53,人体発火。
人体発火現象が起き始めたのは、実際は先週ころからだったらしい。
だが最初の犠牲者は、ランクの低い冒険者で、ジョブは魔導系。そのため火炎魔法に失敗して自滅した、程度に認識されていたようだ。
ところが今週に入って、まずBランク冒険者が、公衆の面前で突然に燃えだして死亡。
そのあとも、同じようにいきなり燃え出す──攻撃を受けたわけでもなく──冒険者が多発。
これはさすがに大事件と、騒ぎになりはじめた。
アリシアは初耳だったが、とりあえずロンの求めに応じて、『火炎耐性』の効果を付与する。
ロンが熱っぽく言う。
「この人体発火は、どうやら無差別らしいんですよ。無差別ですよっ。僕も危ないですからね」
「なんとなくですが、あなたは大丈夫な気がしますよ」
ロンからの依頼がひとつのキッカケとなったのか、その後は、『火炎耐性』の効果を求める依頼者が増える。
錬成相談の予約自体は人体発火が盛り上がる前に行った者たちなので、予約したときの依頼よりも、いまはこの人体発火対策のほうが重要と判断したのだろう。
確かにBランク冒険者も、原因不明で燃えて死んだとなっては、ほかの冒険者たちが怯えるのも無理はないかしもれない。
しかし──
(無差別? ですが真の無差別ならば、市民も犠牲になっているはずですね。王都では、どう見ても冒険者よりも、一般市民の数が多いのですから。何百倍も。しかし犠牲となっているのが冒険者だけならば、それは明確に冒険者を狙っている──興味深いですね)
とはいえ、この人体発火についてとくに調べるほど、アリシアも時間があるわけではなかった。
シーラも素材集めと、例の不動産競売の件で手一杯。
一方、翌日にはチェットがすっきりした顔で出勤してきて、
「聞いてください、店長。僕ははれて、一般市民ですっ!」
「いえ、あなたはわが錬成店の大事な店員さんですよ」
「あ、いえ、そういうことではなく、冒険者を辞めてきました」
「……」
「あの、僕がもとはFランク冒険者だったこと、もしやお忘れですか?」
「その反応、ロンさんと似ていますね」
「あんなヘボと一緒にしないでくださいよっ!!」
と、いきなり怒り出すチェット。
同族嫌悪、と口に出して言いそうになったが、どうでもいいことなのでスルーした。
とにかくこのタイミングでチェットが冒険者を辞めたのは、もともと才能がなかったからとはいえ、やはり人体発火の件が理由だろうか。
「チェットくん。例の人体発火現象ですが」
「いやぁ、危なかったですよ、僕もいつやられていたか」
「その反応もロンさんと似ていますよ」
「えっ!」
「冒険者を明確に狙った攻撃だと思いますが。犠牲となった冒険者たちには共通項はあるのでしょうか? たとえば、同じパーティに属していたとか」
「そんなことはないと思いますけども。同じパーティだったら、さすがに『どこそこのパーティが標的のようだ』と分かりますよ」
「確かに」
「店長は、この人体発火を『攻撃』と見ているようですけど。どうやらそうとも言い切れないみたいですよ。
魔導系の上位ランク冒険者が、犠牲となった黒焦げ死体を調べたらしいんです。ところが、魔法の痕跡はなかった。つまり火炎魔法などの攻撃を受けたわけじゃなかったんです」
「なるほど。そして公衆の面前でいきなり燃えたことから、『火炎属性を付与した武器で攻撃された』というわけでもないと」
「はい。もしかするとこれは、本当に自然現象ではないでしょうか?」
「冒険者限定の自然現象ですか? それはまた──ふむ」
「どうしました?」
「いえ、別に」
魔法ではなく、自然現象でもなく、火炎属性の攻撃を受けたわけでもなく、突然に人体を燃やす方法。
ひとつ可能性はある。
が、錬成店の店長が首を突っ込むことでもないだろう。
それに店員は、傭兵と一般市民。冒険者がいない以上は、犠牲者が出ることはない。
そう、錬成店から犠牲が出ることはなかった。
が、数日後。
チェットが暗い顔で報告してきた。
「店長。昨夜、ロンが人体発火で燃えだして、あっというまに焼死体になってしまったそうです。あのー、それであいつ、娼館にいましてね。ところが一緒にいた娼婦は火傷を負わなかったとか」
「ロンさんが……あっというまに燃えだし、死んだと?」
「ええ。目撃証言によると」
ロンには『火炎耐性』の効果を付与してあった。
しかしそれはロンの装備武器に、だ。ロンが情事に及ぶため装備を外していたならば、『火炎耐性』効果も解除されていた。
「それで、ですね。目撃証言によると、ロンの奴、えーと、娼婦と楽しんでいるところだったので、まぁ素っ裸だったんですが」
「はい」
「グローブだけは、外していなかったとか」
「……なるほど」
グローブ。
つまり、『火炎耐性』効果を付与してあったグローブは、外していなかった。
万が一、人体発火を受けたときに備えていたのだろう。
だが、『火炎耐性』は意味をなさなかった。
「これは……少々、揉めそうですね」
ロンが『火炎耐性』を付与してもらったと、周囲に話していた場合──これは揉めることになる。
そしてロンは生前、知り合いの冒険者たちに吹聴していたのだった。
──「錬成店の『火炎耐性』を付与してもらったから、僕は人体発火をくらっても安心さー」というように。
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