表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/105

97,アップグレード。

 


 市長が口をあんぐりと開けてから、少し遅れて叫んだ。

「じゅ、十億ですと! それでは先ほどの倍ではないですか!」


 アリシアはうなずいて、

「はい。アップグレードには、より高い料金をいただいておりますので」


「そんなバカな話があるか! 王都全域を浄化する効果を約束したのは、そっちだぞ! アップグレード代など支払うものか!」

「そうですか。了解いたしました」


 アリシアが立ち去ろうとするので、市長が慌てて引き止める。

「ま、まて、まってくれ」


「お二人は先に行っていてください」と、アリシアはシーラとチェットを送り出してから、振り返った。

「はい?」


 市長はアリシアを指さして、

「分かっているぞ! 本来なら王都全域を浄化できるくせに、お前はわざと不発に終わらせて、アップグレード代を請求しているんだな!」

「本当ですか? でしたら興味ぶかい。アップグレード代が支払われれば、王都全域の浄化も行われる、という意味でもありますよね、それは?」

「ふざけるなよ! それではまるで、脅しではないか! この王都の市長である私を、脅すというのか!」

「脅しではありません。脅しというのは、あなたにナイフでも突きつけてお金を請求することでしょう。私はそんな野蛮なことはいたしませんよ。ところで再度、お聞きしますが、アップグレードはいたしますか?」


 市長はふいにニタリと笑った。それから窓辺まで行く。ここは三階なのと、大通りに面しているので、けっこう遠くまで王都の様子を見ることができる。

 市長はカーテンを引き、なぜか勝ち誇った様子で、王都を指さした。


「見たまえ、シェパード」

「はい?」


 アリシアは市長の隣まで行き、指さされたものを見た。アンデッドたちが市民を襲い、それを止めようとした冒険者たちも、激しい攻撃を受けて命を散らしている。

 そのもっと向こうでは、暴徒化した市民が王宮エリアに入り込もうとし、それを阻止しようと王国騎士団が矢を放っていた。

 赤子を抱いた母親が悲鳴を上げながら通りを走っていて、その後ろから敏捷なアンデッドが壁走りし、ついに母親に飛びついて首を引き裂いた。

 まさしく阿鼻叫喚。


「これを止められるのだ、君は? そうだろう、シェパード。みな、君の助けを待っている! 君だけが、彼らを救うことができるのだ!」


 市長が期待の眼差しで、アリシアを見た。

 アリシアも市長を見返す。まったくの無反応のままで。

 市長はなぜか、唐突に悪魔でも見るような顔をしている。

 アリシアはつい自分の後ろを振り返った。

 市長は『悪魔でも見るような目』をしているのだから、アリシアではなく、何か別のものを見ているに違いない──と解釈したわけだ。

 が、不可解なことに、ここには市長とアリシアしかいない。


 アリシアは怪訝に思う。

「どうされましたか?」


「き、君は、心が痛まないのか! 人が死んでいるんだぞ!」

「そうですね。人が死んでいますね」

「……このまま、放っておくのか? アップグレードはしないのか?」

「あなたが王都の代表としてアップグレード代を支払わないのでしたら、私が個人的にアップグレードする予定はありません」


 市長は椅子にどさりと腰かける。なぜか、倒された拳闘士のようにして。

「わ、分かった。支払おう……5億ドラクマだったな?」

「いいえ。5億だったのは、最初の効果付与のときの値段です。いまはアップグレードですので、10億ドラクマいただきます。お忘れでしたか?」


 市長がテーブルを拳で叩く。

「バカな! 10億というのは、さすがにやりすぎだ! やりすぎだぞ、アリシア・シェパード!!」

「やりすぎ? 何をもって、あなたがそう解釈されたのかは自由ですが。私は、私がやりすぎているとは思いません」


 市長が髪をかきむしる。

「10億だと? バカげている。そんなことしたら、わしの個人資産まで損害をこうむることになる……」


 その『個人資産』というものが、もとは市民の血税だったことは、容易に想像ができる。

 しばらくすると、いきなり窓を突き破って、一体の小柄なアンデッドが飛び込んできた。アリシアが見たところ、これは元市民のアンデッドだ。

 つまり元冒険者のアンデッドと違い、戦闘能力はない。それでも敏捷性は増し、ここまでジャンプできたわけだから、危ないが。


「ぎゃぁぁぁぁ!!」

 と叫ぶ市長の目の前で、そのアンデッドが光り輝いて、溶けていく。

「な、なにが、おきた、のだ?」


「先ほどの最初の王都全域への効果付与は、パワー不足で失敗に終わりましたが。少なくとも、この応接室には効果が付与されていたのですね。つまりいま、このアンデッドは浄化されました──アップグレードが行われれば、王都全域のアンデッドがこうなります」


 市長は意を決した様子で叫んだ。

「わ、分かった! アップグレード代を支払おう! だから、早く浄化してくれぇぇぇ!!!」


 アリシアは小首をかしげる。

「前払いですので、市長さん」

お読みいだたき、ありがとうございました。ブックマーク登録、評価などお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ