表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/105

67,訪問販売。

 

 まず呪い対象リストから、死亡した者を横線で消す。

 その作業を行ったのはチェットだった。


「それにしても、人数が凄いですね。クランというだけあって、該当人物がこの人数。ただよくこれだけの数の子孫が、みな王都にいますね。あと面白いのは、ブラムウェル以外は現役で冒険者をやっていることです」

「なるほど。それが発動条件なのでしょう」

「発動条件とは店長?」

「『標的だけを、消せぬ火炎で焼き殺す』とは、かなり強力な攻撃ですからね。発動条件も厳しいはず。おそらく『標的の子孫が全員冒険者となっている』または、『子孫全員が王都にいる』。もしくは、その両方とも」

「ですがブラムウェルだけは別なんですね?」

「それはクラン〈風見鶏〉がユード村を虐殺したとき、ブラムウェルの先祖はいまと同じく、鍛冶ギルドのギルマスだったからでしょう」

「そうですよね。エドキンズ家は、代々、鍛冶ギルドのギルマスだったんですから──あれ。ということは、なぜエドンズの者が、冒険者ギルドのクランである〈風見鶏〉とかかわりが?」

「さぁ、どうしてでしょうね」


 アリシアはだいたいのところ推測はついていたが、いまは優先順位として高くはない。


「チェット君。いまは一人でも多く、人体発火が起きる前に、生存者のもとに行くことです」

「そ、そうでした、すみません。いまは一人でも多くの命を救うこと、ですよね!」

「ええ、そうですね」


 やろうと思えば──いまこの場から、すべてのリストの生存者に、『呪術による火炎耐性』を付与することは、できる。

 できるが、アリシアはそんなことはしない。

 商売人が慈善事業しだすと資本主義の概念が崩壊し、世界秩序がひっくり返る──とまでは考えていないが、別段、そこまで人助けに燃える性格でもない。


 しばらくして、チェットがリストを完成させた。

「すでにかなり犠牲になっていますが、まだ18名を助けることができますね」


 シーラから受け取った冒険者ギルドの住所録から、18名の住所を確認する。

「夜間ならばみな自宅にいるでしょう。寝ているところを起こしてしまいますが、まぁ、それくらいは我慢していただくとしましょうか」


 チェット宅をスタートとして、効率よく全員を回るルートを作成した。

 すると狙ったわけではないが、最後に訪問するのがブラムウェルとなった。


「ところでアリシア。ライラと結託して、何か企んでいるようだね」

 アリシアがチェットと出立しようとしたとき、見送りのシーラがそう言う。


「企み、というほどでもありませんが。もうじき鍛冶ギルドは冒険者の武具を作れなくなるので、そのためにフリーの武具店主を連れてきてもらっただけです」

「『鍛冶ギルドは冒険者の武具を作れなくなる』が、企みなんだよなぁ~。まぁ自覚はあるだろうけども」


 はじめに訪れたのはマーティンという〈ソードマスター〉の冒険者宅だった。

 マーティンは、アリシアの急な訪問に驚いていたが、さらにアリシアの説明を聞いて愕然とする。


「そうだったのか……どうりで、生前ビクターが変なことを言ってきたと思いましたよ。『お前は父親からユード村のことを聞いたことがあるか』と。おれが『ない』と答えると、『そうか』と言って行ってしまいましたが」

「ロンなども、おそらく代々、ユード村の惨劇について聞かされていたのでしょう。その理由は、よく分かりませんが。贖罪を頼みたかったわけではないでしょうから、もしかすると犠牲者の怨念に気をつけろ、ということだったのかもしれません。なんといっても、呪術師の生まれる村を虐殺したわけですからね」

「どうして、高祖父はそんなことをしたんでしょう……」

「さぁ。とにかくマーティンさん。『呪術の火炎耐性』の効果付与、300万ドラクマです。いかがしますか?」

「こ、購入します、どうか購入させてください!」


 マーティンは一括で支払ってくれた。

 分割払いについては、購入者が本当に手元にお金が足りない場合に限る。

 マーティンはAランク冒険者でもあるので、まずお金はあると思ったし、事実その通りだった。


 アリシアはそのようにして、チェットとともにリストの相手を回った。

 いわば訪問販売。

 なかにはアリシアの言葉を信じぬ者もいた。たとえば、バートという〈ポープ〉は。


「呪いだと? ばかばかしい。あんたは詐欺師という噂だぞ」


 チェットが「店長が詐欺師だと!」と怒り出すので、アリシアが片手で止める。


「でしたら、かまいません。お邪魔しました──ですがひとつだけお願いしたいのです、バートさん」

「なんだよ?」

「実際にあなたのお体に呪術よる発火がおき、あなたの全身が燃えだし、地獄の苦しみを感じているとき──

 どうか、私のことは怨まないでくださいね。私が、あなたの装備品に『呪術による火炎耐性』を付与しなかったからといっても。あなたがお決めになったことなのですからね。あなたがお決めになったのですよ、バートさん」

「……」


 アリシアが立ち去ろうとすると、青ざめた顔のバートが止めてきた。

「ま、まて! まってください、アリシアさん。あの、考えが変わりました。どうか、私にも『呪術による火炎耐性』の効果付与をお願いします!」

お読みいだたき、ありがとうございました。ブックマーク登録、評価などお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ