表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/105

57,暴徒。

 

 アリシアは脳内でカウントした。


 1、2、3……燃え出したビクターは、火達磨と化し、とぼとぼと歩く。


 絶叫が聞こえないのは、はじめに口を開いたとき気管や肺が燃えたからだろう。

 そもそも体内から燃えだしたのかもしれない。

 凄まじい火力──にしては、あまり近くにいても熱を感じない。


 アリシアは一考する。

(やはり、特殊な火炎……魔法でさえないのですから、これは滅多にお目にかかれない火炎でしょう)


 知的好奇心。

 8秒後。火炎は消えた。

 残ったのは、炭の塊のようなものになったビクターの焼死体。

 しかも立ったままで硬直している。興味深いのは、ビクターが装備していた巨大斧も焼けて崩れたことだ。


(装備品まで燃やすのですね。ですが断言してもかまいませんが、たとえば燃えているビクターに誰かが抱き着いても、その者にまで火が移ることはなかったでしょうね)


 しばらくして風が吹き、黒焦げのビクターの死体を倒す。

 とたんバラバラになって転がっていった。

 アリシアの足元には、ビクターの炭化した右手。

 

 ここまで呆然として見ているだけだったまわりの冒険者たちが、ここではじめてパニックになり、叫びだす。なんとも遅い。

 この騒ぎに乗じて、アリシアは『炭化した右手』を回収しておく。あとで錬成スキルをかければ、人体発火の正体を分析できるかもしれない。


 ケールがハッとして、アリシアに言った。

「ここまずいですよ、アリシアさん。ここに集まった冒険者は、ビクターについてきた連中ばかり。つまり大半がアンチ錬成店と化している。つまり、誰かが点火すれば」

「ふむ」


 ケールの懸念通り、冒険者たちの中に、いわば扇動者といえる者が前に出る。そしてアリシア(またはその後ろの錬成店)を指さし、声を大にした。


「見ろ! あの女だ! あの女のせいで、ビクターまで犠牲になったぞ! あの女が、インチキの特殊効果なんぞを売りつけたせいで、ビクターが死んでしまったぞ!」


 まるでビクターを燃やしたのが錬成スキルであるかのような言い草。

 まともな思考回路ならば、こんなへたな扇動には乗らないはずだが。

 何人かは鍛冶ギルドの『サクラ』が混ざっているようで、一気に『アリシアのせいでビクターが焼け死んだ』の空気となる。

 はじめに扇動した男が、満足そうに周囲を見回す。


「壊せ! あの錬成店を、壊しちまえ!」

「そうだ! 壊せ!」

「詐欺師の店なんぞ壊してしまえ!」

「そしてこの詐欺女をひっ捕らえるんだ!」

「そうだ! 詐欺女を晒しものにしちまえ!」


 すっかり暴徒と化した冒険者(そのうち一割程度はサクラ)が、襲いかかろうとする。そこに白銀の鎧を身にまとった女騎士が飛び込んでくる。

「こら、やめなさい! あたしの恩人に指一本触れようものなら、ただじゃおかないわよ!」


 エブリだ。


 冒険者の一人が、エブリへと装備していた槍を向ける。

「この〈ブラックナイト〉が!」


 エブリが激高する。

「ブラックって……どう見ても、鎧の色からして違うでしょ。あたしは〈テンプルナイト〉です。アリシアさんの効果付与によって生まれた、新たなジョブです!」


「ジョブを創ったのですか?」

 ケールが仰天した様子で、アリシアに言う。

 アリシアは、このエブリが『秘密契約書に署名した重み』を理解していないようでガッカリした。ただしほとんどの暴徒化した冒険者たちは、エブリの発言を流している。


「ケールさん。この件は、他言無用でお願いしますね」

「え、あぁ、もちろんです。ジョブを創造したとなっては、ただごとではないですからな」


 チェットがアリシアの右手を握って引っ張る。

「と、とにかく店長、いまは逃げましょう!」

「では錬成店の裏側へ」


 ケールがエブリの隣に立ち、

「ここはおれたちに任せてください!」

「ありがとうございます」


 チェットと錬成店の裏側へまわり、そこの裏口から店内へ入る。

「え、店内に籠城するんですか?」とチェット。

「いえ、まったく遠くへ避難しましょう。シーラさん」


 アリシアと一緒にいるところを見られてはいけないので、シーラは地下室の近くで待機していた。

「やっ、無事で何より。最悪、私が飛び出すところだったよ」


 アリシアはいったん地下室の扉を閉めて、ドアノブのメモリを回す。

 アリシアがどこに避難しようとしているのか分かって、チェットがげんなりした。

「うっ。あそこ、ですか」


 地下室の扉のゲート機能を起動して、空間転移。

 アリシア、シーラ、チェットの三人は、ひとまず王都ダンジョン最下層へと避難することになった。

お読みいだたき、ありがとうございました。ブックマーク登録、評価などお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ