64,予告。
アリシアはしばらく王都を離れることにした。
鍛冶ギルドの要求に従おうというわけだ。
興味深いのは〈銀行〉が追いかけてこないこと。
借金はまだまったく返せていないのに。
〈銀行〉には〈銀行〉の企みがあるのだろうが、いま放置してくれているのは、ありがたい。
鍛冶ギルドと〈銀行〉を同時に相手取るのは、少々、骨だったろうから。
ちなみに借金返済のために錬成スキルで得たお金は、いまは王都ダンジョン最下層においてきた『収納100倍』『重量100分の1』効果付与の小さな金庫の中に入っている。
〈滅却せし獣〉が守ってくれることだろう。
王都を出るとき、別々のタイミングで三人の人物と会うことになった。
まず〈テンプルナイト〉のエブリ。
「王都を出るって、本当なんですね」
「ええ。しばらくのあいだ、ですが」
「戻ってくるんですか?」
「ええ」
「すみません、アリシアさん。恩人のあなたの助けになれず。ですが鍛冶ギルドも、冒険者にとっては必要なんです。彼らのブラックリストに入れられては、武具を購入できなくなりますからね。それに鍛冶素材も冒険者ギルドが買い取ってくれなくなるし」
「ええ、分かっていますよ。エブリさん、気になさらないでください」
悔しそうなエブリと別れてしばらく進むと、こんどはケールが現れた。
「あなたのことですから、このまま尻尾をまいて逃げることはないんでしょうね」
「そうですか? 私は、そこまで好戦的な人間ではありませんが」
「さて、どうでしょうね。オークションのとき、ガボットを叩きのめしたのは、いまでも語り草ですぜ」
「ガボットさんですか……先日、固形石鹸で足をすべらせて亡くなったそうで」
「まぁ、あいつは酒のみでしたからね。泥酔して風呂に入ろうとしたんでしょう。あんな奴のことはどでもいいんですよ。アリシアさん。鍛冶ギルドは、冒険者にとって必要なギルド、ということだけは頭に入れておいてくださいよ」
「分かっていますよ、ケールさん。まるで私が、鍛冶ギルドを滅ぼすことを危惧しているようではありませんか?」
「ええ、まぁ、あなたなら──いえ、なんでもありません。では、またお会いしましょう」
ケールも立ち去る。
こうして独りで、てくてくと王都を囲う城壁の正門(象が何十体も通れるほど広い)を前にしたころ、鍛冶ギルドのギルマスであるブラムウェルが、部下を引き連れて現れた。
「お見送りしてくださるのですか、ブラムウェルさん?」
「詐欺女。少しは賢かったようだな。ちゃんと警告どおり王都を出るとは──だがよく聞けよ。僕の鍛冶ギルドは、何もこの王都だけじゃない。すべての城郭都市には支部を持っているんだ。だからどこの城郭都市だろうと、錬成店をはじめたら、僕の耳に届く。そのときは、分かっているだろうな?」
「ええ。肝に銘じておきましょう」
すっかり勝ち誇った様子のブラムウェル(そもそも勝負をしていた覚えもアリシアにはなかったが)。ふと思いついた様子で、アリシアの腹部を殴るフリをした。
アリシアはとっさに半歩後ろへと回避行動をとる。
とたんブラムウェルとその取り巻きたちが、大笑いした。
「ブラムウェルさん、プラムウェルさん。あまりそういうことは、しないほうが良いですよ」
「『そういうこと』とは、どういうことかな?」
「他人を見下すのは、よくないですよブラムウェルさん。いつか、自分に返ってきますよ。そういうことは、返ってきます」
ブラムウェルは嘲笑して、
「とっとと失せろ、詐欺女」
「では、失礼します」
王都を出て、しばらく都市と都市をつなぐ街道を進む。
いつのまにかライラが隣を歩いていた。シーラ以上に気配を消すのがうまいとは。
この少女は、チートの効果付与がなくとも、はじめから冒険者としての素質があったのでは?
「鍛冶素材はどうですか?」
「大量よ、お姉さん。さ、ついてきて」
ライラの案内で、街道から外れたところにある、廃れた宿に向かった。そこの宿で待っていたのが、大柄な男。
ライラが紹介する。
「こちら、ダングさん」
アリシアは挨拶した。
「はじめまして、ダングさん。あなたが戻ってきてくださって良かったです」
「へえ、そうですかい?」とダング。
「ええ。冒険者たちにとって、武具は不可欠です。あなたは、腕のよい鍛冶職人と聞きましたよ?」
このダングこそが、かつて鍛冶ギルドには所属せず、フリーで王都に武具店を開いた鍛冶師だった。
ところが鍛冶ギルドによって店を焼かれ、妻子の身も危ないからと、王都を脱出していたのだ。
そこをアリシアがライラに頼み、捜しだして連れ戻してもらったのだった。
「鍛冶ギルドが、武具は作るでしょう。これまでのように、これからも」
「そうでしょうか? 鍛冶ギルドは、確かにこれまでは武具を作ってきました。ですが、これからも冒険者たちのために、武具を作ることができるでしょうか?」
ダングは不可解そうに言う。
「一体、何が言いたいんだい、あんたは?」
「私が思うに、鍛冶ギルドはもうじき、武具を作れなくなるということです。少なくとも、冒険者が装備したくなるような武器は」
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