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第18話「会合③」


 そうである以上、ルイーズ様との対決は避けようがありません。


 そしてこのお方を説得できるかどうかが、今回の会合の分水嶺ぶんすいれいとなるのは間違いないでしょう。


 ルイーズ様の貴族令嬢界における影響力は計り知れませんし。


 そしてそれ以上に!


 私の殺害を主導する程、憎んでおられるこのお方を説得出来れば、他のご令嬢方だって心から納得していただけるはずです!


 だから失敗は許されません! この会合、何としても成功させなければ!


「それでは――」


 最後の付き人さんが会場から出て行くのを確認し、全てのご令嬢方の視線がこちらに集まり、それを見返しながらゆっくりと口を開きます。


「――会合を始めましょうか」


 そうして一通り、ご令嬢方を見渡して。


 その後、さっそく息をつく。


 ……予想してはいましたけど、めちゃくちゃ空気が重いですわね。


 そりゃあんな手紙で呼び出し食らったら上に、この方々にとって、私ってば『ろくに縁もなかったのに、何故か婚約者に選ばれた怪しいご令嬢』に過ぎませんから、警戒心丸出しになるのも分かりますけど。


 でも、もう少しぐらい友好的な方がいてもいいと思いますわ……。


 まぁ、泣き言を言っても始まりませんか。


 とにかく。


 まずは自己紹介ですわね。


「私はレイリィース・ジョゼフィーヌ・ヴィランガード。ヴィランガード伯爵家の一人娘ですわ。お初にお目にかかる方もいらっしゃるとは思いますが、どうかよしなに……」


『………………』


 反応はなし。


 想定内です。間髪入れずに言葉を続けましょう。


「そして、まずは皆様方に謝罪を」


 ピクリと、私を見る数人の表情が動きました。


 それを確認しながらも、言葉を続けそして頭を下げます。


「この度は大変失礼な手紙を送り、ここまでお呼びたていたしまして誠に申し訳ございませんでした。あれは私の本心ではございませんの。ただただ、皆様と一日でも早くお目通りするための策だったのですわ」


『………………』


 反応はない。


 こちらの意図を計りかねてると言った所でしょうか。


 そのまま頭を下げ、たっぷりと5秒間待ち、その後ゆっくりとおもてを上げます。


 こちらを見るご令嬢方の瞳には、疑心、敵意、恨み辛みと言った感情が見え隠れしていますが。


 それでもなお、言葉を続けます。


「今日、この場に皆様をお呼びしましたのは、皆様からどうか『お許し』を頂ければと思ったからです」


「許し……?」


 会場の中、どこかで誰かがそうつぶやき。


 私は声の聞こえた方へと顔を向けると答えました。


「はい。王子様との婚約を皆様に認めていただければと思い、この会合を開かせていただきましたの」


『………………』


 またしばし沈黙が続き。


 しかし今度は――


「そんなの……そんなの許せるわけないでしょうっ!!」


 ――反応がありました。


 舞台の上にいる私を、半円を描くようにして取り囲んでいるご令嬢方の中。


 その端にいたお方が声を上げると、つられるようにして他の方々も声を上げ始めました。


「そうです! 許せません!」「社交界に顔も出さない癖に!」「どんなみだらな手段で王子様をたばかりましたの!」「恥を知りなさい、恥を!」「誰が認めるものですかっ!!」「自分の立場をもっとわきまえなさい!」「この田舎娘!」「ジャ、ジャガイモ!」「自分がクロムウェル様にふさわしいと本気で思っていらっしゃるの!?」「ヴィランガード家も落ちたものですわね!」


 湧き立つようにして飛び出す言葉。


 人払いをしたとはいえ凄い熱量ですわ。


 それだけ鬱憤が溜まっていたって事でしょうけど、ここまで言われるとは……。


 流石にちょっとカチンと来ちゃいますわ……。


「………………」


 いやいや。何にせよ、今は我慢。とにかく我慢です……。


 彼女たちの言い分にも一理あります。


 ここは何も言い返さず我慢を……。


「あなたのような人間が国をダメにするのですわ!」「まさしく獅子身中しししんちゅうの虫です!」「傾国けいこく先触さきぶれですわ!」「自分で自分を恥ずかしいと思いませんの!?」「今すぐ王子様に、やはり婚約は出来ないと伝えて来なさい!」「そうです!」「私たちを差し置いて何故あなたなどが!?」


 が、我慢を……。


「田舎者は田舎に引きこもっていればいいのです!」「その上、このような無礼な行いをして!」「自分が既に王族の一員にでもなったつもりですか!?」「そんな増長したお考えで、この先上手く行くと本気で思ってますの!?」「騎士のほまれはどうしたんですか、騎士の誉れは!!」


 がまん……。


わたくしたちが、どれほどクロムウェル様を思っていたか分かっていらっしゃいますの!?」「分かってるはずがありませんわ!」「だからあんな馬鹿な手紙を書いて、こんな馬鹿な会合開いてますの!」「人の気持ちとか考えた事がございまして!?」「このお馬鹿! 考えなしの向こう見ず!」


 我慢出来る訳がありませんわ、こんなの。


 こ、このお方々、人が黙って聞いていれば調子に乗りあそばれましてぇ……!


 私がどんな気持ちでここにいて、どんな気持ちで許しを乞うているのか、欠片も分かってない癖にぃ……!


 えぇい! もう辛抱たまりませんわ!


 こうなったらここにいる23人全員、論破してやりますとも!


 何にせよ、最後に笑うのはこのわた――


 ピシィンッ!!


『ッ!!』


 ご令嬢方の声が響く中、何かを叩く高い音が鳴って、それまで声を上げていた方々が一斉に静まり返りました。


 視線を向けてみれば音が鳴った方向に、瞳を閉じ直立するルイーズ様がいらっしゃいます。


 どうやらあのお方が閉じた扇で手の平を打ち、音を立ててご令嬢方の言葉を止めてしまったみたいですわ。


 そうして静まり返った会場の中、十分に自らへと注意が向いたのを確認してから。


 流れるレッドブラウンの御髪おぐしを輝かせつつ、その青い瞳を開かれると、ルイーズ様が告げました。


「皆々様方、幾ら秘密の会合とはいえお口が悪すぎますわよ」


「ル、ルイーズ様……」


 思わずと言った具合に漏れたご令嬢の声。


 かのお方はそれに笑顔を返しますと、私のことを見上げながら言葉を告げました。


悪徳あくとくを胸にする者には、善徳ぜんとくで持って当たらなければなりません。言葉をあやつり、感情を乱す者には、理性と論理で持って当たらなければなりません」


 先ほどまで熱気を帯びていた空気が冷えていきます。


 ルイーズ様が言葉を発するたびに、自由に動いていたご令嬢方の心が、あのお方の元で一致団結していくのを感じます。


 ……これが『カリスマ』と言うものですか。


 たった一人の人間が、多くの人の心を掴み、それを己の力と変えてしまう……。


「さぁ、レイリィース様。会合を続けましょうか」


 やはり、ルイーズ様。


 このお方が最大の障壁ですわ……!



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