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66/105

66,呪術耐性。

 


 数時間後。

 夕飯時ということで、チェットが夕食を作ってくれた。


 濃厚でとろりとしたルーに、野菜や肉がぎっしりと詰まったシチューを。

 スプーンですくうと、とろけるように柔らかく、口の中に広がる深みのある味わいがたまらなく美味しい。

 アリシアがつくづく、(チェット君は職業選択を間違えましたね)と思っていると、シーラが戻ってきた。


「美味しそうな匂いだね」

「チェット君が腕をふるってくれました」


 シーラも味見する。

「へぇ、美味しい。チェット、君は仕事を間違えたんじゃないの。どこかのシェフになれば?」

「いえいえ、チェット君は錬成店の店員として、まだまだ働いてもらわねば困りますよ」


 チェットが照れ笑いしながら、

「いやぁ、僕、人気者みたいですね。あの、店長、でしたらそろそろ給料をあげてもらったりしませんかね?」


 アリシアは返答せず、淡々とシチューを食べている。

 墓場のような沈黙が降りたので、チェットが慌てて言った。


「あの、冗談ですよっ! 本当に冗談ですよ、店長!」


 夕食後。シーラは『収納10倍』の袋をテーブルにのせた。

「さて、私がどのような冒険をしてきたか知りたい人はいるかな?」


 シーラは、〈裏鼠〉アーロンの隠れ家に行ってきたのだった。

 手順はこう。

 まずチェットが王都ダンジョン最下層に行き、そこの保管箱にしまわれていた、〈滅却せし獣〉が殺した侵入者のカウント材料を回収。

 すなわち人体パーツの中から、アーロンの生痕の人体パーツを回収したわけだ。

 ところで、これらの人体パーツがこうして保管されているのは、とくに深い意味はないが、おそらく〈滅却せし獣〉の趣味。トロフィーを飾りたい性格なのかもしれない。


 このアローンの人体パーツの臭気を追跡できるよう、『装備者が臭気を追跡することができる』効果を、シーラの短剣に付与。

 しかしシーラが難色を示す。


「犬みたいに這いつくばって匂いを追っていけって?」

「いえ、臭気の跡を視認できるので、それを追ってください」


 シーラはこの臭気を追跡して、いろいろな回り道をしながら、ついにアーロンの隠れ家を見つける。


 この手の隠れ家というのは、〈裏鼠〉も知らない場合が多い。いざようのセーフハウスというわけだ。

 傭兵稼業のシーラもこの手のものを王都内に複数もっているので(それほどに王都は広く入り組んでいる)、アーロンも所有しているだろうと考えていた。

 つまり偽名で、何年分も家賃を前払いしてあったりして、誰も気にせずに放置されている部屋。

 そんな部屋から、シーラはいくつか興味深そうなものを取ってきた。


 そして現在。

「その中でも、面白いものがあったね。古い日誌と、リストが書かれたメモ。このリストは殴り書きで、まるで自動筆記でもしたかのようだったね」


 アリシアは古い日誌を取り上げ、一気にめくっていった。

「古い日誌には、ユード村のことがいろいろと書かれています。日誌の古さからしても、ユード村に住んでいた者──アーロンの四世代前にあたる先祖のかたのではないでしょうか」


「えーと。店長、いまぺらぺらめくっただけで読んだんですか? 速読って、効果付与で?」とチェット。

「そんなくだらない効果をいちいち付与したりはしません」

「え、くだらな、?」


 シーラがリストを、アリシアの前にすべらせる。

「ひとつ仮説をたててみた。たとえば、アーロンの祖先、つまりユード村に住んでいて、クラン〈風見鶏〉の犠牲にあった〈ウィッチドクター〉の『怨念』のようなものが、この日誌にこもっていたとしよう。

 アーロンはその日誌を読み、いわば呪われた。で、リストを書いた。というか、書かされた、かな。当人にどこまで自覚があったか知らないけど──そのリストとは、」


 アリシアはうなずき、

「〈風見鶏〉に所属していた者たちの子孫の名、ですね。ふむ。このリストには確かに、ロンやビクターの名もありますね」


「そーいうこと。まだ、人体発火の犠牲にあっていない者も、これだけいる」

「では、このリストにある生存者たち全員に、個別で会うとしましょうか。いまは錬成店も臨時休業中ですし」

「つまり個別に、『呪術による火炎耐性』効果を付与してあげると?」

「少し違いますね。われわれがつかんだ真実を話し、『呪術による火炎耐性』の効果付与が可能であることを話すわけです」


 シーラは得心がいったという様子でうなずく。

「値段は?」


「沈牢草はだいぶレアリティの高い素材ですからね。300万ドラクマというところでしょう。ただし命がかかわっているので、今回だけは特例として分割払いを受け入れましょう」


 シーラが深くうなずく。

「慈悲深いなぁ~」


 そのそばでチェットが深く悩んだ様子で言う。

「慈悲深い、んですかね、これは? 慈悲とは一体……………」

 そうして悩みながら、リストを眺める。するといきなり大声をあげた。

「わぁぁ、これは本当ですか!? お二人とも、気づいていますか?! このリストの最後にある名前を」


 アリシアとシーラは顔を見合わせた。

 シーラは肩をゆすって、

「まぁ、目が引く名前ではあるよねぇ」


 チェットはあらためてリストを見て、

「ブラムウェル・エドキンズ。鍛冶ギルドのギルマスじゃないですか!」

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