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88/105

88,友情。

 


 ライラは、事前に段取りを聞かされていた。


 というわけで、マリアと一緒に、錬成店を出る。荷物を運び、マリアの愚痴をひたすら黙って聞いている。基本的にこのマリアという女は、不平不満の塊らしい。というより、自分が不幸の犠牲者になっていると解釈しているようだ。

 そもそもの間違いは、実家が貧乏なことだとか。貴族として爵位を持っていながら、貧乏。貧乏といっても、ライラのような一般市民からしたら、それなりに裕福だと思うが。


 たとえばマリアは子供のときには、専属のメイドがいたのだとか。それに毎日のように、好きな服をとっかえひっかえしていた。ただマリアを納得できなかったのは何より、「領土も領民もいなかったのですわよ」とのこと。


 どうもマリアは、支配者願望のようなものがあるようだ。貴族なのだから領地を持ち、そこの領民たちに女王のように崇めてほしかったようで。そのためにドードム銅とやらの投資で大金を稼ぎ、領地を買おうとした(ちなみに領土は領民付きで、貴族間で売買されることもあるようだ。つまり領民の管理に疲れて、どこか僻地で余生を過ごしたい貴族などから購入できると)。


 とにもかくにもライラの結論としても、マリアがこの世から去っても、誰も悲しむまい。マリアの父親も死んでいるわけだし。そのためマリアは爵位を継ぎ、それを担保として〈銀行〉から大金を借りることができたわけで。


「こら、小娘。何をぽけっとしていますの。ちゃんと歩きなさい。それと、わたくしの荷物に泥でもつけようものなら、鞭打ちにしますわよ」

「はい」


 王都から出て人けのないところに来たとき、マリアの後頭部を殴って気絶させる。茂みに隠れていた人買いが現れる。もちろん事前に呼んでおいたものだ。マリアの身柄を渡す。


 人買いは、念のためという調子で言う。


「確認だが。この女の、すべての内臓を取り出していよいのだな」

「使えるところは、すべて」

「では、取引成立だ」

「ええ」


 このときライラは、この人買いに探知タグをつけておく。この『探知タグの取り付け』は、クレイモアに付与された効果だ。


 というのも、この人買いが所属している人身売買組織は、冒険者ギルドの討伐対象。今日は見逃すが、後日、この探知タグによって人身売買組織の本部まで行き、壊滅させるつもり。

 これもアリシアのプランに含まれる。

 アリシア・シェパード。効率重視。


 とにかくいまは料金を受け取ったライラ。のんびりと錬成店に戻る。


「アリシアお姉さん、渡してきたわよ」

「これでマリアさんも、道義を果たすことができますね。友人として、ホッとしています」


 どうも本気で言っているようだ。これは復讐とかではなく、心から友人のマリアの道義心を守るための行い。すなわち、友情から行ったものなのである。

 ライラはしみじみと思う。


(うーん。アリシアお姉さん。よく『怒らせてはいけない相手』というものはいるけど、アリシアお姉さんの場合、怒りとかとは関係ないものね。喜怒哀楽と無縁のアリシアお姉さんの行動を予測するのは無理ゲーだもの。アタシは、ただアリシアお姉さんについていくだけだわ)


 一方、アリシアは〈銀行〉の目的について仮説をたて、シーラに伝えたところだった。シーラはしばらく、この線で〈銀行〉を調査することになる。

 アリシアは、錬成店の通常営業に戻る。

 予約帳にのっとり、冒険者たちの錬成相談を受け、錬成スキルによって効果を付与する日々。


 そして──何日かたつ。マリアが道義心を守ることができた日(臓器が売られ、微々たるお金だが返済にあてられる)から。

 またはそのあとで、人身売買組織に本部を、探知タグをもとにつきとめたライラが殴り込み、壊滅させた日からも。


 錬成店の営業が終わるころ。冒険者ギルドに使いに出ていたチェットが、顔面蒼白で戻ってくる。

「アリシアさん! 問題が発生したようなんですよ!」

「落ち着いてくださいチェット君。どうされましたか?」


「錬成素材が──冒険者ギルドの採取リストに追加されたようなんです!!」


 もちろんアリシアは動揺など、微塵もしない。

「あら。これまで誰も見向きもしなかった錬成素材が──興味深いですね」


 アリシアの分もチェットが動揺している。

「あの。もしかして、店長の錬成スキルに、錬成素材が必要だと発覚したのでしょうか? それで、冒険者ギルドが錬成素材を抑えるため動き出したとか???」

「だとしても、いまとなっては、さほど問題とまではいえません。こちらはすでに、増殖方法を会得しているうえ、この事態に備えて、多種多様な錬成素材をシーラさんとチェット君に採取してきてもらっていますので」


 とはいえチェットの推測が正しかったとするならば。


「われわれと冒険者ギルドの関係は、新たなフェーズに入るのかもしれませんね」


 チェットが固唾を呑んでいる。

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