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62,呪術対策。

 


 鍛冶ギルドによる襲撃があったことを、シーラはチェットから聞いた。

 だがアリシアからは、とくに何も報告はない。

 つまりアリシアは現時点では、シーラの力を必要とはしていないということだ。


 だからシーラも、鍛冶ギルドの件は尋ねず、『人体発火』の調査報告のみ伝えた。


「ユード村、虐殺、クラン〈風見鶏〉、そして〈ウィッチドクター〉ですか。面白いものを掘り当てましたね、シーラさん」

「だけどさ、アリシア。君はだいたいのところは予測がついていたんじゃないの? 私に過去を探らせた時点で。人体発火の犠牲者たちの共通項は、その先祖にあるんじゃないかと」

「実のところ、せいぜい親世代だと思っていましたが。まさか四世代も前にさかのぼるとは──すると問題は、」

「なぜ今なのか、だね?」

「それはシーラさんの問題です。私の問題は、呪術による人体発火に対抗できる効果を創造することでしょう」

「ふーん。確かに。じゃ、それぞれベストを尽くすとしようか」


 というわけで解散。

 シーラを見送ったアリシアは、すでにある程度はまとめていた特殊効果のレシピを一考する。


 確かに現代において、〈ウィッチドクター〉なるジョブの者はいない。

 ただ確かに冒険者ギルドの記録に問い合わせれば、そのようなジョブが存在はしているらしい。

 だからアリシアが創造することになった〈テンプルナイト〉とは事情が違うわけだ。

 その上で、〈ウィッチドクター〉がいまの時代に現れないということは、呪術も廃れた、ということ。

 魔法系統と呪術系統は、かつては二大勢力としてあった。

 が、徐々に魔法系統の勢力が優勢となり、最後にはユード村の出身者しか〈ウィッチドクター〉になる者はいなくなった。

 そしてそのユード村も虐殺されたので、ついに呪術は滅びた。

 今回、人体発火現象として蘇るまでは。


 効果付与による『火炎耐性』は、通常の火炎属性攻撃と、魔法攻撃のみに対抗できるよう調整してあった。

 そのため呪術系統の火炎には、一切、抵抗できなかったわけだ。


『火炎耐性』の素材は、火炎属性に対抗するための火焔晶、その効力を魔法攻撃にまで発展させる魔銀晶。それらをかけあわせる無ガ石。

 つまり魔銀晶ではなく、対呪術的な、何かの素材。

 素材保管庫の中には、それに適合する素材がない。


(ふむ。素材が足りていませんね。ですが、いまシーラさんは、人体発火のさらなる真相を突き止めるので忙しい。となると、私の手札にあるカードでは、)


「チェット君」

「はい、なんですか店長?」

「あなたに素材集めをしてきていただきます」

「…………あの、それはつまり、僕に危険極まりないダンジョンに潜ってこい、と?」

「ええ。ですが潜るというより『上がる』ですね。最下層から、少し上がるだけですよ」

「最下層から??」


 というわけで、地下室への扉のゲートを起動して、王都ダンジョン最下層に接続する。

 チェットに、『収納10倍』と『重量10分の1』効果付与の袋を持たせて。


「さ、チェット君。最下層からひとつ上の階層にあがり、ささっとよさそうな素材を集めてきてください。ただ最下層は封印されているので、一時的に解除するよう〈滅却せし獣〉殿に頼んでくださいね」


「あの、確かに最下層からスタートできるので、長く危険なダンジョン攻略をする必要は、ありませんよ。ですが、その最下層の上にいる魔物は、かなーり強力なのでは? 僕なんぞは瞬殺できるほどに」


「ええ。ですからエンカウントは避けて、常に逃げの姿勢で挑めばよいと思いますよ。お尻に帆をかけて」

「え、なんですって?」

「お尻に帆ですよ。さ、チェット君、頑張ってください」


 チェットを送り出したところで、アリシアは呪術対策から、鍛冶ギルド対策へと意識を転ずる。

 否、こちらの場合、対策というよりすでに戦争。

 そして、これはどちらかが滅びるまで続く戦争だろう。

 鍛冶ギルドは錬成店を潰すつもりだ。

 が、アリシアも借金を完済するまでは、店を畳むつもりはない。

 ならば鍛冶ギルドには退場してもらうしかない。


「しかし、シーラさんもチェット君も忙しいので、手が足りていませんね。ひとつ手紙を書くとしますか」


 王国では手紙の郵送には、いくつか方法がある。

 郵便ギルドに託すのが安上がりだが、バカ高い伝書フクロウ屋に頼むのも手。

 後者の場合、隣の城郭都市くらいなら即日郵送も可能。

 というわけで、伝書フクロウ屋に手紙を渡しにいった。

 あて先は──城郭都市オールドを拠点に活動している冒険者。


 その夜。

 自宅で寝支度をしていると、寝室に人の気配があった。

 鍛冶ギルドの襲撃にしては静かな登場だ。

 寝室に入ると、クレイモアを背負ったライラが立っていた。

「錬成店のお姉さん。助けてという手紙が届いたから、大急ぎでオールドから来たわよ」


「頼りになりますね、ライラさん」

「お姉さんは、あたしの恩人みたいなものだもの。それで、何をしてほしいのかしら? 暴力沙汰? 任せて。血みどろ祭り? オーケイ」

「いえ、いまのところは、ただ人探しをお願いしたく呼んだのです」


 ちょっとがっかりした様子のライラ。

「人探し? ふーん。まぁ、いいけどね」

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