第19話「お茶会」
ティアラ・エルモンド・ディスパーション様。
御年18歳。
パッと見では小柄で可愛らしい少女のように見えるお方ですが。
その黄金の瞳には、殿方でさえ圧倒されるような凄まじき力が秘められています。
そういう点ではクロムウェル様に似ているかもしれませんね。
あのお方も覇気の籠った鋭い目をしていらっしゃいますし。
さすがは従姉弟同士と言った所でしょうか。
ティアラ様のお母様は現国王陛下の妹君ですわ。
そのお方がディスパーション公爵家へと降嫁なさり、そうして産まれたのがティアラ様。
幼い頃から才女として有名で、10になる頃には万の書物を暗記されていたとか。
ただ、あまり表舞台に出るのを好む方ではなかったらしく。
本を読んだり、その注釈を編纂したり、観劇に赴いたり、ごく少数のお茶会を開いてみたりなど。
細々とした活動に終始されていると聞いていましたが。
そんなお方が今。
「ありがとう。下がりなさい」
「ハッ……!」
人んちの爺やを見事に使いこなし、先ほどまでご令嬢方のいた会場の中心に、小さな机と椅子を2脚用意させると、お茶とお菓子を持ってこさせ、見る間に茶会の席を整えられました。
人を使うのが上手いと言うか、言葉に不思議な圧があって、何故か従いたくなるようなお方ですわね……。
さすがは王族の血を引くご令嬢と言った所でしょうか。
「さぁ、いただきましょう、レイリィース」
「はっ、はい……」
私たちは今、向かい合うようにして席につき、白いテーブルクロスの引かれた机を間に挟み、紅茶とお菓子を嗜もうとしている所です。
ほぼ初対面のお方とのサシお茶会。
しかもクロムウェル様の従姉がお相手ともなると緊張もひとしおですわ。
……まぁ、何はともあれ。
さすがに疲れましたわねぇ……。
半分覚悟していたとはいえ、あれほど詰められるとは思ってもいませんでしたわ。
もうちょっと穏便に進められると考えていましたが、やはりそう上手くは行きませんでしたか。
紅茶がしみじみ沁みますわぁ~……
「ングングッ……んはぁあ~……」
「フフッ、お疲れのようね」
「あっ! いやこれはそのっ!」
「大丈夫。気にしなくていいわ。どうせここには二人しかいないんですもの」
そう言いながら見事な所作で紅茶を口に含まれるティアラ様。
その後、ふぅと小さく息をつきながらカップを皿に戻し、微笑みながらこちらへと視線を向けられて。
黄金の瞳が輝きを放ちながら私を捉えました。
「っ!」
それに思わず背筋が伸びます。
何と言うか、ほんとに一々威圧感のあるお方ですわね……。
見てみれば、そんな対応をされるのは慣れた物なのか、特に気にした様子も見せず、ティアラ様は口を開かれました。
「そういえば、招待もないのにお邪魔してごめんなさいね。驚いたでしょう?」
「あっ、いや。お気になさらず。あっ、いやいやいや、少しお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「いいわよ」
「一体どこにおられましたの? 会場にはいらっしゃられなかったと思いますが?」
「机の下に隠れていたの」
「つ、机の下に!?」
「ええ。ここの使用人の方に無理を言って内緒でね。いると知られるのは面倒くさそうでしたから」
「な、なるほど……」
とりあえずそう声を返しますが、ちょっと理解に苦しみますわ……。
なんだってそんな事してまでこの会を見ようとされたのか……。
いや、それよりも先ほどからずっと気になっている事があります。
不躾ではありますが、まずはそれを聞いてみましょう。
「……でも、どうやってこの会合について知られましたの? 私が手紙を出したのは、お見合いに参加された方だけでティアラ様には送っていませんし、昨日の今日の開催だと言いますのに……」
「ルイーズから手紙が届いたのよ」
「ルイーズ様から?」
「ええ」
カップを手に、紅茶の香りを嗜みながらティアラ様が言葉を続けられる。
「明日、あなたを糾弾するから、その後、力添えを貰いたいって手紙がね」
「……っ!」
「あとご令嬢方を集めようとする、あなたの手紙の写しも届いたわ。酷い文章だったわね、あれ」
「うぅっ……。それに関しては反論できませんわ……」
「それで何が起こるか興味があったから少し忍び込んでみたって訳。面白い物が見れると思ったし、実際楽しめたわ。まぁ、なんにせよあなた――」
ニンマリと、ティアラ様が笑みを深められました。
「――クロムウェルの事がほんとに大好きなのね」
「うっ……! そ、それはその……その通りでございますが……」
真正面から言われ、何故か居心地の悪さを感じながらそう返します。
そんな私の様子をまた笑いながら見られつつ、ティアラ様が口を開かれました。
「そう。それがあの子の誤算だった。ルイーズがもし、あなたがこれほどクロムウェルのことを愛してると知っていれば、もっと違う手段を講じたでしょう。でも、あの子はそんなはずはないと思い込んで、一気に追い詰めようとし、最後の最後で詰めを誤った」
「……あの、そのことなんですけども、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「なに?」
「ティアラ様は先ほど私が勝利したって仰りましたけど、私、自分が勝ったなんてこれっぽっちも感じていませんわ。むしろ最後の最後まで、ボッコボコにされたと思っているんですけど……」
「そうね。相手を論破すれば勝ちなら確かにルイーズの勝ちでしょう。でも、事はそう単純ではないでしょう?」
「と、いいますと?」
ふぅ、とティアラ様は一つ息をつかれますと、カップを皿に戻し、出来の悪い生徒に教え込むような口ぶりで告げられました。
「あなたの勝利条件は、クロムウェルとの婚約を認められる事。他の令嬢達が今後無駄な問題を起こさないようにするために。そうでしょう?」
……殺されないためってのが一番の理由ですが、まぁ大枠ではあっています。
コクリと頷き言葉を促しますと、ティアラ様は続けられました。
「今、帰りの馬車の中で、あの子たちはこう自問しているはずよ。『もし、自分が婚約者に選ばれていたとして、あの人と同じようにご令嬢方の罵声に耐え、己を貫き、あまつさえ跪いて敵の靴にキス出来ただろうか?』とね」
「………………」
「ほぼ全員『出来ない』と、そう思う事でしょう。あなたが認められていなかったのは、あなた自身が知られていなかったからよ。でも、今日この日にあの子達は知った」
また笑みを深め、まるで何かを思い返すかのように目を細められて、ティアラ様が告げられます。
「レイリィース・ジョゼフィーヌ・ヴィランガードと言う人間を、その人がどれほどクロムウェルを愛しているかを、あの子達は知ったの。そしてこう思ったはずよ。『あの人には勝てっこない』ってね。フフフッ……」
コロコロとまるで猫のように笑われるティアラ様を前に、私は思わず視線を伏せ、一つ息をついてしまいました。
それを見てでしょうか、また対面に座るお方が私に問いかけて来ます。
「あら? 勝ったと教えてあげたのに随分と気落ちした様子じゃない? どうかした?」
「それは、その……」
「気にせず言ってみなさいな。どうせ二人しかいないのだから」
「いや、その……。私が勝つのって結局多くのご令嬢方が失恋することを意味するんじゃないかって……。今更ながらにそう思いまして……」
「あら、あなたそんなこと気にしてるの?」
「うぅ……そりゃ気にしますわよ……。恋敵とは言え、同じクロムウェル様に惚れた者同士ではありませんか……」
「へぇ~……ふ~ん……なるほどねぇ……」
ティアラ様が目を細め、こちらを値踏みするような視線で見つめられます。
「大胆かと思えば繊細。粗忽に見えてその実優艶。剛直に見えるが柔軟性に富み、英才に見えて何も知らない……。フフフッ……そんなあなただから、あの子は選んだのかしら?」
面白いわね、とそう告げられてティアラ様はまた紅茶を口に含まれました。




