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7,スロット制限。

 


 構想が形になってきたので、アリシアはさらに大枠を決めることにする。


 まず『属性などの効果を付与した武器や防具を売るのか』、それとも『冒険者が持ってきた装備済みの武器や防具に効果を付与するのか』。

 前者の場合、こちらで武器を用意しなければならない。

 それに冒険者というのは、自身の武器に愛着をわくものだ。その武器を手放して、新しい効果付与の武器を手にしたいかは、その人によって違ってくる。

 それをふまえると、相手が持っている武器に効果を付与するほうが良いだろう。


 その上で、『回数制限』と『スロット制限』をもうけることにした。


 回数制限は説明不要。

 重要なのは、この『スロット制限』だ。


 この制限、今朝がた朝食をつくりながら、ふいに思いついた。

 実は効果付与は、ひとつの武器に無限につけることができる。やろうと思えば。

 

 しかしそれだと、その武器が強くなりすぎる。強くなり過ぎれば、その武器の装備者は、もう錬成店を訪れなくなるだろう。つまり錬成店は、はじめは大繁盛しても、徐々にお客が減っていく運命にある。

 少なくとも、無限につけることができる、という状態では。


 そこに効いてくるのが、このスロット制限だ。

 詳しくいうならば、『ひとつの武器に付与できる特殊効果は、三つまで』となる。


 たとえばある冒険者の武器に、すでに三つの効果が付与されているとする。

『無属性の攻撃力が上がる』、『行動するたびライフが回復する』、『防御力が上昇する』が。

 そこに四つ目の効果、たとえば『火炎属性』を付与したい、となる。

 この場合、すでにスロットは埋まっているので(実際は埋まっていないが、そのように説明するつもりだ)、何かひとつに上書きする必要がある。


 たとえば『無属性の攻撃力が上がる』のスロットに上書きする。

 そうするとその武器の付与効果は、『行動するたびライフが回復する』『防御力が上昇する』そして『火炎属性』となる。

 火炎属性が弱点の敵には効果的。

 だがあるとき、氷属性の攻撃を必要とする魔物に遭遇し、その魔物を撃破できなかったとする。

 するとその冒険者はまた錬成店にやってきて、こんどは『火炎属性』に『氷属性』を上書きすることになるだろう。

 では、今度は火炎属性が弱点のボス格を攻略しようとなったら? 

 準備のために、『火炎属性』を上書きすることになるだろう。


 さらに『ランク制度』もかかわってくる。

 このランク、『火炎属性』であればそれは火力レベルであり、火力レベルが上がる(=ランクが上がる)ほど、火炎属性攻撃の威力も上がる。

 そしてもちろん、ランクを上げれば、そのための錬成料金も上がるわけだ。

 しかしボス格との戦いともなれば、冒険者側も万全をつくすため、最大ランクを依頼してくるだろう。お金を惜しむと、寿命が縮む、それが冒険者だろう。


 アリシアは一考。

(ふむ。だいたい、まとまりました、か。

 しかし、これらはいまのところ机上の空論にほかなりませんね。いくら錬成が可能だからといっても、そのための素材がなければ意味をなしません。素材……素材……)


 ひとつの素材から増産することができるなら、いいのだが。

 

 その昼過ぎ。〈虎の牙〉から受けた融資のお金を使い、錬成店となる店舗の賃貸契約を結んだ。

 さらに看板製作などの依頼もだしておく。

 あとは──やることもないので、錬成店となる店舗内を掃除。長らく使われていなかっため、埃がたまっていた。


 掃除、掃除。

 アリシアは掃除が好きだ。何も思考せずに済む。思考はエネルギーを要する。必要ならば思考するが、アリシアの理想とは、思考の不要な環境。何も考えないことこそが、幸福だろう。


 人の気配がしたので顔をあげると、シーラが立っていた。

 大きな布の袋を肩にかついでいる。

「一度に運べる量に、限界があるんだよね」

「もしや、その袋の中には?」


 シーラがうなずく。

 アリシアは感心した。前日依頼したばかりで、数日はかかるものと思った。

 冒険者カードの偽造、ダンジョンの下見、実際の攻略、そして必要な素材の採取。それをこの短さでやってのけるとは。


 このシーラという傭兵、限りなく有能なのでは? 

 なぜ傭兵ランクの最下位でくすぶっていたのだろう。

 アリシアは疑問には思ったが、とくに明かしたいとも思わなかった。


「店の奥、行こうか?」とシーラ。


 通行人の目の届かぬ場所──狙ったわけではないが、この店舗には地下室があった。この地下室の一角を、素材保管庫にできるだろう。

 ひとまずは、木製のテーブルの上に、シーラが袋の中身を出した。

 数々の魔法水晶。

 そのほか、魔法水晶ではないが、興味深い素材もあった。


「魔法水晶だけでも良かったんだけど、もしかしたら、他にも素材がいるかと思ってね。鍛冶素材のリストにはないものを選んだんだけど、どうかな?」


 魔法水晶以外にも素材は必要と思っていたが、その選別方法は考えていなかった。だがシーラの選別方法が正しい。

 鍛冶素材として活用されている()()のもの。

 これまで価値ありと見なされていた素材──ではないもの。

 

 魔法水晶のように、その真の価値を無視されて、ただダンジョンに産出されてきたもの。

 そんな素材こそが、アリシアの必要とするものだ。


 すなわち、それは──宝のやま。

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