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68,対峙。

 

 訪問販売はつつがなく進み、最後の訪問先となった。

 つまり、鍛冶ギルドのギルマスであるブラムウェルだけだ。


 このころ、ついに夜が明けようとしている。


「本当に、ブラムウェルのもとに行くんですか?」

 と、チェットが心配そうに尋ねる。


「ええ、もちろんです。私は、お客を選別したりはしませんよ。少なくとも、はじめの段階では」

「えーと。ですけど、ブラムウェル率いる鍛冶ギルドは敵じゃないですか。それに店長は、ブラムウェルに王都から追放された、ことになっていますよね? こんなふうに現れたら、どんな目にあうことか」

「そこはチェット君が守ってくださると信じていますから」


 しばしチェットは硬直していたが、ふいに気を取り直した様子で拳を握りしめる。

「わ、分かりました、店長。僕が死ぬ気でお守りします!!」


「チェット君、冗談ですよ。あなたには何も期待していないので、ご安心ください」

 と、アリシアとしては安心させたつもりだが、なぜかチェットには泣かれた。

「それはそれで悲しいような……」


 そんなチェットが視線を転ずると腰を抜かす。

「わぁぁ、なんか出た!」


 ライラが立っている。

 突然ともいえる出現で、よほど驚いたようだ。

「うーん。なんだか情けないのをお供につれているわね、アリシアお姉さん」

「お二人は初めてですか? こちらがライラ、こちらがチェット」


 チェットはライラをじっと見ながら、

「アリシアさん。この女の子、王都ダンジョンでレベルの高い魔物を殺しまくっていましたよ」

「鍛冶素材を集めてもらっていたのですが、チェット君が錬成素材を集めているとき、偶然、会っていましたか。ところでライラ。首尾はどうですか?」


「鍛冶ギルドの倉庫は、王都内に4か所。それらすべてに仕掛けておいたわ。よその城郭都市までは、今日だけじゃ手が回らないわね」

「それは急がなくていいでしょう。重要なのは、この王都ですので」

「で、これから鍛冶ギルドのギルマスに、ざまぁしにいくところかしら?」


 アリシアは顔をしかめた。

「ざまぁ? なんですか、その下品な発想は? いま私がブラムウェルのところに向かうのは、別件です」

「あたしは、いる?」

 ライラがクレイモアを強調するように示す。


「いえ、結構です。暴力沙汰にはなりませんよ」

「ふーん」

 と不満そうなライラ。

「えー」

 と疑わしそうなチェット。


 ライラが立ち去り、チェットが残念そうに言う。

「ああ、とてつもない戦力が行ってしまいましたよ。大丈夫なんですか、僕たち?」


 ブラムウェルの邸宅は、王都の上層部。

 つまり貴族階層の住まう一帯にあった。

 別にここに一般市民が入ることは禁じられていないが、やはり通常市民はあまり入ろうとはしない。

 というのも貴族には、個人で市民を逮捕できるどころか、場合によっては捌く権利もある。

 この貴族の居住区画に入り、不法侵入などの因縁をつけられて処刑されても、文句は言えないわけだ。

 

 というわけですでにチェットは、いまにも失神しそうな様子。

「チェット君。私たちは何も悪いことはしていないので、胸を張ったらいいと思いますよ」

「ど、どうしてシーラさんが一緒じゃないんですかっ!?」

「今更ですね。『普段、錬成素材を集めているシーラと一緒にいては、錬成スキルに錬成素材──つまり鍛冶素材以外の素材が不可欠と気取られるかもしれないから』と、以前説明しませんでしたか?」


「ぎゃぁ、店長! 敵襲です、逃げてください! 僕が時間を稼ぎます! 僕には、かまわないでぇぇ!!」


 馬に乗って武装した男たちが数人やってくる。

 チェットが時間を稼ぐため突っ込んだ。

 が、馬たちは軽やかに避けていくので、チェットは向こう側に突っ込む形で転んだ。


 先頭の騎兵がアリシアの前でとまる。

 どうやら貴族の居住区画を警備している者たちのようだ。

 たいていこういう者も、貴族の子弟が行う。


 騎兵はアリシアをみるなり、馬上から降りた。

「アリシアさんでしたか。こんなところで何を?」

「おやボーさんでしたか。ボーさんも貴族階級の出とは知りませんでした」


 ボーは錬成店の顧客の一人で、すでに三度ほど錬成スキルを購入している。


「貴族とはいっても下級貴族ですから。それに、私はまず冒険者でありますからね。それで、今日はいったいこんなところに何のようで?」

「ブラムウェルさんとお話しがありまして」


 アリシアはとくに意識したわけではないが、この言い方だと、まるでブラムウェルとすでに約束があるようにも受け取れる。

 実際、ボーはそう誤解した。


「でしたら、私が案内しましょう。さ、こちらです」


 ボーの案内のもと、ブラムウェルの邸宅に向かった。それは大豪邸といって差し支えなく、チェットは口をぽかんと開けている。

「エドキンズ家が貴族なのは知っていたんですが」


「彼らは侯爵位ですからね」

 と、ボーが言う。

 この口調には、どこか注意するようにと警告のニュアンスもあった。

 王国には公爵の位はないので、王族を抜かせば侯爵位が、階級制度の最上位ということになる。


 昔に比べてだいぶ和らいだとはいえ、やはり貴族の特権階級は根強い。

 逆にいえば、ブラムウェルは鍛冶ギルドの代表としてではなく、侯爵の権威を利用して、アリシアを攻撃することはできた。

 それをしなかったのは、ブラムウェルの戦略だろう。

 つまり冒険者のほんどは一般市民なので、いくらブラムウェルが鍛冶ギルドのギルマスとはいえ、貴族の権力を振り回せば批判は避けられない。

 そこまで頭がまわるのだから、ブラムウェルは最低限の知能はあるわけだ。

 

 エドキンズ家の大豪邸から、私設兵がぞろぞろとやってきて、アリシアたちを囲む。

 これはただの私設兵ではなく腕ききぞろいで、〈竜紀隊〉と呼称されている。


 ボーが怒鳴った。

「おい、これは何事だ! お客人をお連れしたんだぞ!」


 するとブラムウェル自身が、護衛をかたわらに連れてやって来た。

「客人だと? 錬成店の店長が、いつから僕の客人になったりしたんだ?」

「ブラムウェル……。てっきり、アリシアさんと約束があるのかと」


 アリシアが前に出る。

「ボーさんに非はありません。私がわざわざ訂正しなかったのがいけなかったのです。ブラムウェルさん。本日は、あなたにお話しがあって来ました。あなたの命にかかわることですよ」


 ブラムウェルが嬉しそうに言った。

「はは、ついに化けの皮がはがれたな! いまのは脅しだろう! 貴族を脅すとは、どんな了見だ! その命をもって償ってもらおうか! その女を殺せ!」


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