80,拝謁。
ルビーによるファストトラベルによって、一瞬で海底都市たる人魚の王国に移動した。
〈究極効果〉である『どのような環境、どのような状態異常にも適応することができる』効果によって、アリシアは深海にいても、溺死することも水圧で押しつぶされることも冷たい海水で凍死することもなかった。
それどころか会話までできることで、ルビーは驚いた。
「わぁ。人魚でもないのに、水中で生きられるどころか、普通に会話もできるなんてすごいねっ!」
「ふむ。たしかに、これは私も驚きましたね。『どのような環境にも適応する』が、思いがけず広範囲に影響を与えるようですね。つまり『適応する』とは、そこで暮らすことに問題がないということ。他者と会話ができないと、意思疎通に困りますからね」
もちろんその点を突き詰めれば、精神による会話や、手話など、いろいろと方法もある。
が、最もアリシアにとって一般的な方法として、発声による会話が採用されたのだろう。ちなみに人魚が水中で会話できるのは、どうやら『水中での会話が可能』という、分かりやすい効果が肉体に付与されているからだ。
「ルビー。あなたこそ、よく地上世界に上がることができましたね」
アリシアは、ルビーの下半身を見てから、そう言った。
いまやルビーの下半身は、いわば魚形態となっている。ファストトラベルで海底に移動するとき、形態を変更したようだ。
「あ。わたしは特別なんだよ。まぁ『特別』は言い過ぎかもしれないけれども。生まれながらに、陸上生活可能の形態に肉体変更することができるから」
「あなたのスキルですね」
この後、ルビーの案内で海底都市に入る。
海底都市は、わりと王都に似ていた。
人魚たちは海中を泳げるので、王都と違い左右だけでなく上下にも広がりを見せる都市構造ではあったが。
そして中心には、王宮がある。
人魚の王は、レジェンド級の武器であろう三叉戟を装備していた。もとから付与されている効果が凄く、アリシアがぱっと見たところでも、『水属性攻撃のすべてが強制的に瀕死ダメージとなる』というものがあった。
ようは水属性攻撃さえ出せれば、あとは被弾=瀕死の攻撃を好きなだけ放てる。
対処するなら、『水属性を解除』する類のデバフ攻撃を初手でかけるしかない。
ちなみにルビーの説明では、この三叉戟の名は〈ポセイドン〉といい、海の民の王が代々受け継いできたものだとか。
アリシアは跪き、どこの国でも通ずる拝謁時の言葉を述べる。
それから淡々と状況を説明した。海の王もまた新たな情報を仕入れており、ドラツ船長は武装船団を率いており、この人魚の海域に攻めてくると。
しかし──
「人間よ。そちがわれらに手を貸したいという思いは評価するが、必要のないことじゃ。われら人魚は海の民、地上ならばともかく、海上において人間に遅れをとることはない」
それから海の王は、どのように武装船団を『料理』するか説明した。
人魚の世界にも騎馬隊が存在し、こちらはイルカに騎乗して──それは見てみたいとも思ったが。
アリシアは説明した。
「おそれながら陛下。それは賢明ではございません。確かにドラツの船団は駆逐できましょうが、そのように不用意に姿をあらわすことは。
それでは人魚の神秘性が失われます。われらの王政府は、人魚に対して、説明のできぬ恐れを抱いているのです。
ところがあなたがたが、『イルカに乗って槍で攻撃してきた』などという、わかりやすい戦いをされては、その『説明できぬ恐れ』が失われます。
次は王国の海軍が攻めてくるでしょう。それでもあなたがたは海の民、人間の海軍さえも撃退できるるでしょうが、あなたがたの被害もまた無視できぬものとなるはず。
何より、われわれ人類の愚かさにより、海底で静かに暮らしているあなたがたを戦争に巻き込みたくはありません」
海の王は玉座に腰かけたまま、アリシアを値踏みするように見た。
「うむ。そちの言わんとすることも分からんでもない。ならば、そちの計画というものを聞こうではないか」
「はい。とはいえ計画というほどのこともありません。まずドラツの武装船団を壊滅させることは、同じです。
ですが方法が違います。なぜ王政府は人魚を恐れるか。その理由のひとつは、『人魚の歌声には、抗いがたい幻惑の力があり、船員を海に飛び降りさせる』というものがあります。
そして、自ら泳ぐこともなく溺死するとか」
「そこまで都合のよい力を、われらは持ってはおらぬ」
「はい。ですから、私がお与えしましょう──ただし一日限定ですが」
『一日限定』としたのは、これほどの力を人魚に与えて、こんどは人類海域に攻められても困るからだ。
それから、付け加えた。
「ですが私も商売人。タダとはいきませんが──」
見たところ、人魚の国は豊かだ。ただし貨幣は違うわけだが、そこは別に。
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