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61,宣戦布告。


 痛いところをつかれると、恥じ入る人も多い。

 一方で、逆に怒りをあらわにする者もいる。

 鍛冶ギルドの第78代ギルマスであるブラムウェルは、後者だった。


「自分が錬成スキルという詐欺で儲けているのに、まるでわれわれ鍛冶ギルドが『商売敵を潰そうとしている』と責めるのか? 君は、鍛冶ギルドの重みを知らないようだな。鍛冶ギルドは、冒険者ギルドより古くから存在しているんだぞ」


「そういえば、何年か前。鍛冶ギルドに所属しない、フリーの武器店が王都で開店したことがありましたね。ところが数日後、謎の不審火で全焼してしまいましたね」


 なんという重複表現。しかし『謎の不審火』としかいいようがなかった。

 ブラムウェルが怒声を発する。

「鍛冶ギルドが自分たちの既得権益を守るため、フリーの武具店を破壊した──君は、そう言いたいのか!」

「そうなのですか?」

「なんだと?」

「いえ、私は微塵も考えたことがありませんでしたよ。まさか鍛冶ギルドが、既得権益を守るため、フリーの武具店に火をつけた、なんて」


 ブラムウェルの顔が怒りで真っ赤になる。が、ここで一気に引いていったようで、やがてくっくっと笑い出す。

「まぁ、いいだろう。君が厚顔無恥な詐欺師である以上、どんなたわ言を吐いてもらっても構わないさ」


 そのわりには、だいぶお怒りのようだったが。

 とはいえアリシアも、ブラムウェルの自制心を試しているほど暇ではない。

 そこで本題を口にした。


「よいですか、ブラムウェルさん。私は、あなたがたと敵対するつもりはありませんよ」

「ほう。どういうことか、聞いてやろう」

「錬成店をはじめるにあたって、私には二つの選択肢がありました。ひとつは、いまのような形態。冒険者が装備しているものに効果を付与し、代金を得る。

 ただもうひとつの選択もあったのです。こちらでまず安い武具を買い取り、それらに効果を付与して冒険者に売る、という。こちらの選択をとらなかったのは、鍛冶ギルドの武具店の商売敵になってしまうと思ったからですよ。私は、あなたがたと共存していきたい考えです」


 実際のところは、『効果を付与して売る』のほうが利益になる、と判断したに過ぎないが。

 そもそも鍛冶ギルドのことは、頭になかった。


 プラムウェルではなく、そばにいた側近らしき男が怒鳴る。

「てめぇ、さっきから黙ってきいてりゃあいい気になりやがって!!」


 だがブラムウェルが片手をあげて、黙らせる。対照的にブラムウェルは、すっかり冷静になったようだ。というより冷淡か。

「鍛冶ギルドのギルマスとして、王都で身勝手にふるまう詐欺師は黙っていられない。お前の『火炎耐性』というインチキ効果によって、すでに死人も何人も出ているわけだからな」


「人体発火は、店長と関係ないだろ!」

 と、拘束されて転がっていたチェットが怒鳴る。

 とたん近くにいた鍛冶ギルドの者が、チェットの顔面を蹴飛ばした。


 アリシアは溜息をつく。

「私の店員に暴力を振るわないでいただきたいのですが?」


「暴力だって? 僕の部下が、足をすべらせただけのことだ。ここにいるみなが、その証人となる。そうだろ、みんな?」


 すると鍛冶ギルドの者たちが、一斉に同意した。

「これが最後の警告だぞ、インチキ錬成屋。すぐに店をたたんで、王都から消えろ。さもなければ」


「さもなければ?」


 とたんブラムウェルが右拳を繰り出し、アリシアの腹部を殴りつけた。なかなか鋭いパンチで、アリシアの反射神経も対処できなかった。

 アリシアは腹をおさえて、片膝をつく。


 ニヤニヤ笑いながら、ブラムウェルが見下ろしてきた。

「いまならまだ、この程度で許してやる。だが次は、こんなものじゃ済まないぞ──いくぞ」


 そうして鍛冶ギルドの配下たちを連れて、錬成店から立ち去った。


 アリシアは殴られた腹部をさすってから、チェットのもとまで行く。

 チェットは気絶しており、鼻が潰れていた。


 アリシアは一考してから、店の奥まで行き、ただの箒を取り出す。

 それから治癒晶を素材として、『治癒効果を得る』の効果を付与。

 即席の回復杖となった箒で、チェットの顔面の傷を癒す。


「大丈夫ですか、チェット君」

「うう、すみません店長、お力になれず」

「いえ、お気になさらずに。チェット君は暴力とは縁がない人ですからね。それで良いのですよ」


 それからアリシアは、己の内奥で、何か感情が起きていないかと掘り下げてみる。怒りとか、屈辱とかを。

 しかし、何も見つからなかった。

 残念ながら、アリシアはまったくの無感情ではあったが、しかし錬成店の店長としては、淡々として行おう。


「分かりました、ブラムウェルさん。戦争がお望みでしたら、私も渋々ながら、本気でやらせていただきますね」


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