90,40時間。
「試してみましょうか?
つまり、私が死んだら、付与された特殊効果は本当に消滅するのか、どうか。また効果が消滅した場合、冒険者たちはどのような反応をするのか」
アリシアがそう言うので、シーラたちはさすがにギョッとした。
「死ぬってこと? 君さ、自殺はやめてよね」
「私は自殺などはしません。ゲームの終わりに、自殺はありえません」
「なら、いいけども」
「ロンのことを覚えていますか?」
「人体発火で死んじゃった、気の毒な冒険者の一人ね」とライラ。
「私とアリシアからすると、ロンはどちらかというと、寝取られた冒険者」とシーラ。
「寝取られた?」
シーラは、恋人を寝取られたFランク冒険者が、寝取ったSランク冒険者と決闘した話をした。アリシアがあとを引き取って、
「ロンは『毒魔蛙の唾液』によって、『発動すると15秒だけ仮死状態になる』という効果を付与されたことで、決闘相手を騙したのです」
「つまり、15秒だけ仮死状態になる?」
「いえ、いまは『毒魔蛙の唾液』素材は、毒魔石という上位の錬成素材に昇華させていますので、付与させる仮死状態の期間も、もっと長くできます。最長で、40時間ですね」
「40時間──ひとつ前提として、仮死と死亡は、違うということだよね。まあ肉体的には同じような状態なのかもしれないけど、スキルって、そーいうのを見抜くかもしれないよね」
ライラがうんうんとうなずいて、
「魂の在処ね。魂は、仮死状態ならば肉体にあるのよ、まだ」
シーラが意外そうに言う。
「君って、魂とか信じる性格だったんだねぇ」
傭兵は魂など信じていたら、務まらないのだろう。
チェットが挙手して、
「あのー、店長。仮に仮死状態で付与された効果が消えてしまうとして、それを試す意味ってなんでしょうか? 冒険者たちの反応を知るため、ですか?」
「そうですね。実際のところ、冒険者ギルドの動きこそ知りたいと思います」
「それに、『アリシアが死ぬことで付与された効果が消える』という情報が広まれば、自然とアリシアの命を狙おうという者への牽制になるかもしれない」とシーラ。
「それって、逆効果になるかもしれないわよ」とライラ。
アリシアとしては、知的好奇心が一番の理由。
それに、錬成スキルの底を見てみたい、という気もしている。結局のところ、アリシアが死ぬことで、効果は消滅するのか、それとも?
「私が仮死状態のあいだ、この肉体を無事に保管してくださいね。本当に死ぬのは、まだ早いと思いますので」
「アタシが守るわよ!」
ライラはやる気だったが、シーラが冷ややかに言う。
「いや、ライラ。君さ、下手したらクレイモアの効果がぜんぶ消えるわけだから、ただの雑魚冒険者に逆戻り。私が守るよ、アリシアは」
「そもそも、本当にやる必要があるんでしょうか」とチェット。
アリシアは一考した。
「では多数決としましょう。この仮死実験をするべきかどうか。この場にいる全員にかかわることですからね。中止が過半数、または票決が同数となったら、実験は中止します。まず私は、賛成です。理由は先ほど話しましたね」
「私も賛成かな。いきなりアリシアが死んでしまったときの予行演習には、なる」とシーラ。
「アタシも賛成よ。なんで意外そうな顔をするのよ? さっきも言ったでしょ。効果付与が消えたときのことは、常に考えているって。今回の実験で、アタシもそのときに備えられるわけよ」
チェットが溜息をついて。
「分かりましたよ。仮死予定中の予約はキャンセルですね」
アリシアは、自身の指輪に『装備者を40時間、仮死状態にする』の効果を付与した。
「では死ぬ前に──パジャマに着替えましょうか」
「というより、場所を移動しようよ」
ということで、錬成店はチェットに任せて、アリシア、シーラ、ライラの三人は、シーラの隠れ家に移動する。そこのベッドに横たわり、アリシアは効果を発動した。
闇黒───死の、安らぎ。
仮死状態に陥ったアリシアを、シーラは眺めていた。
「おやすみも言わないあたりが、アリシアらしいなぁ~。さて、ライラ。どうなった?」
ライラが拍子抜けした様子で言う。
「クレイモアに付与された効果は消えていないわ。だけど分かったことは、『仮死状態では付与した効果は消えない』ということだけね。本当にアリシアお姉さんが死んでしまったらどうなるかは、謎よ」
「ふーん。仮死状態では消えないと」
このとき。
シーラとライラは隠れ家にいたし、チェットも錬成店でキャンセルの連絡に追われていた(これには伝書鳩を使う)。
だから、三人とも気づくのに時間がかかった。
ライラ以外のすべての冒険者たちの装備品に付与された効果が、一斉に消滅したことに。
そして──そこからアリシアの仮死状態が続く40時間は、カオスとなることを。
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