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85/105

85,再会。


 ドラツ船長には顔を見られたが、ほかの船員には気づかれず、アリシアはいったん海中に戻る。


 それから遠目に、生き証人となる船員たちがひとつの船に移るのを、見届けた。


 ここでアリシアは、それぞれの船員を、その担当関係なしに人数だけで生かしてしまったことに思い至る。帰港するまでなので船長はいらなくとも、航海士は必要ではないか。だが運のいいことに航海士など、とりあえず必要な船員は生き残りの中にいた。


 こうして彼らの船が、王国に向かって戻るのを見送る。アリシアは海底都市には戻らず、このままルビーのファストトラベルで、王国に戻ることにした。

 仕事が終われば、あとは帰るだけだ。


 ルビーが握手を求めてきたので、受ける。


「ありがとう、アリシアさん。海の民は、あなたへの感謝の心を忘れないよ。何か困ったことがあったら、いつでも頼ってね。あなたは、名誉人魚市民に任命する予定だし」

「……それは光栄に思います」


 その日の夕刻には、王都に戻っていた。

 錬成店に行くと、シーラが待っていた。

「やぁ、どこに行っていたの?」

「人魚の国に」


「…………冗談? いや君が冗談を言うはずはないか。まぁいいや。ところで覚えているかな。この錬成店の店舗が差し押さえ物件となり、競売にかけられる、という話。アリシアの読みでは、これは貸主を変更するための計略だろうと。この競売が、昨夜、行われたのでちょこっと覗いてきたわけだけども」


「どうでしたか?」

「捻りもなにもなかった。結局、〈銀行〉の持ち物になった」

「そうですか。確かに捻りがない、といえばないですが──」


 そろそろ〈銀行〉と決着をつけるときだろう。借金完済の3億ドラクマは、人魚の国という大口顧客の登場もあって、ついに実現可能となっている。

 だが問題は、〈銀行〉が受け取りを拒絶していること。


 アリシアに順調に借金返済されては困るようだ。

 その理由として、アリシアはいくつか仮説をたてている。まず最大のところは、アリシアを奴隷に落としたい、ということではないか。王国の法では、借金が返済されない場合、その身分を買い取られる、ということはある。


〈銀行〉ははじめ、アリシアをどこかの大富豪に売ろうと企んでいた。だがその計画自体は、すでに流れているはずだ。いまやアリシアには、錬成スキルというチートスキルがあることは明らか。〈銀行〉もまた、アリシアの錬成スキルをわが物としたいはず。


 そのためにはアリシアが借金を返済できないという流れで、奴隷身分にしてから買い取るのが、手っ取り早い。

 つまり〈銀行〉が、アリシアの持ち主となるのが。


 だが、それは現実的だろうか。まず〈銀行〉の手口は乱暴すぎる。アリシアには借金返済が可能な稼ぎがあるというのに、それを拒絶するというのでは。まず王政府や、冒険者ギルドが黙っていないだろう。つまり王政府も冒険者ギルドも、どこかの勢力がアリシアの錬成スキルを独占することだけは避けたいのだから。

 冒険者ギルドだけでなく、王政府も〈銀行〉がより力をつけることを望みはしないだろう。ドラクマを発行する権利をもっている王国銀行を脅かす勢力となることは。


 もちろん〈銀行〉にも、手はある。

 事実として、アリシアが借金返済できないようにするということ。受け取りを拒否するのではなく、アリシアの手元に返済するお金がなくなるようにする。

 ようは、アリシアが借金返済のため蓄えたドラクマを盗み出す、というもの。


 だがこれは不可能といえる。アリシアは自らの錬成スキルをフルに使い、稼いだドラクマ硬貨を保管している。『100倍収納』で小型金庫に入れたうえ、王都ダンジョンの最深部に保管。さらに金庫自体を開けることができるのは、『所有者のみ』。

 アリシアの遺伝子のみに反応し、金庫自体を盗み出そうにも、やはり正しい持ち主以外が持ち運ぼうとすれば、『雷属性』による雷撃の罰がくだる。


「アリシア。いろいろと考えているところ悪いけどさ」

「はい。そうですね。そろそろ〈銀行〉と決着をつけるべきでしょう」

「うーん。ところで、君さ、借金返済したら、錬成店はどうするの?」

「畳みますが?」


 シーラは頭をかかえた。

「だと思った。自分が冒険者界隈に革命を起こしてしまったことを理解しているのかどうか──まぁ、いいや。錬成店を続けるかどうかは、実際に借金を完済したときに議論するとして」

「議論の余地がありますか?」

「……私がいま言おうとしたのは、別のことなんだよね。地下室に──というか、王都ダンジョンの最深部に、ライラがお客を連れてきているんだよ」


「あら。ライラも仕事が早いですね。それは、私の客人です。ライラに探し出すよう、頼んでおいたのですよ」

「うん、そう君の客人だろうね──で、あの憐れなお客は、誰?」

「マリアです。私を騙して連帯保証人にした、私の友人ですよ」

「うーん。面白くなってきた」

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