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83,仕事人。

 

 ドラツ船長も、対策を取っていないわけではなかった。

 アリシアとしては少々、ドラツを見くびっていたことになる。


 というのもそもそもドラツは、『人魚の歌声には幻惑効果がある』と信じていた。

 だからこそアリシアのもとに、対策効果の付与を依頼しにきたわけだ。


 ただそのアリシアに断られたあとは、てっきり物量作戦に切り替えたのだろうと。

 つまり船団を組み、船員の数を増やし、物量によって人魚の歌声を蹂躙するつもりだろうと考えた。

 あとは『歌声が聞こえなくなる対策』もあるかもしれないが、それについては、『歌声が必ず届く』効果によって対処済み。


 だがドラツは、もっと分かりやすい、力任せの策を取ってきたわけだ。

 それが、ジョンソンというSランク〈テイマー〉。

 ジョンソンには、〈テイマー〉にとって禁忌といえるユニークスキルがあり、それが〈蹂躙精神〉。


 どのような魔物でも必ずテイムできるというもので、あの黒弩龍さえもテイム可能だった(黒弩龍が王都を襲来したとき不在だったわけだが)。

 そして今回、人魚たちを皆殺しにするため、ある水中型ダンジョンより、ラスボスであるクラーケンをテイムしてきたのだ。

 このクラーケンを操作し、人魚たちを殲滅。

 それがドラツの策略であり、そのために自身のガレオン船も改造し、クラーケンを運搬できるようにしたのだった。


「さぁ、ジョンソン。クラーケンは解き放ったぞ。人魚どもを駆逐しろ」


 ドラツはニタニタ笑いながら、舵輪のところから海上を見下ろした。


「ん、なんだ?」


 何かが海中を飛んでくる──正しくは泳いでくるというべきだろうが、どうにもその速度はあまりに速く、ドラツの認識では飛んでくる。


「な、なにが起きているんだ!?」


 とたんガレオン船のそばで、海中から人魚が顔を出す。十代の娘の人魚だった。

 ドラツと視線があうと、舌をつきだした。それから海中に戻った。

 そのあと、真っ二つにされたクラーケンの死体が、ぷかりと海上に浮かんでくる。


「せ、船長、ジョンソンの野郎がぁぁ!」


 視線を転ずると、ジョンソンもまた真っ二つにされた死体として、甲板に転がっている。

〈テイマー〉の禁忌技の代償として、操作中の魔物が死んだ場合、同じように死んでしまう。

 しかしジョンソンは、まさかクラーケンが敗北するとは思っていなかった。それはドラツも同じだった。


「な、なにが起きていやがる……こんなことが……こんなことがあってたまるかぁぁ!!!」


 こんなことがあったのは、もちろんアリシアの仕業だった。


 数分前。

 クラーケンが解き放たれようと知ったアリシアは、そのことをルビーに知らせた。ルビーの顔が真っ青になる。


「クラーケン! かつてはダンジョンの外で、普通に生息していたというよ。そのころ人魚たちを殺しまくった、海の悪魔だよ。いまはダンジョン内に封じられたと聞いていて、人魚たちもすっかり『伝説上の生き物』と思っていたのに。まさか、それが出てくるなんて……ああ、もうダメだよ、アリシアさん!」


「ルビー。私の友人の傭兵ならば、いまはどのようにしてクラーケンを殺すかを、考えるところですよ」

「殺せっこないって! 噂じゃ。現存するクラーケンは、どこかのダンジョンのラスボスだって話なのに?!」

「ラスボスですか。すると立場としては、〈滅却せし獣〉と同じ。ではまずクラーケンをブレイク状態にしまして──あとは一気に仕留めるしかないでしょう。頑張ってください、ルビー」

「うんっ……えぇっ! わたしが殺すの?! 無理だよぉぉ!!」

「なんだかチェット君に似てきましたね。しっかりしてください、ルビー」


 あらためて海中に戻り、まだ完全には解き放たれていないクラーケンを見やる。

 どうやら拘束装置が、完全に解除されていないようだ。

 おかげで時間の猶予がある。


 さっそくクラーケンに錬成スキルをかけて、弱点属性を確認。

 意外なことに、火炎属性ではなく氷属性が弱点だった。

 さらに錬成スキルで分析したところによると、クラーケンをブレイク状態にするには、氷属性攻撃を100回以上あてないといけないようだ。

 それはなかなかな大変。

 いまはそんなに長期のバトルをしている時間もない。

 そこで素材保管庫と接続し、かなりレアリティの高い素材を複数選択。


 それに、もともと強力な効果が多数付与されている武器が、こちらにはある。

 転移効果で、アリシアの手元に三叉戟〈ポセイドン〉を呼び出す。

 ここに追加効果として、『氷属性攻撃を加えた状態とする』効果を、100回分付与。

 つまり一撃で、『100回分の氷攻撃をした』ことになる。

 この〈ポセイドン〉を、ルビーに握らす。


「えっ! これは〈ポセイドン〉!!」

 

 ついでに〈ポセイドン〉に『装備者の移動速度30倍』の効果も付与した。

 これでルビーはとてつもない速度で移動できる。


「あなたがやるしかありませんよ、ルビー。さすがに人間の私が、あなたがたのレジェンド級の武器を使用するわけにはいきませんからね」


 ルビーも決意したようだ。

「わかった、行ってくるよ!!」


 かくして数秒後──ルビーと〈ポセイドン〉によって、真っ二つにされるクラーケン。

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