表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/105

73,ブラムウェル。

 


 大広間に戻ると、ブラムウェルがしびれを切らした様子で待っていた。

「この下民が、いつまで僕を待たせる気だ?」


 アリシアは小首をかしげる。

 少々、鍛冶ギルド本部で長居しすぎたようだ。怪しまれるのも何なので、ここは冗談で返すとしよう。

「申し訳ございません。自慰行為をしていました」


 変な空気になった。

(ふむ。冗談とは、難しいものですね)


 ブラムウェルは咳払いして、

「用が済んだのなら、帰ってもらおうか。おい」

 と控えていた執事に向かって、

「清掃係を呼んでおけ。この女が使用した化粧室を綺麗にしておくんだ。それにこの女がさわったすべてをな」


「私は清潔ですよ、ブラムウェルさん」

「そういう問題ではない。さっさと消えろ。お前の顔を見ていると、虫唾が走る」


 しかしアリシアは椅子に腰かけて、

「ブラムウェルさん。もう一度、考え直してください。いまならばまだ間に合いますよ。『呪術による火炎の耐性』をお買い求めください。そうすれば、まだ助かるチャンスはあります」


 ブラムウェルは身を乗り出し、吐き捨てるように言った。

「お前は、詐欺師だ。詐欺師の言うことなど、誰が聞くものか」

 そうしてアリシアを指さしながら、

「いいか。お前がインチキであることを、僕はみなに証明してみせよう。残念だが、お前がどれほど錬成スキルとやらに長けていようと関係ない。

 いいか。この世界では、情報をコントロールできる者が勝者となる。僕は、王都新聞社の重役と繋がりがある。このコネを使って、お前が詐欺師であるという記事を書かせる予定だ。

 いいか、シェパード。もうじきお前は、町ゆく人たちから、詐欺師と罵倒されながら石を投げつけられることになる。それが嫌なら、店には戻らず、王都から立ちさるがいい。ふん。とはいえ、もう錬成店には戻りたくとも戻れないだろうがな」


「はい?」


「いまごろ、僕の手下たちが、錬成店を燃やしに行っているころだ」


 その手下とは、〈竜紀隊〉とはまた違うのだろう。

 錬成店にはいまごろ、シーラとライラがいるはず。


(皆殺しにしてしまわなければいいのですが。シーラさんもライラも、とまらなくなるところがありますから)

 と、アリシアはブラムウェルの手下の身を案じたが、ブラムウェルはその表情を別に解釈したようだ。

「いまごろ心配してももう遅いぞ。お前は、ここにいて手遅れだ! あぁ?」


 ブラムウェルはきょとんとした顔で、自分の右手を見た。

 燃えている。


「な、なんだ、これはぁぁぁ????」


 アリシアは立ち上がり、退去することにした。

「確かにあなたの言う通り、手遅れのようです。ではブラムウェルさん。あなたとは出会いが違ったならば、良き友になることもできたかも、しれませんが。

 可能性を語ることは自由ですからね。それでは、さようなら。

 あぁそれと、ブラムウェルさん。先ほど、あなたの鍛冶ギルドを解散させてきました。これから焼死されるかたにわざわざ報告する必要もないのですが。これも義理というものでしょう。私は、義理堅いので」


 ブラムウェルが立ち上がる。その右腕は、すでに火炎で包まれていた。今回の人体発火は、だいぶのんびりだ。


「ま、まままままま、まってくれぇぇぇぇぇ!! この、炎を消して、けし、消してぇぇぇぇぇ!!!」

「残念ながら、いまから効果を付与しても遅いのですよ」

「お、お願いだぁぁ!! いくらでも、お金はいくらでも払うからぁぁぁ!! だから僕を助けてくれぇぇぇ!」

「もう遅いと言いましたよね? 諦めてください、ブラムウェルさん」

「僕を助けろぉぉぉぉこのクソ女ガァァアアアアアアアアアア…………!!!!」


 口の中から火炎が噴き出、ついにブラムウェルの全身を燃やしだした。火達磨となったブラムウェルは、さまようようにして大広間を歩いていたが、ついに力尽きて死んだ。


 アリシアは首を振ってから、立ち去ろうとする。

 しかし、ふいにブラムウェルを焼死させた火炎が、独自に人の形をとる。


 人型の火炎は、想像できないほど流暢に話し出した。

「女。特別なスキルを有した女よ。お前、なぜわれの復讐を邪魔する?」


 アリシアはすぐ、この火炎の正体を理解した。

「おや、ユード村で犠牲になった〈ウィッチドクター〉のかたですね。厳密には、日誌に宿った怨念が自我をもった個体、というところでしょうか」


「われの復讐の邪魔をするならば、容赦はせんぞ!」


 人型の火炎は、間違いようのない敵意を放っている。

 アリシアは溜息をついてから、周囲を見回した。

 まず、驚きで腰を抜かしている執事の手から、お盆を取る。

 つづいて暖炉から火かき棒も取った。

 つまり、火かき棒が『槍』で、お盆が『盾』である。


「さて。冒険者の真似事でもしてみましょうか?」

お読みいだたき、ありがとうございました。ブックマーク登録、評価などお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ