8,素材考察。
「ところで、先ほど『運べる量の限界』について、おっしゃっていましたね?」
「え? ああ、そうだね。ただの愚痴だけど」
「いえ、それは愚痴というより要望でしょう。少々、お待ちください」
アリシアは、ひとつの懸念材料をクリアでき、ホッとしていた。
つまり、どの素材がどのような効果を付与できるのか、それを手探りで調べることになるのでは、という懸念を。
いま、こうして多数の素材を前にして、錬成スキルを起動する。
するとそれぞれの素材の上には、付与可能な効果が表示されている。これはアリシアにしか見えないわけだ。
興味深いのは、素材をかけあわせることで、まったく新しい効果を作り出せること。
たとえば火焔晶だけでは『火炎属性』の効果しか付与できない。だがそれに、無ガ石という素材をかけあわせると、『確率でブレイクダメージを与えられる』というものになる。
ちなみに無ガ石という素材は、これ単体では効果付与はできないようだ。かけあわせ専用の素材ということらしい。
「シーラさん。あなたの袋をお借りできますか」
「ん? はい」
「こちらの袋に、二つの効果を付与いたします。まず、こちらの膨茸という素材で『収納10倍』効果を付与。さらに重力石という素材を使い、『重さ10分の1』の効果を付与しましょう。これで、これまでの十倍の素材を入れることができる上、重さ自体はこれまでのmax値と変わりません」
「それは確かに便利。ところで私の報酬について、だけど」
「すでに用意してあります」
〈虎の牙〉から受けた融資分から支払うつもりだった。
だがシーラは首を横に振る。
「私は、もっと大きなものを要求できる、と思うよ。どうだろう? 私がいなければ、君の錬成店は成り立たない」
アリシアは素材を並べながら、あることに気付いた。
素材の効果付与可能の説明以外に、もうひとつ、数字が表示されている。
たとえば火焔晶は、2。
無ガ石は1であり、重力石は5とある。
重力石は重さに関する効果を付与できるということで、かなり貴重なように思えたが。この数字は、レベルのようだ。
素材レベル。
「シーラさん。この重力石は、火焔晶より深い階層で採取したのではありませんか?」
「そうだね。サイクロプスという、やたらと強敵の魔物が待ち構えていたね」
「なるほど……」
ダンジョンの深い階層に行けば、それだけレベルの高い素材を採取できる。
その分、難易度も高まり、命の危険も高まる。その上で、アリシアはシーラのにおわせた発言について一考する。
「私には返済せねばならない3億もの借金があります。それはご存じでしたか」
「いいや。私には、あまり関係のない話に思えるけどね」
このドライなところも、アリシアは気に入った。
「シーラさん。あなたには、是非とも共同経営者になっていただきたい。簡単な話、儲けは半々です」
「本当に? それは嬉しい申し出」
シーラは少し驚いた様子。共同経営権までは求めていなかったようだ。
だがシーラには、より多くの利益を得られる、と知ってほしかった。
ダンジョンのもっと深いところへと探索し、危険と戦い、よりレベルの高い、すなわち稀少価値の高い素材を採取してきてもらえるように。
アリシアは右手を差し出した。
「約束の握手を?」
「そんなものより、ちゃんとした契約書が欲しいかな」
「あなたとは気があいそうですね。シーラさん」
その日のうちに、素材保管庫を造った。
保管庫といっても、ただの大きな容器だ。
閂石という素材(これ一個だけだった)を使い、保管庫にロック機能を付与しておく。
認証方法は、指紋。
すべての人間で指紋が異なる、という王都研究所の最新論文を読んだのが役に立った。
アリシアとシーラの指紋でだけ、この素材保管庫を開けることができる。
「シーラさん。さっそくですが、もっと素材が必要です」
「いろいろと集めてくるよ。何か要望はある?」
「いま、素材を増殖させる方法を模索しているところです。その方法が見つかるまでは、『多岐にわたって、たくさん』としか言えません」
「では共同経営者として、頑張ろうかな。あ、契約書はよろしく」
「知り合いに弁護士事務所に勤めているかたがいるので、彼に作成を頼みましょう」
シーラを見送ってから、アリシアは一考した。
要素は固まってきたので、そろそろオープン日を決めようか、と。
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