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87/105

87,正しくあれ。


 マリアは不可解そうに言う。

「錬成スキルって、なんの話ですの?」


 アリシアが見たところ、マリアは嘘はついていない。

 というよりマリアは、とくに嘘をつく能力には長けていない。かつて連帯保証人の件で偽りを述べてきたときも……アリシアは一考した。


「〈銀行〉が、はじめから私の錬成スキルを知っていた、となると、ある程度は納得がいったのですが」

「ところで、アリシア。わたくしの借金は、いまはあなたに返済義務があると理解してよろしいですのね? あなたが支払ってくださるのでしょう? 大親友である、このわたくしのために?」

「マリアさん。私は、あなたのことを大事に思っていますよ。わたしのはじめてできたお友達です」


 少し心配そうだったマリアが、ホッとした様子で言う。

「そうですわよね? アリシアならば、このわたくしを見捨てないと信じていましたわ!」

「ええ。見捨てはしません、マリアさん」


 とはいえ、マリアが果たす役割は、もうなくなってしまった。〈銀行〉の真の狙いを探り当てるため、マリアの情報が大事だと思っていたのに。マリアがアリシアの錬成スキルを見抜き、それを〈銀行〉に借金するさえに伝えたのではないかと。

 だがそういうわけでもないらしい。


「では、わたくしは帰りますわね、アリシア。あなたならば、きっと全額返済できますわ。え、いま3億もありますの? 〈銀行〉の暴利には、本当にウンザリしますわ。ですがアリシア、くじけてはダメですよ」


 シーラは、呆れ果てていた。マリア。ある意味では、過小評価していた。まさかここまで、腹立たしい女だとは。せめて謝罪くらいはするだろうと思ったが。

 どうもマリアは、アリシアと友達とやらをしていたころから、アリシアのことを食い物にしていたように思える。うまく利用していたと。

 なぜアリシアが、それを許していたのか。『はじめてできたお友達』とやらだからだろうか。


 アリシアはまだ一考している様子だったが、

「マリアさん。あなたは、なぜ〈銀行〉からお金を借りたのです? いくつか噂は効きましたが。実際のところ、何か、新しい事業でもはじめたのでしょうか?」


 するとマリアは、悔しそうな顔になった。

「投資に失敗したのですわ」

「どのような投資ですか?」


「ドードム銅」

「ドードム銅? ドラクマ硬貨に使われる銅のことですか……おかしなものに投資しましたね?」

「ドードム銅が裏取引されている、という話を聞いたのですわ。ところがデタラメでしたのよ。アリシア。こんなにひどいことってあります? いいえ、ありませんわ。あってたまるものですか」

「ふむ」

「ですが、アリシアが借金を返済してくださるようで、わたくし安心しましたわ。アリシア、借金完済したときには、お手紙くださいね。

 わたくし、王都の水があいますの。いま住んでいるところは最低ですわ。ですがいまはまだ、そこでの暮らしに我慢するとしますわ。さ、そこの小娘、わたくしが帰るまでの荷物を運びなさい」


 と、最後はライラに命じた。ライラはいまにも一刀両断しそうだったが、溜息をついた。


「はいはい。お姉さんのお友達だものね」

「では皆さん、ごきげんよう」


 こうしてマリアは、荷物運びにライラを連れて、階段をあがっていった。シーラはうんざりしながら見送り、一応、アリシアに尋ねた。


「あのバカ女、帰していいの?」


 だがアリシアは、ほかのことが気がかりのようだ。

「ドードム銅が、裏取引されている? ドードム銅は、ドラクマ硬貨に使われるため、王国が独占している銅ですが。なぜ、わざわざ別のものに使っては違法となるドードム銅を、集めようとしている者がいたのでしょう」

「それはインチキだったんでしょ? マリアは投資詐欺に引っかかったわけでしょ。それでその借金を、アリシアに押し付けたわけで」


 アリシアは、何かに気付いた様子だった。

「〈銀行〉……貨幣供給量……ふむ。わたしの借金返済を、なぜ先延ばしにしているのか、それならば筋が通りますね」


「どうでもいいけど、マリアは帰ったよ。せめて借金返済のため、錬成店で働かせるべきだったんじゃない?」

「はい?」


 アリシアはきょとんとした顔で、シーラを見返した。

「マリアさんには、ちゃんとできる限り、借金返済に手伝っていただきますよ。お友達だからこそ、筋を通すため、ご協力します」

「……えーと。だけど、働かせるわけじゃないの? じゃ、どうやって、借金返済に貢献させるの?」


「臓器を売っていただきますが?」


『なぜそんな当たり前のことを尋ねるの?』という顔のアリシアに、シーラは地味にゾッとしているのだった。

「………………」

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