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第18話「会合②」

――――――



 一人の少女が陽光が差し込む部屋の中、一枚の手紙に目を通していた。


 紅茶の置かれた高い机の前、足の長い椅子に座って頬にうっすらと笑みを浮かべるその姿。


 白銀の長髪に白磁はくじの肌。


 細かい刺繍の入った白いワンピースに袖を通し、彼女は手紙の文章を何度も何度も読み返している。


 その少女がふと言葉を漏らした。


「面白いことを考える人がいたものね……」


 手紙を見つめる金の瞳がギラリと光った。


 小さな少女に似つかわしくない、猛禽類を思わせる金色の瞳が弧を描き。


 そして、それは形を変えることもなく側に立つ若いメイドへと向けられた。


「準備なさい。『観劇』に行きましょう」


「ハイ」


 一言そう返して、使用人が礼と共に部屋から出て行き。


 その間も少女はずっと手紙を見続けていた。


 まるでおもちゃを見つけた子供のような笑みを浮かべたまま。


 ただひたすらに手紙を見つめ。


 そしてそれを書いた人間のことを思い続けていた。


「フフフ。フフフフフフッ……」




――――――




 ヴィランガード家の別邸には、屋敷から中庭を通り抜けた渡り廊下の先にパーティー会場があります。


 大きなドーム型の東屋あずまやのような造りで、壁はなく静かに吹く風と庭の景色を楽しむことが出来る立派な会場ですわ。


 建材となった白い石材は磨き抜かれ、日の光を浴びてしっとりと輝いて見えます。


 建築されてからかなり経っているとはいえ、古臭さを感じさせない我が家自慢の会場ですわ!


 まぁ、天候によっては使えなかったり、熱すぎたり寒すぎたりするので見た目ほどいい場所ではないんですけど……。


 それに私はここが使われてるのを1、2回くらいしか見たことありません。


 幾ら造りが良くてもこの別邸は都心から離れすぎていて、集めるのも集まるのも難儀なんぎですし。


 そもそも私が産まれてからと言うもの、両親は何故か領地に引きこもってましたから、この別邸の出番自体少なかったんですよね。


 ……ほんと何ででしょうね。領地の経営が忙しかったのか、初めての子育てがやっぱり大変だったのでしょうか?


 そんな事を考えながら、爺やを後ろに従え本館から続く渡り廊下を歩いていると。


 そのパーティー会場の中、色とりどりのドレスに身を包んだご令嬢方の姿と、そして同じ以上の人数の、黒いスーツに身を包んだ『付き人』さん達の姿が見えました。


 同時に、飲み物や軽食を提供しているヴィランガード家の使用人さんたちの姿もあります。


 会場には全員で50人以上いらっしゃる計算になりますか。


 100人規模で入れる場所とはいえ、さすがに窮屈きゅうくつに見えますわね。


 なんにしても黒服さん達は今回邪魔でしかありませんわ。


 腹を割った話をしたいのに、護衛兼監視役の方々がいたらそんなこと不可能ですもの。


 まぁ、半分脅迫するような手段を取ってしまいましたからねぇ。


 そりゃ、護衛の一人や二人手元に置いておきたいのが人情ってもんでしょう。


 それは分かりますが、邪魔なもんは邪魔ですわ。


 さてどうしましょうか……。


「…………はぁ~」


 まぁいいです。


 悩んでても仕方ない。


 今はとにかく進みましょう。


 女は度胸! さぁ、パーティー会場に突撃ですわ!


「ごきげんよう、皆々様方」


 爺やを従えて会場に入り、礼をすると共にそう告げます。


 瞬間、敵意混じりの視線が飛んできました。


 肌が泡立つレベルですわね……。


 まるで憎しみが実体を持って私を握り締めているようですわ。


 そんな状態で、顔を上げて周囲をチラリと確かめてみれば、多くのご令嬢方が私を睨みつけ、そしてそのお付きの方々も、表情にこそ出していらっしゃいませんが、反感を感じている雰囲気です。


 ……まぁ、こんなもんですわね。


 今回の件に関しましては、逆に歓迎されてる方が恐ろしいまでありますわ。


 腹の奥底にまで真意を隠されていては説得のしようがありませんもの。


 敵意満々な方が分かりやすいってもんです。


 そう考えながら、出来るだけ自然な笑みを顔に浮かべ、会場の奥へと進みつつご令嬢方へと告げます。


「お付きの方々もここまでありがとうございました。あとは内々の話をしたいと思いますので、どうか屋敷の休憩室にてお休みください。爺や?」


「ハ、ハイッ!」


 言葉と共に先ほどまで私の背後に従い、今は入り口の近くに立つセバスチャンが、身振りでお付きの方々を誘導しようとしますが、誰一人として動こうとしませんでした。


 主の指示以外は絶対に聞かないって反応ですわね。


 しかし、裏を返せば主人の指示には絶対服従と言うこと。


 ご令嬢方の間を歩き、会場の奥にある一段高くなった舞台の上にあがると、皆さんを見渡しながら私は告げました。


「あらあら、そうですわね。ご不安なようならこうしましょうか。我が家の使用人の皆さん、お仕事はもういいので下がって頂けますか?」


 その言葉を聞き、会場のそこここで仕事をしていたヴィランガード家の方々が一様にギョッとした表情を浮かべると、皆一斉にセバスチャンの方を見ました。


「………………ッ」


 額に汗を浮かべた爺やが小さく頷き、それを見た使用人さんたちが一礼すると、コソコソと会場から抜け出していきます。


 ……なんだって私の指示を聞いて、爺やにおうかがいを立ててんですの。


 これでも今の責任者は私なんですけど、まったくもう。


「爺や。あなたも下がりなさい」


 その鬱憤うっぷんを半分晴らすようにしてセバスチャンにそう告げます。


 爺やはタラリと汗を流しながらも言い返すことなく、一礼すると共に会場から出て行きました。


 残ったのはご令嬢方とその付き人さん達だけ。


 お互いに目配せしたり、他の人がどう出るか判断に迷っていらっしゃる雰囲気ですわね。


 うーん。ここはもういっちょ、私の言葉でその背中を押し――


「いいでしょう。下がりなさい、ローン」


「…………かしこまりました」


 会場の中心に立っていた一人のご令嬢がそう告げて。


 その側に立っていた巨漢の男性が小さく礼をすると会場から出て行きました。


「これでよろしいかしら、レイリィース様?」


 言葉と共に私のことを真っすぐ見つめるそのお方。


 名前はルイーズ・トゥアン・ローラン公爵家令嬢。18歳。


 レッドブラウンのウェーブがかった長髪。


 意志の強さを示す鋭い青の瞳。


 スラリとした見事なスタイル。それによく似合う紺色のドレスを身に纏い、白の扇で口元を隠しながら、堂々たる立ち姿でこちらを見つめるそのお方。


 まさに貴族令嬢の中の貴族令嬢と言った風貌ふうぼうです。


 そのルイーズ様に笑みを返しながら私は告げました。


「ええ。ありがとうございますわ、ルイーズ様」


「ふっ……。皆さんも、たまには令嬢同士の内緒話を楽しみましょう?」


『………………』


 響く声を聞き、各ご令嬢方もお付きの人に一言告げて会場から外へと誘導しました。


 ……完全に主導権を握られましたわね。


 ルイーズ様は貴族令嬢界の『顔』ですわ。


 公爵家と言う格の高さもありますが、それ以上にご令嬢方を心服させる存在の『圧』がある。


 今回の会合で最も注意しなければならないお方、それが彼女なのは間違いありません。


 それに何より。


「それではレイリィース様、早速会合を始めましょうか」


 彼女の父親は貴族裁判所の長官です。


 つまりルイーズ様は、私に何度も死刑を宣告した男の娘にして、それを炊き付け煽った張本人なのです!


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