87,正しくあれ。
マリアは不可解そうに言う。
「錬成スキルって、なんの話ですの?」
アリシアが見たところ、マリアは嘘はついていない。
というよりマリアは、とくに嘘をつく能力には長けていない。かつて連帯保証人の件で偽りを述べてきたときも……アリシアは一考した。
「〈銀行〉が、はじめから私の錬成スキルを知っていた、となると、ある程度は納得がいったのですが」
「ところで、アリシア。わたくしの借金は、いまはあなたに返済義務があると理解してよろしいですのね? あなたが支払ってくださるのでしょう? 大親友である、このわたくしのために?」
「マリアさん。私は、あなたのことを大事に思っていますよ。わたしのはじめてできたお友達です」
少し心配そうだったマリアが、ホッとした様子で言う。
「そうですわよね? アリシアならば、このわたくしを見捨てないと信じていましたわ!」
「ええ。見捨てはしません、マリアさん」
とはいえ、マリアが果たす役割は、もうなくなってしまった。〈銀行〉の真の狙いを探り当てるため、マリアの情報が大事だと思っていたのに。マリアがアリシアの錬成スキルを見抜き、それを〈銀行〉に借金するさえに伝えたのではないかと。
だがそういうわけでもないらしい。
「では、わたくしは帰りますわね、アリシア。あなたならば、きっと全額返済できますわ。え、いま3億もありますの? 〈銀行〉の暴利には、本当にウンザリしますわ。ですがアリシア、くじけてはダメですよ」
シーラは、呆れ果てていた。マリア。ある意味では、過小評価していた。まさかここまで、腹立たしい女だとは。せめて謝罪くらいはするだろうと思ったが。
どうもマリアは、アリシアと友達とやらをしていたころから、アリシアのことを食い物にしていたように思える。うまく利用していたと。
なぜアリシアが、それを許していたのか。『はじめてできたお友達』とやらだからだろうか。
アリシアはまだ一考している様子だったが、
「マリアさん。あなたは、なぜ〈銀行〉からお金を借りたのです? いくつか噂は効きましたが。実際のところ、何か、新しい事業でもはじめたのでしょうか?」
するとマリアは、悔しそうな顔になった。
「投資に失敗したのですわ」
「どのような投資ですか?」
「ドードム銅」
「ドードム銅? ドラクマ硬貨に使われる銅のことですか……おかしなものに投資しましたね?」
「ドードム銅が裏取引されている、という話を聞いたのですわ。ところがデタラメでしたのよ。アリシア。こんなにひどいことってあります? いいえ、ありませんわ。あってたまるものですか」
「ふむ」
「ですが、アリシアが借金を返済してくださるようで、わたくし安心しましたわ。アリシア、借金完済したときには、お手紙くださいね。
わたくし、王都の水があいますの。いま住んでいるところは最低ですわ。ですがいまはまだ、そこでの暮らしに我慢するとしますわ。さ、そこの小娘、わたくしが帰るまでの荷物を運びなさい」
と、最後はライラに命じた。ライラはいまにも一刀両断しそうだったが、溜息をついた。
「はいはい。お姉さんのお友達だものね」
「では皆さん、ごきげんよう」
こうしてマリアは、荷物運びにライラを連れて、階段をあがっていった。シーラはうんざりしながら見送り、一応、アリシアに尋ねた。
「あのバカ女、帰していいの?」
だがアリシアは、ほかのことが気がかりのようだ。
「ドードム銅が、裏取引されている? ドードム銅は、ドラクマ硬貨に使われるため、王国が独占している銅ですが。なぜ、わざわざ別のものに使っては違法となるドードム銅を、集めようとしている者がいたのでしょう」
「それはインチキだったんでしょ? マリアは投資詐欺に引っかかったわけでしょ。それでその借金を、アリシアに押し付けたわけで」
アリシアは、何かに気付いた様子だった。
「〈銀行〉……貨幣供給量……ふむ。わたしの借金返済を、なぜ先延ばしにしているのか、それならば筋が通りますね」
「どうでもいいけど、マリアは帰ったよ。せめて借金返済のため、錬成店で働かせるべきだったんじゃない?」
「はい?」
アリシアはきょとんとした顔で、シーラを見返した。
「マリアさんには、ちゃんとできる限り、借金返済に手伝っていただきますよ。お友達だからこそ、筋を通すため、ご協力します」
「……えーと。だけど、働かせるわけじゃないの? じゃ、どうやって、借金返済に貢献させるの?」
「臓器を売っていただきますが?」
『なぜそんな当たり前のことを尋ねるの?』という顔のアリシアに、シーラは地味にゾッとしているのだった。
「………………」
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