75,経過。
アリシアが錬成店に行くと、通りでは数人の男たちが逆立ちしていた。
異様な光景だが、とくに興味ないので無視する。
店内に入ると、ライラが向こうから説明してきた。
「鍛冶ギルドが雑魚を送り付けてきたので、返り討ちにしたのよ。命をとらないかわりに、三時間、外で逆立ちしているよう命じたわけ」
「あれでは営業妨害ですので、よそに行くように命じておいてくださいね」
ここでアリシアは、チェットを忘れてきたことを思い出した。
「忘れもの……」
シーラが地下室からあがってきた。
ブラムウェルが送り込んだ者たち(店の表で逆立ちしている人たち)に顔を見られないように隠れていたようだ。
外の者たちは、ライラがいてくれたことを神に感謝するべきだろう。
ライラがいなければシーラが対応することになり、顔を見られた以上は、口封じで皆殺しにされていたはず。
シーラが尋ねてくる。
「アリシア。経過報告を聞こうかな?」
「そうですね……まずシーラさんとライラの活躍で、鍛冶ギルドの倉庫にあった鍛冶素材は破壊されました。そして冒険者たちも、装備武器に付与されている『鍛冶素材を無効化する』効果によって、鍛冶素材を採取できなくなりましたので、鍛冶ギルドは新たな武具を造ることはできなくなりました」
ここでライラが誇らしそうに言う。
「一方で、今日発足した鍛冶連盟は、たくさんの鍛冶素材を蓄えているわけよ。それを採取してきたのは、このあたしね」
「素材をおさえられると、何百年と続いてきたギルドもダメになるわけだ。ふーむ」
シーラの最後の『ふーむ』には、『錬成店にも同じことは言える』と言いたそうだった。
ちなみにライラが錬成スキルに錬成素材が必要なことを知っているのかは、正直、よく分からなくなっている。
アリシアは教えた記憶はないが、ライラが自ら探り出している可能性はある。
いずれにせよ、極秘の情報というのは、いつかは漏れるものだ。何かしら対策をたてておかないと……
「話を戻します。鍛冶連盟には、すでにかつてフリーの武具店を開いた実績のあるダングさんが加入しています。鍛冶ギルドのメンバーも、何人かは加入してくださるのでしょう。それと、鍛冶ギルドのギルマスであったブラムウェルさんは呪術火炎で死亡し、呪術火炎を起こしていた〈ウィッチドクター〉も討伐しました」
「ふーむ、怒涛の展開。ブラムウェルはなんか死にそうだったけど、〈ウィッチドクター〉の呪いも成敗してしまうとは。アリシア、君は働き者だねぇ」
「流れでしたので」
「すると、問題は解決したわけだ。錬成店を商売敵として不買運動などを煽っていた鍛冶ギルドは消滅。『火炎耐性』が効かないとされた『呪術による火炎』の元凶である〈ウィッチドクター〉も滅びた。さらに錬成店は、鍛冶連盟を裏で操れる」
「操るつもりはありませんが、管理はいたしましょう。しばらくの間は」
「めでたし、めでたし」
「めでたくないわよっ!」
と、ライラが鋭く指摘する。
「確かに鍛冶ギルドは潰したけど、もっとでかい敵ができたでしょ? 冒険者ギルドよ。鍛冶素材を鍛冶ギルドに売れなくなったんだから。そして何より、冒険者たちよ。鍛冶素材が売れないことで、錬成店の顧客たちに不利益をこうむることになったのよ。これって、マイナスもいいところではないの?」
シーラが首をかしげる。
「鍛冶連盟が鍛冶素材を購入することにすれば問題ないんじゃないの?」
「鍛冶素材は、お姉さんの効果付与でダメになるのに?」
「そこは簡単だよー。鍛冶連盟と契約を結んだ冒険者の装備武器からだけ、『鍛冶素材を無効化する』効果を消せばいいんだよ。
そうしたら、その冒険者が採取してきた鍛冶素材はダメにならない。はい解決」
しかしアリシアが、首を横に振る。
「いえ、そんな単純な話ではないでしょう。冒険者ギルドは、何も鍛冶素材を買うだけのところではありません。クエストを発注するための仲介地点でもあります。
つまり王政府や個人から依頼を受け、討伐などのクエストを冒険者たちに発注するのが、冒険者ギルド最大の使命」
「うん、それで?」とシーラ。
「鍛冶連盟に鍛冶素材を売った冒険者には、クエストを発注しない──などと宣言するでしょう。少なくとも、私が冒険者ギルド側でしたら、そのような抵抗策を取ります」
「うーん。すると、どうするの、アリシア? 鍛冶連盟の件は、もう動き出しちゃったよ?」
「ええ。ですから、『鍛冶素材を無効化する』を解除するのです。そうすれば、冒険者たちはまた、鍛冶素材をダメにせずに採取し、冒険者ギルドに売るこどができます」
「だけどそれだと、冒険者ギルドはまた鍛冶ギルドに鍛冶素材を売るだけで──あぁ、そうか。つまり、鍛冶連盟に売らせればいいわけか。われわれが管理する鍛冶連盟が、鍛冶ギルドの後釜にすわれば問題解決だね」
ライラが小首をかしげる。
「そんなに上手くいくかしら?」
「ですので、いまから話し合いに行ってきますね」
「え、どこにいくの、アリシアお姉さん?」
「もちろん、冒険者ギルド本部です」
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