表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/105

82,予行演習。

 

 ドラツ船団が来る前に、『歌声を聞いた者を幻惑させる』効果を確かめるため、アリシアとルビーは精鋭部隊とともに海上まで上がった。

 そこで小舟を用意し、犠牲者役としてアリシアが舟にのぼる。


「では皆さん──といっても複数人で試すよりは、一人か二人でお願いしましょう」


 ルビーが挙手した。

「わたしがやる」


「どうぞ」


 ルビーの歌声は、なかなか深みがあり、音程も外れず、とても快いものだった。しかし数分聞いていても、アリシアが歌声に誘われて海に落ちることはなかったが。

 ルビーが心配そうに言う。

「効果というのが失敗したの?」


「さて、どうでしょう。そのはずはないのですがね」


 アリシアは、自身の効果自体には絶対の自信があった。ここで失敗したとは思えない……失敗……失敗……失敗。


「ふむ。自分自身の肉体に付与している『どのような環境、どのような状態異常にも適応することができる』効果が、思いのほか万能だったようですね」


『歌声を聞いた者を幻惑させる』効果を受けている状態とは、いわば状態異常。

 その状態に適応するとは、つまり無効化であり、よってアリシアは歌声を聞いても、まったく問題はなかった。

 ここでその効果を取り外しても良いが、また付与するのも手間。

 そこでルビーを犠牲者役にして、ほかの人魚に歌わせた。数秒で効果があり、ルビーは自我を失ったような表情になって、海に落ちた。

 そのまま沈んでいくので、人魚の一人が連れ戻し、頬をはたくと正気に戻った。


「わぁ、すごい。歌声を聞いていたという記憶はあるけど、ほかはさっぱり。自分が何をしていたのか分からないけど、とても幸せな気持ちだったよ。幸せな気持ちにして溺死させられるんだから、とても平和的だね」


 アリシアは一考する。別に平和的ではないような、と。

 ルビーの思考は、なんとなくシーラに似ている。というより、アリシアが性格的にあうのが、シーラやルビーのような感じなのかもしれないが。


「ですが本番前に、実際に試してみたのは良かったですね。問題点に気付きました」


 ルビーは小首をかしげる。

「そう? 何も問題なかったように思えたけど」


「歌声が届かないと意味がない、ということです。いまの状態だと、ふたつ問題があります。まず歌声を聞かせるために、かなり船団に近づかねばならない。もちろん人魚の仕業と生存者に理解していただくため、姿は見せる必要がありますが、あまりに近いと攻撃を受ける危険があります。またもうひとつの問題として、こちらの歌声で完全に幻惑しきる前に、船団側が歌声対策をしてくる場合です」


「対策? 耳をふさぐとか?」

「耳栓程度なら問題ありませんが、問題は魔法の類ですね。範囲限定の消音魔法などを使える魔導士系ジョブが船員にいたら、アウトです。そこまで相性の悪い魔法でなくとも、たとえば爆発系魔法も厄介ですね」

「爆発とかの魔法攻撃なら海中にもぐれば避けられるよ」

「問題は爆音です。爆音が歌声をかきけすかもしれない」

「なるほどー」

「よって、必ず歌声が届くように、効果を追加いたします。少々お待ちを」

「金塊、増やす?」

「いえ、これはサービスしましょう」


 あらためてシーラの隠れ家にある素材保管庫に脳内で接続。数多くある錬成素材の中から、空晶というものを主に使って錬成。

『幻惑の歌声発声時、その歌声は必ず標的に届く』の効果を付与した。

 原理としては、歌声を魔法波のようなものに乗せて移動させる。

 よって爆音や消音などの妨害対策をとられても、歌声は妨げられず、船員たちの耳に届く。

 この効果を精鋭部隊全員に付与する。

 それからドラツ船団の陣営などを事前情報から確認し、こちらがどう散開するかを吟味。


 ルビーが難しい顔で、

「ところで歌はみんな同じほうがいいの? つまり一斉に歌ったほうがいいの?」

「なるほど。それは面白い質問ですね」


 歌声自体は、魔法波で届くので、別にそれぞれバラバラに歌っても問題ない。

 ただ、演出面でいうと、みんなで声をそろえ同じ歌を歌ったほうがインパクトがあるかもしれない。


 やがて人魚海域に、ドラツ船団がやってきた。

 それを遠目に確認して、人魚たちがそれぞれの狙いの船目指して散開する。

 ルビーだけはアリシアと後方に残り、戦況を見渡す。

 戦況といっても、一方的なものになる予定だが。

 予定では。


「中央のガレオン船が、ドラツ船長の船だね。ようは旗艦だ」

「船の種類はあまり分かりませんね」

「ガレオン船は、ほら、フォアマストとメインマストに2~3枚の横帆をがあるでしょ」

「船に詳しいのですか?」

「それなりには。だけど変だなあ。あの旗艦のガレオン船、変な改造をされている。まるで、船腹が開くような──あ、ほら、開いた」

「ふむ」


 アリシアは海中にもぐり、『視認能力の上昇』を自らに付与した。

 これで旗艦ガレオン船が、間近のようによく観察できる。

 開いた船腹から、巨大な魔物が解き放たされる。

 クラーケンが。

 そのクラーケンは、〈テイマー〉によって操作されているようだ。


「なるほど。予定というのは、未定なわけですか」

お読みいだたき、ありがとうございました。ブックマーク登録、評価などお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ