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6,傭兵雇用。



 協力者の条件は、複数ある。

 まず冒険者ではないこと。

 

 冒険者はどうしても、冒険者ギルドに忠誠を誓っているところがある。魔法水晶の真の価値を知って、冒険者ギルドに報告せずにいられるだろうか。

 報告しない冒険者もいるだろう。だが見極めるのは難しいし、時間もない。

 そこをいくと、初めから冒険者でなければ、問題がない。


 その上で、アウトローが良い。

 魔法水晶が採取できるダンジョンは、王国の法律により冒険者のみが入れる。

 つまり冒険者カードを所持している者だけが。


 協力者には冒険者カードを偽造してもらうことになるだろう。

 よって少しの法律違反は良しとできる、アウトロー。

 そのアウトローは、強くなくてはいけない。ソロでダンジョンの深くに入り込み、魔法水晶を採取してきてもらうのだから。それも大量に。

 何度もダンジョンに潜ってもらうことになるだろう。もちろん生還して。これは並大抵ではない。


「この条件に当てはまる者がいるとするならば──それは傭兵でしょう」


 傭兵は、冒険者崩れとも呼ばれる。たいていが冒険者ギルドから追放されたか、そもそも入会できなかった者たちがなる。

 この『入会できなかった』は、実力不足というより、何かしらの経歴に汚点がある場合。たとえば前科があるとか。


 ただし傭兵は、ある意味では冒険者よりも信用ができない。それでも冒険者ギルドに忠誠を誓っていない点と、自己の利益を最大に求めるあたりは、『信用』できるが。


 傭兵には傭兵のランクがある。ランクが高ければ、それだけ雇うにもお金がかかる。

 アリシアは実際的な性格だが、同時に運命に身を任せるところがあった。

 傭兵を雇う、という点までは熟考して決めた。あとは運任せでもいいだろう。


 現在、王都内で活動している傭兵のリストを入手。

 その上で、名前や経歴などは見ずに、目をつむって指さしみる。

 目を開ける。17歳、シーラ、女性。〈狼使い〉。

 ランクは最も低く、そもそもまだ実績がない。傭兵になって三か月。まだ信用がなく依頼も回ってきていないのかもしれない。少なくとも死んではいない。


「これが運命でしょう、シーラさん」


 さっそく傭兵派遣ギルドに連絡を取り、シーラを雇いたいと話す。冒険者ギルドとは違い、傭兵派遣ギルドは『ギルド』とはいえ、仲間意識などはない。ただの連絡係であり、個人では連絡のつけにくい傭兵を雇うための方法でしかない。


 シーラとは、王都の外れで会った。

 ポーラに見つかると、シーラのことを話さなければならなくなるので。


 シーラは赤い髪の、傭兵というには華奢な肢体だった。短剣使いのようだ。それと〈狼使い〉というが、子犬のような狼がなついている。通り名は自分で決められるのだろう、とアリシアはなんとなく思った。


「はじめまして、シーラさん。私が、これからあなたの雇い主となる、アリシアです。よろしく」


 シーラは眉間にしわを寄せた。

「『これから』? 長期雇用ということかな?」

「はい。あなたが、私の満足のいく働きをしてくだされば。ひとまず、死なないようにお願いします。雇った傭兵に死なれるのは、寝覚めが悪いので」

「本当に? 君は、あまり人の生き死にに興味がないように思えるけどなぁ」


 観察眼はなかなか。あとは実戦でどこまで活躍してくれるのか。

「依頼内容は、ダンジョンに潜っていただくことです。しかしシーラさんは冒険者ではないので──」

「問題ないよ。偽造屋くらい知っているさ」

「素晴らしい。ではダンジョンに潜っていただきまして──」


 ダンジョンとは、先史文明が創ったもので、世界各地に複数ある。王国には3か所。王都から最も近い場所で、徒歩で三時間の距離。

 冒険者がよく探索クエストに出るのも、このダンジョン。

 ちなみにダンジョンから外に出てきた魔物を討伐するのが、冒険者のクエストのメインとなる。探索はサブクエスト扱いされるが、アリシアにはどうでもよいことではある。


「魔法水晶を採取してきていただきたいのです。多種多様の魔法水晶があるはずですので、できるだけ沢山」

 

 シーラは一考してから、

「では、その魔法水晶を、外国の細工師に売っていることにしようか」

「素晴らしいですね、シーラさん。そのようにしてください」


 このシーラという傭兵が、アリシアは気にいった。頭の回転が速い。

 アリシアが魔法水晶の採取を冒険者ではなく傭兵に依頼したことの意味を、すぐに読み取ってくれた。

 つまり冒険者には、魔法水晶を必要としていることを知られたくない、ということを。


 だからシーラが魔法水晶を集めているところを他の冒険者が疑問に思った場合に備えて、外国の細工師に売っている、と説明しておくことにする、と。

 これなら王都の細工師ではなく外国の細工師なので真偽の確かめようはないし、外国の細工師には魔法水晶が高く売れるのだろう、程度の推測で済む。


「あなたが腕のたつ傭兵だと良いのですが」


シーラは微笑んだ。

「それは問題ないよ」


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