表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/105

77,拒絶。

 

 ここのところ無駄に脳のエネルギーを使いすぎた。

 アリシアは、自分が策略をめぐらすのは不得意とは思わないが、とくに好きでもない。何も考えずに淡々とお針子していたころから、実のところは一番幸せだった。


 が、いまはそうもいっていられない。冒険者ギルドの態度は気にかかるが、ひとまず鍛冶連盟の代表として契約を結んだので、しばし静観しても大丈夫だろう。

 鍛冶ギルドは片付き、冒険者ギルドとも『和平条約』を結んだことになる。

 あとは〈銀行〉。


 このときアリシアの『借金返済の可能額』は、2億ドラクマに迫ろうとしていた。

 だがいまのところ借金返済できたのは、はじめの300万ドラクマのみ。

 借金を返したくても返せない、という状況は興味深い。

 少なくとも王都の〈銀行〉本部が対応する気がないのは確実。ここのところアリシアは、ひとつの仮説を立てていた。

 だがその仮説を立証するには、情報が不足している。

 そこでライラに、ひとつ人探しを頼んだ。

 ライラは王都を出立。

 

 錬成店としての通常が戻る。

 予約にある錬成相談を淡々とすましていく。

 冒険者の依頼というのは、たいはんは『攻撃力』または『防御力』の強化。実は具体的な依頼というのは少なく、「物攻を上げたい」とか「魔法攻撃に強くなりたい」とか、分かりやすく単純なものが多い。

 必然、その手の効果付与に使う素材の消費は激しくなるので、常に在庫確認はおろそかにできない。


 そんな昼過ぎ、時折スパイスをという神の配剤でもあったか、変わった依頼が来た。その依頼をしたのは、船乗りだという冒険者。


「つまり、船乗りであり冒険者ということですか」


 そもそも冒険者というのは、いったいなんの職業なのだろう、とアリシアは思った。冒険者ギルドに所属しなければ冒険者を名乗れない、という法律などがあるわけでもないが。


「王国の海上の交易路開拓の依頼を、冒険者ギルドが請け負ったんです。それで、私はそのクエストを受注しまして。船も購入し、船員も雇い、いまは船長をしています」とのことだった。

 名前は、ドラツ。

 確かによく日焼けした男で、ダンジョンばかりもぐっている冒険者とは違う。


「なるほど。では船乗りとしての依頼ですか?」

「まあ、そうなんです。人魚についてご存じですか?」

「魔物ですか?」

「いえ魔物ではなく魔族なんです」

「なるほど」


 ドラツの説明では、魔物と魔族はまったくの別物らしい。魔物はダンジョンから現れるが、魔族は人類よりも先にこの世界に住んでいた異種族。


「エルフなんかもそうですがね」


 つまり、エルフなどの異なる種族を人類が攻撃しやすいように、魔物と似たような蔑称を与えているわけだ。エルフや人魚が、人類のことをなんと呼んでいるか、気になるところではある。

 いずれにせよエルフなどの魔族は人類圏から追放されているため、王国のましてや王都に住まうアリシアには、一生出会うこともない種族たちということになる。


「人魚の唄を聞くと、船乗りたちはその歌声にひかれて飛び降りるんです。これは伝説だとばかり思っていたんですがね」

「実際に体験されたわけですか」

「ええ。ある海路を開拓しているときに。まったく新しい海域だったんで、われわれも備えていたんですが、まさか人魚のテリトリーだったとは」

「そして?」

「そして、歌声が聞こえたとき、これはまずいと思い、私は引き返すよう命じました。とはいえ船というのは、そう簡単にUターンできるものでもありませんからね。そうこうしているうちに、船員が次から次へと海に飛び降りていきまして」

「よく脱出できましたね」

「まぁ帰りは船員不足で、苦労しましたが」

「なるほど。それで、依頼というのは?」

「あの海路を諦めるわけにはいかんので、人魚どもを駆逐したいんです。そのためには、人魚の歌声の魔法にかからないようにしないといけない。そのための効果を付与していただきたいんです。いえ、私個人の装備にではなく、船そのものに」


「残念ながら、人魚を駆逐することに手を貸す気はありません。私は、遺恨を残すようなことに錬成スキルを用いるつもりはありません」


 先日の〈ウィッチドクター〉の例もある。意味もなく恨まれるようなことはしないのが得策。ましてや種族を滅ぼすとなると。


 ドラツはこの返答を予期していなかったようだ。

「では、おれたちにあの海路に諦めろ、ということですか?」


「そうですね。それが良いでしょう。世界は広いのですから、何も人魚のいるテリトリーをわざわざ横切ることもないでしょう」


 ドラツは怒りもあらわに席を立つ。

「あんたに、おれの仕事についてどうこう言われる筋合いはありませんな。いや、結構。あんたがダメなら、別の奴に頼むまでだ!」

 

 そう言い捨てて、ドラツは去った。


 アリシアは一考する。

(『別の奴』、ですか。少々、気になるフレーズを残されましたね、あの船乗りさんは)

お読みいだたき、ありがとうございました。ブックマーク登録、評価などお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ