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60,鍛冶ギルド。



 夕暮れどき。

 錬成店をしめようとしていると、予約帳には記載されていない客人がやってきた。


 普段、アリシアはこのような飛び入りは認めない。

 が、時おり気まぐれ的に受け入れることもある。


 たとえば、その客人が鍛冶ギルドのギルマスだったりした場合は。

 鍛冶ギルドのギルマスは、現在、78代目。

 実は鍛冶ギルドは冒険者ギルドより歴史がある。

 また冒険者ギルドのギルマスが『政治力』を持つ者がなるパターンが多いのに対して、鍛冶ギルドは血筋。

 つまり、エドキンズ家の血脈のもとギルマスは決まっており、いまのギルマスの父親は第77代目だった。

 その父親が病気で早く亡くなったこともあり、いまのブラムウェルは、まだ19歳でありながらギルマスの地位を就任した。

 それが去年のことらしい。


「ブラムウェルさん。意外ですね。鍛冶ギルドは、錬成店を受け入れてくださっていないのかと思いました」


「もちろん受け入れてなどいないさ。それどころか、僕は最後通牒をつきつけにきたんだ。錬成スキルというインチキで、これ以上、冒険者たちを惑わさないでもらいたい」


 ブラムウェルのその言葉が合図だったかのように、路地裏にでも隠れていた男女が10人ほど、ぞろぞろとやってくる。

 どうやら鍛冶ギルドの者たちのようで、ギルマスのブラムウェルに続いてきたようだ。


 ここでアリシアは、自分でもなぜか分からないが、笑い出しそうになった。

 しかしここで笑うのは場違いというか、空気を読まなすぎそうだったので、真面目な顔をする。


 このとき店の裏手にいたチェットが戻ってきて、悲鳴を上げる。

「うわぁぁ、なんなんですかっっ!」


「おい黙らせろ」


 ブラムウェルの命令で、斧を持った鍛冶ギルドの大男が、チェットに迫る。

 チェットは元冒険者( Fランクではあるが)の意地を見せようとしたが、あえなく返り討ちにあい、拘束されてしまった。

 元冒険者……。


 シーラ不在なのは良かった。

 さすがにシーラがいたら、ここいらで表に出てきて、血の雨を降らせていただろう。

 が、鍛冶ギルドの者たちを殺しすぎると、さすがに商売に影響が出る。ここにはギルマスもいることだし。


 アリシアはチェットから視線を転じて、ブラムウェルへと戻す。

「インチキ、ですか? それはさすがに、聞き捨てならないですね。私の錬成スキルはインチキではなく、多数の効果付与を受けた冒険者たちが、それを認めてくださるはずですよ」


 しかし、そんなことはどうでもいいのだろう。

 ブラムウェルも、アリシアの錬成スキルがインチキだと、『本気で』信じているわけではなさそうだ。

 ただ『インチキ』ということにしなければ、排除できない。

 排除するべき理由として、インチキ、詐欺などを利用しようとしている。


『錬成スキルによる効果付与などはインチキであり、冒険者たちから大金を巻き上げるための詐欺商売だったのだ』という大義名分をかかげる必要性があるわけだ。

 商売敵を排除するためには。


 アリシアは口をひらいて、

「こんな風の噂を聞きました。

 ここのところ武具店の売り上げが落ちているとか。

 武具店といいましても、つまるところ鍛冶ギルドのお店ですからね。あなたがたは、冒険者ギルドより鍛冶素材を買い取り、武具をつくる。魔物を倒すことのできる武具です。それを王都や各都市にある武具店で、冒険者に売っている。

 ところが最大の収益を見込める王都の武具店の売り上げが、がくんと下がっているそうですね」


 ブラムウェルは不愉快そうに言う。

「何が言いたい?」


「いえ。ただこれまで冒険者たちは、魔物を倒せる強い武器を装備したかったら、武具店で、鍛冶素材を使った高価な武器を購入するしかなかった。

 ところがいまや『強い武器』を装備するための、もうひとつの選択肢が生まれたわけです」


「選択肢、だと?」


「はい。つまり『武具店で安い武器を購入し、錬成店で強い効果を付与してもらう』という選択肢ですよ。

 そして、そのような選択を取る冒険者が増えれば、そのぶん武具店で売れる武器の価格は下がる。これまでは100万ドラクマの剣を買っていた者が、その剣が壊れたとする。

 すると今度は、1万ドラクマの剣を購入し、残りの99万ドラクマで、錬成店から効果付与を買う。

 しかも効果付与の場合、冒険者側の好みの効果を得ることができる。つまり、自分で武器をカスタマイズすることができるわけです」


「だから、なんだというんだ?」

「いえ。それが理由で、鍛冶ギルドは錬成店を目の敵にしているのかな、と思いまして。これまで王都で独占市場に君臨していたのに、思いがけず商売敵が現れて、イライラしているのかなと」


 ブラムウェルは、なかなかに凶悪そうな表情をした。


(さて、どうやら鍛冶ギルドの若きギルマスを、怒らせてしまったようですね)



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