第17話「無茶をしますわよ①」
しかし……手紙を書くと決めたはいい物のなんて内容にしましょうか……。
陽光が差し込む私室の中、部屋の角に置かれた机の前に座った私は今、ペンをクルクルと回しながら悩んでいます。
先ほどエントランスで両親と別れてから少し経ち。
今はセバスチャンが便箋を持ってくるまで暇なので、先に書く内容を決めてしまおうと考えているところです。
しかし、いくら考えても中々纏まらないと言うのが現状ですわ。
……少しおさらいしてみましょうか。
私が死刑に処される原因は、今回の『お見合い』に参加したご令嬢方の嫉妬心にあります。
その嫉妬心が回り回って私を処刑する。
これまでのループで各ご令嬢方の屋敷に忍び込み調査してみた所。
両親を泣き落し、炊き付け、煽り、私を目の敵にし、共謀し、処刑への道を丹念に整備するご令嬢方の姿を幾つも幾つも確認できました。
結局、そのお方達を説得して行動を止めない限り、私の死は覆らない。
でも、10日間しかない猶予の中でお見合いに参加した24人のご令嬢方の家を訪ね、一人一人説得して回るのは物理的に不可能ですし。
かと言って一部の大貴族のご令嬢にのみ説得対象を絞り、明確に『ライン』を定めてしまっては心証が悪すぎます。
だから手紙を使って一気に説得しようと考えたのです。
24人全員を相手にするのであれば、これ以外の手段なんて思い浮かびません。
しかし何と書けばご理解いただけるのか、全くこれっぽっちも思いつきませんわ。
王子様の婚約者になるのを認めろと?
認める気がないから殺そうとしてるのに?
あなた方の企みなんてお見通しだからそんな事やめろ、とでも書きましょうか?
もし陰謀をなそうとするのであれば、自らの命を的にかける覚悟ですることですわね、って?
「…………あんまり気が進みませんわねぇ」
不思議な気分ですわ。
かのご令嬢方はこれまで何度も私を殺して来た仇敵とでも言うべき存在です。
実際、何度お尻を叩きまくる妄想をしたか分かりません。
「…………むむぅ」
ですが今。
あの夜から舞い戻って来た今となっては。
ご令嬢方に対して『敵』と言う言葉だけでは言い表せない感情を抱いているのも事実なのです。
なんて言うか……。
同じ人を好きになった者同士の共感があると言うか……。
そりゃ私だって今更クロムウェル様を、どこの馬の骨とも知らない女にぶんどられたら怒って暗殺の一つや二つ企て……。
い、いや、さすがにそこまではしませんが、したくなる気持ちは分かります。
私を殺そうとするというのは、それだけあのお方達の想いが強かったと言う事の証左です。
そんな人たちから、私はクロムウェル様を奪おうとしているのですわ。
それもあって、あまり人数を絞って説得するってのはしたくないですし、不誠実過ぎる説得方法も気が進まない訳ですわね。
まぁ、そうも言ってられないのが現状な訳ですが……。
「ん? 人数を絞りたくない?」
思わず脳裏に蘇る、クロムウェル様が全貴族に出した御触れ。
それはそう、確か――
『この俺の結婚相手だぁ? フン、なりてー奴はみんな王宮に来な! そんなもん一人一人とお見合いして、それで決めればいいじゃねーかよ!』
「――こ、こ、こ、これですわぁあああ!! えっ!? いや!? これでいいんですのっ!?」
コンコン。
『お嬢様、便箋をお持ちいたしました』
思い付いといてなんですが、この策は無謀すぎますわ!
『これ』を実行しようとすると、同格どころか格上のご令嬢方をこの別宅に呼びつけることになりますし……!
貴族社会的に許されない行為をしてしまう気が!?
ていうか、そもそも暗殺しようとしている女の家に、ワザワザやって来る人なんているわけないでしょうし!?
手紙を送った所で理由を付けて断られるのがオチでしょう!
「…………いや、来ざるを得ないような文面で書く?」
そして、呼び寄せた皆様方を一気に説得する?
しかし……そんな一発逆転的な方法……。
「………………」
「お嬢様?」
「わひゃあっ! じ、爺や! 部屋に入ってくるときはノックなさい!」
「何度もしましたとも! ですがお答えになられず、何やら部屋の中で呻いていらっしゃるご様子でしたので、不躾ではございますが中に入らせて頂いたのです!」
私の左後ろに立つセバスチャンが、鼻息も荒くそう告げます。
その手には私が頼んでいた便箋の束が握られていました。
どうやら早速届けに来てくれたみたいですわね。
「そ、そう……。いや、ちょっと考え事が煮詰まっていて……。大丈夫。体調に問題があるわけではございませんわ」
「問題ない? はぁ~、お嬢様嘘を言わないでください。爺やは悲しいですぞ」
「えっ!? いや! 別に嘘なんて!」
「今朝倒れかけたばかりだと言うのに体調がいいわけないでしょう」
「あ、あれは寝ぼけただけですわ! ほんとに何でもありませんってば!」
実際、あれから時間も経って大分心も落ち着いて来ています。
まぁ、やならきゃならないことが多すぎて感傷に浸っている暇もないと言うのが実際の所ですけど……。




