も一本取られましたわぁ! オーホッホッホッホッ!」


 アヤ・マリンフォード様と朝食を共にした後。


 私の私室に顔を見せハイテンションで絡んでくる両親を、何とか部屋の外に追いやって一息つきます。


 何なんですか、あの人たちはまったくもう……。


 人が珍しく他の家のご令嬢を家に招いたからって、テンションおかしくなり過ぎですわ……。


「はぁ……」


 ため息をつきながら振り返ると、爺やに用意させた茶色の椅子に座り、キョトンとした表情でこちらを見るアヤ様が見えます。


 あのあと、さすがにいきなりダイニングルームで私の両親と共に食事をするのは気まずいだろうと思いましたので。


 私の部屋に二人用の丸テーブルと椅子を用意させ、そこで食事を取っていたのです。


 今はそれも終わり、食後の紅茶をたしなんでいる所ですわ。


 爺やにも下がって貰い、気軽にお話ししようとしていたのですが。


 ……そんな時にあの二人はもう。


「失礼しましたわね、アヤ様。うちの両親、ちょっと愉快なんですの」


「あっ、いえいえ、お気になさらず。うちも似たような物ですから」


「あら、そうなんですの?」


 自分の席に戻りながら問いかけてみますと、アヤ様は苦笑いを浮かべながら答えました。


「うちは男兄弟ばかりで、下に3人、上に2人もいますから、もう毎日が戦争ですよ」


「フフフッ、楽しそうではございませんか」


「全然ですよ。小さい方は毎日元気すぎますし、上は上でもっと女らしくしろと口うるさくて……。でも、周りにいるのが男ばかりなので、こういった服装の方が気が楽で……」


 と、自らが身に付けている白衣を見せながら、そう告げてくるアヤ様。


 うーむ、しかしよく似合っていらっしゃいますわね。


 スタイルが良くて背も高いお方ですから、細身の衣装が良く映えますわ。


 ボーイッシュな顔つきも相まって、まさしく貴公子然としたお姿です。


「私はよくお似合いだと思いますけど。王子様みたいで」


「ハハハッ。茶化さないで下さい。兄弟からは『男女』と虐められてるんですから」


 そう口にしながらも、どこか嬉しそうな表情をされています。


 どうもかなり仲の良い家族のようですわね。


 文句を言いながらも、明るい表情なのがその証ですわ。


「あぁ、いや。とにかく!」


 ふと、アヤ様がコホンと一つ咳をされると姿勢を正し、改めて対面に座る私へと口を開かれました。


「突然の来訪にも関わらず、温かく迎え入れて頂きありがたく思います、レイリィース様」


「ああちょっと。そんな固くならずとも結構ですってば。お気になさらないでください」


「ありがとうございます。やはりこの懐の深さ……。流石はヴィランガード家のご令嬢ですね……」


「んん?」


 ……先ほどからどうにも気になりますわね。


 アヤ様の言葉を聞くにつれ、どうにも我がヴィランガード家を良く知っているかのような口振くちぶりが目立ちますわ。


 うーむ、少し聞いてみましょうか。


「アヤ様はうちの事をよくご存じですの?」


「えぇ!? いや、そんな事は……」


「でも、先ほどからどうにもそのような口振りで……」


「それはその……」


 視線を迷わせ、ワタワタと手を動かしながら言葉を探されるアヤ様。


 しばらくそうしたあと、観念したかのように一つ息をつかれますと語り出しました。


「私が一方的に好意を抱いていたというのが本当の所です」


「一方的に? それはどういう……」


「はい。実は私、本を読むのが趣味でして。特に騎士の物語を」


「はぁ、騎士の」


「そうです。強く、誇り高く、勇気と忠誠心に満ち溢れた騎士が活躍する話が好きでして、それでその……」


「…………ああ」


 そこではたと気が付きました。


 確か初代ヴィランガード伯が、まだ一介いっかいの騎士に過ぎなかった頃を題材とした本が出版されていたはずです。


 タイトルは『金翼きんよくの守護騎士 ジークフリード物語』。


 私も昔、読んだことがありますわ。


 今から100年以上前に活躍した、ジークフリード・ヴィランガード様の英雄譚で。


 一人の騎士が、多くの仲間達に囲まれながら逆境に打ち勝ち立身出世していく物語です。


 地元では結構人気だったと思いますが、王都の方でも知られてますのね。


 なんだか誇らしいですわ~。


「ウグッ……!」


 ……しかし、そう考えてみると私のこれまでの行動って、結構初代様の顔に泥を塗るような物も多かった気が。


 子供の頃はそれこそ好き放題してましたし、親に迷惑をかけた事も一度や二度ではございませんし……。


 ああ、いやでも初代様は初代様で、名誉のために命令違反とかされてますし、きっと笑って許してくれますわよね……。


 いや、でも、しかし……。


 心苦しさが勝りますわ……


「申し訳ございません、アヤ様……」


「えっ!? いや急に何を!?」


「初代様に比べたら、私なんて雑草ですわ……。失望されましたわよね……。期待を裏切るような人間でごめんなさい……」


「いいっ!? いやいやいやいや、そんな! そんな事はございません、レイリィース様!」


「しかし……」


「昨日の会合で私は確信しました! 誇り高きヴィランガード伯の血が、あなたに色濃く流れている事を!」


「でも……」


「敵意を持ったご令嬢方を相手取って一歩も引かない凛々しき姿! 己の意思を鋭く音に乗せる声の響き! まさしく本に描かれていた初代ヴィランガード伯そのままです!」


「されどぉ……」


「それに己の誇りよりも他者への愛を優先された昨日のお姿は、初代様が地位も名声も捨てて愛しき人を救いに行った故事そのままではありませんか! もっとご自身を誇りにお思いください!」


「そんな事はぁ……」


 ……ありますわね。


 いや、昔から結構、私ってば初代様に似てるんじゃないかって思ってたんです。


 行動力がある所とか、何かと騒ぎに巻き込まれる所とか。


 その結果、何だかんだ上手くいく所とか。


 言われてみれば言われてみる程。


 そっくりかもしれませんわね、私達って!


 いやぁ! そうじゃないかなって思ってたんですわ!


「オーホッホッホッホッ! そんなに褒めないでくださいまし! 照れますわぁ!」


「いやいや、事実を言ったまでです! レイリィース様は素晴らしいお方です!」


「いや、そんなそんな! あっ! お紅茶がなくなっていますわね! お注ぎいたしますわぁ!」


「えぇっ!? そんな!? 自分でやりますよ!」


「フフフフッ! 『はいに酒を注ぐは友の特権』でしてよ! まぁ、これはお茶ですが! オーホッホッホッ!」


「そ、それは2巻の名台詞!?」


「初代様の本ですもの! 私も一通りは嗜んでおりますわ!」


「本当ですか!?」


「はい! よろしければこの後、家を見て回りながらお話いたしませんか? 作中で出て来た施設もこの家にまだ幾つか残っていますから!」


「よ、よろしいのですか!」


「当然ですわ! アヤ様と私の仲ではございませんか!」


「あぁ! ありがとうございます、レイリィース様! やはりあなたは立派なお方だ!」


「それほどでもありますわぁ! オーホッホッホッホ!」


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