71,消滅勧告。
〈竜紀隊〉の監視のもと、アリシアとブラムウェルは大広間で対面した。
アリシアは、ユード村の虐殺によって殺されたある〈ウィッチドクター〉の呪いが、今回の連続人体発火の原因と話す。
その火炎は、通常火炎や魔法火炎とはまた性質が異なるため、これまでの『火炎耐性』では対処できなかった。
だが新たなバージョンともいえる『呪術による火炎の耐性』効果を付与すれば、しのぐことができる。
「300万ドラクマです」
ブラムウェルはバカにしたように言った。
「なぜ、それを僕に話すんだ? 僕は関係ないだろ。それに、『呪術による火炎』だぁ? それこそ詐欺師の巧妙な手口のようじゃないか? さらに役にたたない効果を売ろうというわけか?」
「……ブラムウェルさん。私は、人体発火の標的となっているリスト、つまりユード村の虐殺に加担した者たちの子孫のリストを入手しています。その中には、あなたの名前もあったのですよ」
ブラムウェルが、ユード村の虐殺に祖先が関わっていると知っていれば、ここで反応があったはず。だがブラムウェルは、くだらないと言わんばかりに鼻を鳴らしただけだった。
つまりブラムウェルは,祖先の罪を知らない。
これは少々、意外だった。
というのもアリシアの読みでは、このユード村の虐殺を指揮したのは、ブラムウェルの祖先。当時のエドモンズ家当主であり、鍛冶ギルドの第74代ギルマスだったろうから。
確実な証拠はないが、冒険者たちによるクランに鍛冶ギルドのギルマスが入っているのは、何もこき使われるためではないだろう。
おそらく実質的なリーダーの役を担っていたはず。
なぜ呪術師を消したかったのかは分からないが、鍛冶ギルドの商売にかかわることだったのだろう。
今回、第78代ギルマスのブラムウェルが、錬成店を潰そうとしたように。
ただユード村では問答無用の虐殺だったことを踏まえると、ブラムウェルはまだ大人しい手口を使っていた。
ただこれはブラムウェルが非暴力とかではなく。
錬成店の冒険者たちのなかでの人気を鑑みて、いきなり暴力的な手にでたら非難は免れない、と賢く判断してのことだろうが。
「さて、ブラムウェルさん。私は、これ以上、人体発火の犠牲を出したくはありません。ユード村での虐殺はあってはならないことですが、その罪を、子孫が償うというのもおかしいでしょう。ましてや燃えて死ぬなんて。
ですので、あなたにも是非とも、『呪術による火炎の耐性』効果を購入していただきたいのです。そうすれば、私はいますぐにでもあなたに効果を付与し、あなたを人体発火の呪いから救うことができます。私は、あなたを救いたいのですよ、ブラムウェルさん」
「僕を助けるだと? 何様だ、この下民が」
「ブラムウェルさん。これは階級の問題ではありませんよ」
「おい詐欺女。お前もとうとうと頭がおかしくなったようだな。僕が信じると思ったのか? 何がユード村の虐殺だ、〈ウィッチドクター〉だ。ばかばかしくて笑える話じゃぁないか。いいか詐欺女。お前、また王都に戻ってきて錬成店をやろうとなどと思うなよ。そのときは本当に、血を見ることになるぞ」
「ふむ……もう出勤時刻ですね。鍛冶ギルドの皆さんも、ギルド本部にいるころでしょう。ギルマスのあなたは、こちらにいますが」
「お前のようなウスノロの相手をしているからな。それにギルマスである僕が、こんな朝早くから行く必要はないんだ」
「ははぁ。重役出身というものですね。ところで、お手洗いをお借りしても?」
ブラムウェルは『下民』に手洗いを貸すのが相当嫌そうだったが、ここで漏らされても困ると思ったか、渋々とうなずいた。
「いいだろう。おい、見張っていろ」
と、女の護衛に命じる。
その女護衛の案内で手洗いまで向かった。
女護衛は廊下で待っているというので、アリシアはうなずく。
それからアリシアはこっそりと、トイレのドアに、『任意の場所に転移する』効果を付与。
簡易の転移ゲートにして、トイレのドアを開け、中に入る。
空間転移。
こうして向かった先は、騒々しい場所だった。
複数の男女が、怒鳴りあっている。
「どういうことだ! 王都の倉庫すべてから鍛冶素材が消えたというぞ!」
「そんなバカなことがあるか! どうやって一晩で盗み出せるというんだ!」
「そんなことより、いま冒険者ギルドから情報が来たが、昨日から冒険者が持ってくる鍛冶素材がおかしいらしいぞ!」
「おかしいって、なんだ?!」
「鍛冶素材が、ただの魔物の死体のパーツというか……鍛冶素材としての機能をはたしていないらしくて」
「意味がわからんぞ!」
「つまり、鍛冶素材として使えんということだ!」
アリシアは高いところに立って、みなを見回して、咳払いした。
騒音のなかでそれがよく響いたようで、みなが一斉に、アリシアを見やる。
つまり鍛冶ギルドの者たちが。
ここは鍛冶ギルドの本部であり、アリシアはそこに転移してきたのだ。
唖然として静まり返る鍛冶ギルド員たち。
その中の一人が、言った。
「お、お前、錬成店の……どこから入ってきやがった」
「お時間があまりありません。人を待たせているものですから。ええ、お手洗いとウソをついてきましたので、急ぎましょう」
アリシアはできるだけ朗らかを心がけて続けた。
悪いニュースを伝えるので。
「鍛冶ギルドは、いまをもって消滅いたします。私自身がそのことを伝えるのが、道理かと思いましてね」
お読みいだたき、ありがとうございました。ブックマーク登録、評価などお願いいたします。




